完璧な相性なんてないと、JKは言った

 ヒナマルはなおも、「顔が熱い」を連呼する。


 あまりに熱そうなので、川のあたりに二人で腰掛けた。


「いや、あたしさ、人からなにかしてもらったことって少ないんよ。相手になんかしてあげるばっかでさ。その人たちがあたしに抱いている感情も、わかってた」


 人付き合いに敏感なヒナマルは、彼らが何を求めているのかを肌で感じ取れてしまうのだ。


「この世界に来て、自分で全部なんとかしなきゃいけなくなってさ、ロバちゃんに会った。ロバちゃんって、すごい親切じゃん。それってさ、決してアタシへの負い目だけって思えないんよ」


 他の人たちも優しいが、ロバートの優しさが一番響いたという。


「そう、かな」

「でさ、思ったんだよね。もしロバちゃんの気持ちが下心でも、別にいいやって」


 下心なんて……なかったわけじゃない。あわよくば、と、どれだけ気持ちが揺らいでいたか。

 しかし、年齢や環境を考えて、絶対に手は出せないと思った。


 もし、妙に里心などが芽生えてしまったら。


「キミが思っているほど、ボクは紳士ではないよ。女性に慣れていないだけだ」

「けどさ、実際下心からじゃなかったじゃん」


 ロバートは、口を開けなくなる。


「あたしの気を引こうとかじゃなくて、純粋にあたしを助けたいんだってわかった」


 いい終えて、また「顔熱い」を連発した。


「あーヤバい。お水もらうね」


 水筒で、ヒナマルが冷えたお茶を飲む。


 本心なのだ。ヒナマルが自分に好意を向けてくれているのは。


「多分さ、見る目なかったよ。あんたに近づいていた女性って。ロバちゃんに一方的な優しさを求めてたんじゃないかな」


 かも、しれない。


「でもさ、あたしはロバちゃんが優しいだけじゃないなって、なんとなくわかるよ。こういうときはわずらわしいのかな、とか、うるさくしちゃってないかな、とか。何度も考えた」


 一番つらかったのは、魔女との戦闘で手を貸せなかったことらしい。


 だからあのとき、浮かない顔をしていたのか。


「ゴメン! 気が利かなくて」

「いいよ。それがロバちゃんなんだもん。一〇〇パー完璧な人間なんて、いないって」


 えへへ、とヒナマルは笑った。


「好きになるって、どれだけ相手を許容できるかじゃん。だから、一〇〇パー相性バッチシな人っていないと思う。どこかで衝突もするだろうし、妥協も必要なんだよ」


 ヒナマルの言葉で、ロバートは肩の荷が下りた。


 そうだ。自分は、完璧を求めすぎていた。自分が完璧じゃないくせに。


「この世界中探せば、きっとロバちゃんより優しい人もかっこいい人もいるかも知れない。でも、あたしはロバちゃんなんだよ」

「ボクもだ」


 気がつくと、ロバートはヒナマルと手を重ねていた。


「……ボクも、ヒナマルしか考えられない」


 おそらく、人と人とはこうやって巡り合うのだろう。運命の相手とか、電流の走るような出会いとかでは、愛は生まれない。それは憧れだから。


 今のロバートを襲っているのは、不安だ。なのに、ずっと一緒にいたいと思っている。自分の身を捨ててでも、ヒナマルを守っていきたい。


 そのためには、目の前の障害を排除しないと。


 もし、ゴットフリートが世界の破滅を願うなら、戦わなければ。かつての友だとしても。


「ロバちゃん」


 ヒナマルが、顔を近づけてくる。


「……ロバ、ちゃん」


 段々と、ロバートとヒナマルの距離がゼロに近づいていく。



「あのー。お取り込み中にすみませーん」




「うわあ!」


 ロバートは慌てて、飛び退いた。ヒナマルと距離を置いて、たじろぐ。


「どうしたの、ヘザー?」


 目の前に降りてくるまで、気が付かなかった。

 転移魔法で近くまで降りて、こちらを観察していたのか。


 さすがKYだ。


 しかし、ロマンチックな状況さえ排除しなければならないほど、緊急事態なのだろう。


「魔族が王都に近づきつつあるそうでーす」

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