JKの本音

 中身は、ツナサンド、から揚げ、半分こにしたゆで卵、串にささったプチトマト、ポテサラだ。デザートは、うさぎにカットしたりんごである。


「うわああ……すごいね」


 思わず、ため息が出てしまった。


 これが、ヒナマルの持つ女子力か。


 お弁当というから、もっと簡素なものを連想していた。しかし、箱を開けると実に本格的ではないか。


 どんな宝物より、貴重である。


 ロバートも、お茶を用意した。


「では、いただきます」


 ツナサンドを頬張る。もう、こたえられない。適度にマスタードが入っているのが、また格別である。


「ボクのために、ありがとう。ヒナマル」


 これまでも、女性がロバートのために食事を用意してくれていたことはあった。しかし、ロバートはそっけなく口に運んでいただけのように思える。


 だが、ヒナマルの料理はずっと噛み締めていたかった。


 そうか、これが女性を意識するということなのだと、今ならわかる。


「ヒナマルは、どこでパクパカのライドを習ったの?」

「習ってないよ。でも、『ゲンツキ』の免許を持っているから、乗り物に関してはそのおかげかな?」


 好物のから揚げを食べながら、ヒナマルが答えた。


 あっちの世界には、化石燃料で動く二輪車があるようだ。こちらでは、四輪でないと安定しないというのに。


「改めて言うよ。絶対、ヒナマルは向こうへ帰るべきだ」

「ロバちゃんは、あたしとは結婚したくない?」

「違う。それは断じて」


 ヒナマルが腰を据えるには、ここは危険すぎる。


 そう説明した。


「ありがとう、気遣ってくれているんだね?」

「それもあるけど、やっぱりボクとヒナマルは釣り合わないよ」


 今回のデートでわかった。ヒナマルと自分は、住む世界が違うと。


「あたしとのデートは、楽しくなかった?」

「それは違うよ。お弁当もすごくおいしいし、楽しかった。新しい発見もあった。でも、これでいいのかなって」

「思い悩むこと? あたしは、ロバちゃんとずっと一緒にいたいけど?」

「ヒナマルなら、もっとふさわしい男がきっと現れるよ」


 自分が女なら、自分のような男など相手にしない。


「ううん。あたしは、ロバちゃんがいい」

「どうしてだ? ボクなんかのどこがいいんだ?」

「どこがいいっていうか、ロバちゃんがいい」

「ボクは優しくなんてない。キミに気を使っているのだって、召喚してしまった負い目からだ。ボクは、一緒にいてキミの自由を奪っているんじゃないかって、ずっと怯えているんだ」


 ロバートは、言葉で自分を責めた。


「ほらぁ。やっぱりロバちゃんが一番じゃん」


 しかし、そんなロバートをヒナマルは肯定する。


「だってさ、本当にロバちゃんが自分勝手な人だったらさ、あたしを大切になんかしないじゃん。デートとかもヤリモクに決まってるよ」

「ヤリモク?」


 言葉の意味がわからず困惑していると、ヒナマルが耳打ちしてきた。


「お、おふうう」


 ロバートは、首を振る。


「ほら、大事にしてくれてるじゃん」

「でも、ボクはヒナマルに何もしてあげられない」

「一緒にいてくれてるよ」

「そうだけど」


 ヒナマルが、額に手を当てて考え込む。


「じゃあ、正直に言うね。あたしさ、めっちゃ男子に告白されんの」


 七歳くらいから、告白が途切れることがなかったらしい。召喚される数日前も、学校の男子から交際を迫られたとか。


「でもね。ほとんどの子もさ、顔とか性格とかが目当てなの。ちょっと優しくしたらさ、ときめかせちゃうみたいで。だから、ウンザリしてた」


 段々と、異性からは距離を置くようになったという。


 つまりね、とヒナマルが一拍置く。


「だからね? ね? あの、やあ……ちょっと。どうしよう? ヤバイヤバイ」


 なぜか、あれだけ饒舌だったヒナマルが、急に顔を手で隠す。耳がものすごく赤い。


「でね? そのーっ、ロバちゃんだけ、なんだよ。あたしから好きになったの」

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