DTとJK、パクパカに乗って、ピクニック

「いやっほーっ! いっけカズコ!」


 相棒の黄色いパクパカにまたがって、ヒナマルは草原を駆け抜ける。カズコとは、パクパカの名前だ。


 ヒナマルが来たがっていたのは、城から近い大草原だった。見渡す限り緑が広がっている。すぐ側には川が流れていて、城と繋がっていた。


「ずっとお屋敷で窮屈していたもんね。今日は、めいっぱい走ろう!」


 パクパカの背中をなでながら、ヒナマルは全力で走らせる。


 黄色いパクパカも運動が楽しいのか、時々ジャンプしてバタバタと翼を羽ばたかせた。その様は先祖であるヒポグリフというよりかは、実にひよこっぽい。


「どこで操縦を習ったのか」と思えるくらい、ヒナマルはパクパカを飼いならしている。本当に、スキルだけの問題だろうか。


 ロバートも、自前のパクパカで追いかける。

 しかし、こちらのパクパカはあまり運動が好きではないらしい。

 ちょっと走っては立ち止まり、野草ばかり食べている。

 しまいには、川に頭を突っ込んでフリーズしたままに。


 それもいいか。個体ごとにそれぞれ個性があって面白い。


 なにより、自分はインドア研究肌ではないか。


「ありがとう、ロバちゃん。ついてきてくれて。ずっとここに来てみたかったんだよね」

「喜んでもらえて、なによりだよ」

「よーしカズコ、次は一緒に走ろう!」


 ヒナマルはパクパカから降りた。競争まで始める。思い切り、自然の中で走り回りたかったのだろう。楽しそうにはしゃいでいた。


 こちらのパクパカは、もう動きそうにない。


 すっかり手持ち無沙汰になってしまった。


 魚でも釣っておこう。


 アイテムボックスにしまっておいた、釣り竿を出す。適当に虫を捕まえて、針に通した。大きな岩に腰掛けて、魚が針にかかるのを待つ。


 といっても、釣りは得意ではない。竿も、前に研究で必要だったから作っただけで、何年かぶりに出したものだ。手入れも怠っている。


 竿に、ピクピクと反応が。サッと引き上げると、小さな魚がかかっていた。

 小さすぎる上に、今日はヒナマルお手製のお昼がある。

 なので、キャッチアンドリリースだ。


 その後も、大小それなりの魚が釣れた。

 同じ魚はかからないように、魔法で細工をしてある。

 

 全部逃したとはいえ、結構な量が獲れた。

 昔はこんなに、魚に好かれなかったのに。


 魚は釣れるのに、女性はこんなにうまくいった試しはなかった。


 本当に、自分にはなにもない。女性を楽しませる術だって。


 自身の垢抜けなさを、改めてロバートは思い知った。


 そんな自分に、ヒナマルはついてきてくれている。本当に、楽しいのだろうか。気をつかてくれているのでは。


「ロバちゃん、お昼にしよっか? 手作りお弁当だぞぉ!」


 お弁当、という響きに反応したのか、ロバートのパクパカが顔を上げる。


「いいね。楽しみだ!」


 ロバートも火をおこして、お湯を沸かす。


 アイテムボックスから、ヒナマルがバスケットを出す。

 両手でがっしりと掴んでいる。結構な重量のようだ。


「じゃーん」


 ヒナマルがバスケットを開く。

 バスケットの中身は、大量のりんごだった。


「これが、手作りのお弁当?」

「いっけない! 間違えた! こっちだ」


 別のバスケットを用意する。形がまったく同じなので、間違えたのだろう。


「先に、カズコたちを食べさせるよ」

「それがいいね」


 りんごは、パクパカたちの昼食でもあった。


「ほい、お前たちっ」


 ヒナマルりんごを放り投げた。二頭はパクっと器用に口でキャッチする。


「よしよし。ここに置いておくからねぇ。好きに食べて」


 パクパカ用にバスケットをドサッと置き、ヒナマルは草原にマットを敷く。


「おまたせロバちゃん。今度こそ、じゃーん!」


 気を取り直して、ヒナマルがバスケットをオープン。




 弁当箱の中は、溢れんばかりの愛情に満ちていた。

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