JKの涙

「この事実が本当なら、ヒナマル嬢は拘束となりますがー」


 ヘザーが、言いづらそうに口を開く。


「待ってくれ! ヒナマルが魔族の仲間と決まったわけじゃない!」

「仲間ではない、という根拠もありませーん」

「それも、そうだね」


 事実、ヒナマルはユミという少女に化けたミュリエルと友人だと語った。


「ヒナマル様、ユミという女性に就いて知っていることは?」

「それがさ、あいつ何も話してくれないんだよねー。地球の文化については、やたら話しかけられたっけ……あ、そうだ!」


 突然、ヒナマルが写真をスライドし始める。 


「てかさあ、聞いて! ユミの彼氏ってのがさあ、後藤先生なの!」


 ヒナマルが、一枚の写真を見せてくれた。隠し撮りのような構造である。


 そこには、少女ユミ物陰で教師の後藤と口づけをしているシーンが。


「これを撮った直後なんよ。あたしが岩に潰されそうになったのって」

「……繋がった。いや、繋がってしまったな」


 王子は、確信した。ゴットフリートは、チキュウにいるのだと。


「で、チキュウから、こちらへ攻め込もうとしているわけか」

「その割には、チキュウという世界を支配している感じではありませんでしたね? せいぜい、魔王の娘とねんごろになっているだけにしか」

「これは仮設だけど」と、ロバートは切り出す。

「彼らは手違いで、向こうの世界へ迷い込んでしまったんじゃないかな?」

「そうなんだ。僕も、同じことを考えていた」


 多分だが、ゴットフリートは魔力を集められなかったのだろう。で、一刻も早くこちらへ帰ってこようとした。


 しかし、自分と魔王の娘とが繋がっている証拠を、たまたまヒナマルに発見されてしまったのではないか。


「つまりどういうこと?」



「君は死にかけたんじゃない。狙われたんだ」



 王子は、無情に告げた。


「誰に?」


「ユミって子に」


「ウソだ! ユミに限ってそんな……」


 耳を強く抑えながら、ヒナマルはうずくまる。


 パクパカが、ヒナマルの頬を優しく舐めた。


「うん、うん。ありがと」


 ヒナマルも、なでて返す。


「もうよせ王子。ヒナマルが悲しんでる」


 ロバートが、王子からヒナマルをかばうように立った。


「しかし、現実を見ねば」



「それはボクたちの役目だろ!」



 ヒナマルの手をギュッと握り、抱き寄せる。


「パーシヴァルとの決着は、ボクがつける。王子は、ヒナマルがちゃんと帰れる方法を探してくれ」


「わかった。ヒナマル殿、非礼を詫びる」


 王子が頭を下げると、ヒナマルは首を振った。


「ワタシからも、ごめんなさいー」

「ううん、平気。ヘザーさんは悪くないよ。あたし、疑われてもしょうがないもんね。冷静じゃなかったよ」

「え……」


 あのヘザーが、言葉に詰まるとは。


「おかわりがほしければ、使いをよこす。お菓子も全部食べてくれていい」

「ありがとう。もう大丈夫」


 パクパカに、ヒナマルはお菓子を全部食べさせる。


「そうか。では、僕はもう行く。君は必ず、チキュウへ無事に帰すよ」 

「ワタシも、王子のお供をしますねー」


 ヘザーを伴い、王子は自室へと向かっていった。


 途中、ヘザーが振り返る。


「すごい精神力ですねー。ロバート、絶対にその女性を手放してはいけませんよー。チキュウへ帰るときは、いっそロバートもついていてあげてくださいねー」


 それだけ言い残し、ヘザーは去っていった。


「あはは。ボクまで向こうに行ったら、誰が世界を守るんだっての」


 ロバートは苦笑いを浮かべる。


「お茶が冷めちゃったね。誰か呼ぼう。すいませーん」


 テーブルに置いてある鈴を鳴らし、ロバートはメイドを呼んだ。

 お茶を淹れ直してもらう。


「ありがと、ロバちゃん」


 温かいお茶を飲んだからか、ようやくヒナマルも追いついてくれたようだ。


「いや、怖い思いをさせてしまった。すまない」

「ううん。取り乱しちゃってゴメン」


 あたりを、沈黙が支配する。


 メイドも、この不穏な空気に耐えられない様子だ。




「ねえロバちゃん、あたし、デートしたい」


(第三章 完)

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