DTの友、パーシヴァル・ゴットフリート

 ロバートたちが、魔王を追い詰めたときのことだ。


 魔王には、ミュリエル王女という娘がいた。服装のセンスや雰囲気は、ヒナマルに近いといえる。


 ジークの兄パーシヴァルは、魔王の加勢に来た王女ミュリエルを引き止めてくれていた。


 魔法特化の魔族で、パーシヴァルほどの槍使いを相手に互角という強さを持つ。


 ミュリエルが放った次元転送魔法を、パーシヴァルはまともに浴びてしまう。


 結果、ミュリエル共々パーシヴァルは次元の彼方に消えた。


 数年経ったが、未だにふたりとも見つかっていない。


「イヤなことを、思い出させてしまったな」

「いいんだ。向き合わなきゃ。それで、仮設を立ててみた」


 ジークが、一冊の書物を用意した。表紙がボロボロで、やけに分厚い。ミニムの実家でも学校でも、こんな書物は見たことがなかった。


「ここに書かれている論文によると、ヒナマル殿がいる世界は、この世界と繋がっているのではないかと」


 確かに、ジークの説は信憑性が高い。

 この世界とヒナマルの世界は、文化も似ているように思える。

 魔法が存在する・しないの違いしかない。 


「僕の仮設が正解に近づいているか、老師ミニムのご意見も賜りたい。どうでしょう?」

『ふむう。これは今まで黙っていたことなんじゃが、お主の仮設にいち早くたどり着いていたものがおったのじゃ』

「その人物って……まさか?」



『そう。お主の兄、パーシヴァルじゃ』



 ミニムが、クッキーをかじる。


「なぜです!? なぜ兄は、黙ってこんな研究をしていたんですか!?」


 興奮したジークが、立ち上がった。


『パーシヴァルは、やがて魔王を倒した暁には、ヒナマルの世界も支配する予定だったようじゃな。どうにか、魔法をあの世界へ持ち込めないか、ワシに聞いてきたわい。魔法があれば、大抵の世界は支配できるからのう』


 事実を教えたら、ジークが悲しむ。

 そう思って、ミニムは事実を伏せていた。


「まさか。兄がそんなことを考えていたなんて」


 倒れ込むように、ジークは椅子に腰を落とした。


『ワシも、半信半疑じゃった。そもそも魔力のない世界に魔力を持ち込めば、必ず歪みが出る。世界自体が崩壊しかねぬ。魔族でも連れていけば、ワンチャンあるじゃろうな、と冗談で伝えてしもうた』


 魔族は、存在自体が魔力の塊だ。

 おそらく魔族なら、自らが動力源となれるかもしれないと。


『しかし、あれだけ頭のいいパーシヴァルが、そこまで計画するかどうか』


 全員が静まり返る中、ロバートはヒナマルに問いかける。


「ヒナマル、向こうの世界にも写真技術はあるんだよね?」

「あるよ」


 はじめて会ったとき、ヒナマルは危険を顧みずドラゴンの写真をバシャバシャ撮っていた。それを思い出す。


「でも、充電やばいかも! やっぱりだ。モバイルバッテリーも死んでる」

「大丈夫だ。任せて」


 手を端末へかざして、ロバートは雷撃の魔法を唱えた。端末の電力を復活させる。


「ありがと! じゃあ見せるよ」


 ヒナマルが端末を起動し、写真の数々を見せた。


 撮影のみならず、端末そのものに写真を保存できるとは。【すまほ】とは、どこまでも未来的なガジェットだ。


 しばらく、他愛もない写真が続く。


「これは!」


 一枚の写真に、ロバートは釘付けになった。竹刀を持った、金髪の男性に。


「体育の先生。後藤ごとう 詩羽しば先生っていってね。めっちゃ日本人っぽいのに、ド金髪なの! マジウケる!」


 ヒナマルは一人で笑っているが、他のメンバーは沈黙していた。


「左に写っている、肌が黒い少女は!?」


 褐色の少女が、後藤なる人物の隣にくっついている。


「ん、この子?」


 ケーキで口を汚したまま、ヒナマルが写真を指差す。


「この子が、ユミだよ。初めてあったときに話したじゃん」


 ヒナマルの友人ユミは、魔王の娘ミュリエルにそっくりだった。

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