王子と、JKのドレス

 ロバートとしては、ありがたい提案だ。闇雲に手がかりを探す手間が省ける。


「喜んでお受けするよ。ヒナマルもどうかな?」


「あーそれなんだけどさ」と、ヒナマルは手を上げた。


「あたし、もうちょっとここにいていいかな? まだ、帰るって決めてないんだ」

「そうですか。では手がかりだけ、お探ししておきますねー。今は使わなくても、将来的に何かの参考にはなると思いますのでー」


 ならば、ヒナマルが気に病むことはない。こちらの都合で、調査するのだから。


「帰るかどうかは、ご自身でお決めになってくださいなー」

「そうするよ。どうもありがとうヘザーさん」


 ヒナマルの返答に、ヘザーが腰を折る。


「ありがとうございまーす。まあ、ホントはわたしが、あなたとお話したかったからなんですけどねーっ!」


 本音がダダ漏れて、台無しだ。


「あーっ、でもさ、ドレスがないや」


 いいながら、ヒナマルはミニスカートをつまむ。


「ご安心くださーい。魔法生地でチョチョッと作っちゃいますのでー。ではご案内しましょー」


 ヘザーの案内で、王子のいる屋敷まで通された。


「では、ワタシはヒナマルさんとドレスを選んできますので、ごゆっくりー」


 ヒナマルはヘザーに肩をつかまれたまま、二階にある衣装部屋へ向かう。


 数分の後、王族の衣装を着た最高位アーチエルフがロバートのいる応接間に。


「やあ、久しぶりだなロバート」


 本当に同い年なのかと疑うくらい、王子は顔立ちが整っている。

 世界中の聡明なるものも、彼の前ではかすんでしまう。

 ヘザーのような天使族さえ、魅了されるくらいなのだ。

 何もかもが、人間離れしている。

 エルフだから仕方ないとはいえ。


「ご無沙汰です、ジークムント・ゴットフリート第二王子」

「堅苦しいあいさつはやめてくれ。同級生だろ。僕と君たちは。ジークと呼んでくれよ」


 ロバートとレックス、ジーク王子は、魔法科学校の同級生だ。

 またジークは、ロバートと共に魔王を倒した『黄金の槍』こと「君主 パーシヴァル」の弟である。

 その兄は、魔王討伐とともに姿を消してしまったので、実質ジークがこの王国を継ぐ。


「おまえは、英雄なんだ。もっと構えてもいいんだから」

「ジーク……王子。それはできません。あなたのお屋敷とはいえ、ここは王国内です」

「相変わらず、かったいなぁ。そんなんだから、お嫁さんのもらい手も……そうだった! ロバート、おまえさ、嫁をもらったんだってな!?」


 やたら食い気味に、ジーク王子が尋ねてくる。


「ですから、召喚しただけでして、一刻も早く元の世界へ帰さないと」

「そうか。突然目の前に美人が現れたのに、国へ帰すとはな。おまえらしい」

「バカにしないんですね?」

「おまえがそういうやつじゃなかったら、僕はおまえと絶対に友達になんかならない」


 ジーク王子が、握手を求めてきた。


「ありがとう、ジーク」


 友として、ロバートは手を握り返す。


「理性を失わず、よくその決断を下したな。そんなおまえを、僕は心から尊け……」

「おまたせー」


 上から、ヒナマルの声がする。


 ヒナマルの服装は、紺色のワンピースだ。

 肩は大胆に露出し、胸元もきわどい。

 アンシンメトリーのミニスカートから伸びる脚線美は、いつも見慣れているニーソックス姿から連想すると、より背徳感が増す。

 胸の丸いモコモコは、老師ミニムだ。


「どうですかー? 我ながらバッチリだと思うのですがー?」


 自信満々に告げるのは、ヘザーだ。オレンジのドレスに身を包んでいる。


「め、女神!」

「はえ?」


 ダダダダーッ! と、ジーク王子が階段を駆け上がった。


「おお、美しいっ! あなたはまさしく現人神だ! どこのご令嬢かは存じ上げないが、あなたは天が遣わした女神に違いない!」

「は、はあ。ひゃ!?」


 ヒナマルが、わずかに悲鳴を上げる。


 目にハートを浮かべながら、王子がヒナマルの手を取ったからだ。


「どうか、我が嫁に!」


 我を忘れたのは、王子の方だった。

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