JKの装備見直し

「自分を呼び出せるってことは、神に選ばれた使徒ってことになるんだってさ」


 その後、ヘザーによる勧誘活動が頻繁に行われた。そのせいで、王子から煙たがられているのである。


「彼女が結婚するなら金持ちイケメンって言っているのも、他人を寄せ付けないためだし」

「あー。おとぎ話で読んだ。『結婚するなら貴重品採ってこい』って、無理難題を押し付けて断るお姫様の話」

「どうなるの?」

「その人は月出身でね。結局は月に帰るんだよね」


 ロバートは、ヘザーの勧誘の結末が見て取れた。

 死ぬときは、王子を道連れにしそうだなと。


「彼女としては、神の血を継ぐ世継ぎを産む気満々みたいだけれど」

「愛情がないなら、血筋もなにもないよ」

「そうだね。ボクなんか、血筋を無視して育ったようなものだし」


 なんだか湿っぽくなってしまった。


「ただあの人、そこまでマシンっぽくないんだよねぇ。なんだか、人間の反応を見て楽しんでるみたいだったし。とっつきにくい、ってだけで」

「キミの言うとおりかも知れない。人間観察が趣味なのかも」

「だとしたら、うまくいくかもね」


 食後のコーヒーを飲みながら、ヒナマルは空を見上げた。


「ヒナマルは、帰りたい?」

「わかんない」


 意外だった。てっきり、すぐにでも帰りたいとか言い出すと思っていたから。


「向こうは便利なんだけどさ、家族や友だち以外で会いたい人もいないし、あの人たちはあたしがいなくなっても、普通に生活すると思う。あたしも、巣立ちを考えないといけない歳だし」


 自立を考える年頃か。


「でもさ、ロバちゃんとは離れたくないんだ」

「どうして? こんなヤツといたってつまんないよ」


 ロバートは言うが、ヒナマルは首を振る。


「だってロバちゃんは、あたしのことこんなにも真剣に心配してくれてるじゃん」

「それは、キミをここに連れてきてしまった責任があるからで」


 あくまで義務感だと、ロバートは主張した。


「でもさ、ロバちゃんと会ってなんだからずっと胸が痛いんだよね」

「賢者の石の副作用じゃないかな? 硫化水銀を使っているから毒にやられたのかも」

「わかってないなぁ」


 結局、この場は平行線となった。 


 食事を終えて、いよいよヒナマルの装備を見直す。


「あたしとしては、もうちょっとデートしていたかったけれど」


 これを、デートというのかどうか。


「まあまあ。ところでオババ、さっきからなんで黙ってるの?」

『はあ!? 空気を読んでおるんじゃろうがバカ孫が!』


 ものすごい剣幕で怒られてしまった。


『少し行ったところに、ワシの行きつけの防具屋がある。そこへ向かうがよい。まったく』


 道案内をしつつ、まだミニムはプリプリと立腹している。


 その防具屋は、ドワーフの夫とノームの妻が共同で経営していた。


 いきなりリスに話しかけられたので、ドワーフは驚いている。


「おお、ミニムかよ」


 ドワーフとノームの夫妻は、リスがミニムだとわかるとすぐに応対した。ロバートから鉱石を受け取ると、即座に開発へ取り掛かる。あと、ヨロイも預けた。鉱石と融合させるためだ。


 出来上がりには数日かかるという。後日取りに来いとのこと。


「さてロバちゃん、デートの続きといきますか」

「まだ宿も取っていないよ!?」


 はやく宿を取りに行かないと。


「その必要はありませーん」


 さっき別れたばかりなのに、ヘザーが目の前に。


「王子とは会えたの?」

「はーい。それと、王子がお茶会を開いてくださるそうでーす」

「どうしてだ? ボクと王子って、そんなに接点あったっけ?」

「村を救ってもらったお礼だそうでーす」


 なら、ありがたくいただくとするか。



「それに王子は、ヒナマルさんが元の世界に帰れる方法を、探してくださるそうでーす」



「王子にそんなことが、わかるのか?」


「はーい。ワタシをこちらの世界に引き込んだくらいですからー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る