KY痴女の教会

 ティッチの村へ戻ると、住民から多くの感謝を受け取った。


 大量の銅貨が入った袋を、村民たちは押し付けてくる。

 この村で採れる銅を使用した貨幣だ。


「報酬はいい。村で使ってくれ」


 差し出してきた袋を、ロバートは丁重に断った。今後何かあったとき、ロバートは立ち寄れない可能性が高い。これは村で保管し、有事に使うべきだと。


 冒険者たちも「自分たちは役に立たなかったから」と、警備費以上の報酬を求めなかった。


「そうですか。では、こちらをどうぞ」


 代わりに、毒消しポーションと鉱石を譲ってもらう。村で持っていても使えるものがいないからと。


「貴重な鉱石を、ありがとう」


 これだけあれば、ヒナマルにいい装備を作ってやれる。


「礼を言うのはこちらです! 本当に感謝いたします!」


 住民から見守られ、転移魔法を使う。


 

 ヘザーと同行して、王都ブッシュマイヤーに到着した。

 まずは、王立の教会へ魔女を引き渡す。


「では、調べておいてくださいねー。おとなしくはしておきましたが、また暴れるかも知れませんので慎重にー」

「かしこまりました」


 教会長の神父が、瓶に詰まった魔女を引き受ける。天使であるヘザーのほうが、教会では立場が上なのだ。


 ひとまず調査は完了する。あとは教会の仕事だ。


「ではー、わたしはこれでー」


 サグーの謀略があった記録などを、ヘザーは王国へ報告に向かうらしい。

 一連の事件は、サグーが行ったものではない、とヘザーは考えている。


「これはもっと大きな陰謀の匂いがしますよー。その調査に乗り出すのでーす」


 大きな丸型メガネ越しに、ヘザーは闘志を燃やしている。


「しかし、おかしくないか? ブッシュマイヤーって、そんなに他国に圧政を敷いていたっけ?」


 王は融通がきかない。だから、煙たがられるならわかる。とはいえ、恨まれるようなマネをしていただろうか?


「敷いていなかったから、周辺国からナメられちゃったんじゃねー? というのが、神のお考えでーす」


 正論すぎて、ぐうの音も出ない。


「王都は口こそ出すが、基本は周辺国の自主性を重んじているからね」

「はいー。悪巧みするスキなんて、いーっくらでもあるのですよー」


 疑り深いロバートに対し、ヘザーは冷淡だ。


「人類は愚かですからねー。監視の目がないと、すぐに悪いことを始めてしまいますー。やはり、神から直接ご指導いただかねばとー」


 人の弱さに触れる機会が多いためか、ヘザーはあまり人類を信用していない。

 教会が世界を導かねば、という使命感も強かった。


「なんか窮屈な世界だね、それって」

「はいー。神様も同じことを考えていまして。それで、我々【セイクリッド】をつかわせたのでーす」


 人の行く末は人の手に委ねるべきか、それとも粛清して正しいものだけを活かす世界にするか。その見極めをヘザーら【セイクリッド】に任せているのだとか。


「もっともーワタシはさっさと神の僕になるべきですねーって、人間を見ていて思いますけどねー。ではではー」


 旅の疲れを取るため、城下町を歩く。


 昼食に寄ったテラス型レストランで、お昼にした。


 ロバートは、ミニムと競うようにソーセージグリルを貪る。魔女リリムとの戦いで、ロバートは魔力が底を付いていた。今のうちに栄養補給をしておきたい。


「なんだか苦手だなぁ、あの人。悪い人ではないって感じだけど、とっつきにくい」


 ヒナマルが、ため息をつく。いつもの食欲もないのか、サラダを片付けるのに時間がかかっていた。


「半分神様だからね。エラそうなところはあるよ」


 はっきりいって、ヘザーは人間にたいして興味はない。彼女にとって、人間は神の信徒である。従うのは当然であり、そうでないものは無価値だ。


「なんで人間の王子とイチャつこうとした、なんてウワサが立ったんだろ?」


「ヘザーを呼び出したのが、幼い頃の王子だからだよ」


「マ? そうなん?」

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