DTととJK、KYな天使と出会う

 鉄球を弄びながら、ヘザーはロバートとヒナマルを交互に見た。


「お久しぶりでーす、ロバート・デューイ。それとー、あなたはお初にお目にかかりますねー」


 ヘザーが、ペコリと頭を下げる。


 ヒナマルも名乗って、お辞儀を返す。


「ねえ、あの人!」

「彼女が、シスター・ヘザーだよ。ブッシュマイヤーの教会に務めてる」

「そうじゃなくて! あれ!」


 ヘザーの頭を、ヒナマルは指差していた。

 正確には、頭に浮かんでいる「光る輪っか」を。


「あー。彼女はね、天使セイクリッドっていう種族なんだ」


 ヘザーのように頭頂に光輪を携える種族を、天使という。

 いわゆる神の使いだ。

 外界に降りて、人間を監視するのが役目だという。


 その分、人間並びに地上の存在を見下している個体が多いが。


「随分と、かわいらしいガールフレンドを連れていますねー、ロバート。どこでさらってきたんです?」

「キミの方こそ、人聞きが悪いね。正式な手段で召喚したんだよ」

「それを世間では、人さらいというのですよー」


 言い返せない。


「やはり人間は下等生物ですねー。お嬢さんは、こんな悪い男に引っかかっちゃダメですよー」


 ニコニコとしているが、会話の内容は辛辣だ。


「ロバちゃんは、そんな人じゃないよ。悪い人だったらひと目で分かるから」

「あらぁ。よく教育されているじゃないですかー。天然でしょうかねー。まあ、あなたがどんな女性を連れていようとワタシには関係ありませーん。この世界には無害っぽいですしー」


 無礼なことを言いつつ、ヘザーはヒナマルを敵とは認識していないようだ。


「あたし、あの人苦手かも」

「ヘザーとまともに話せる人間なんて、いないよ」


 さすが天使、食えない性格とも言える。


「無視してんじゃねえよババ――」


 直後、リリムの下半身が粉々になった。ヘザーが、鉄球を投げて破壊したのだ。


「誰がババアですって?」

「ひいいいいい!」

「あなたは本来、この世界にいてはいけない存在ですよね? 神の慈悲によって生かして差し上げているだけ。そのあなたが、ワタシに暴言を吐いてもいいと?」

「く、来るな!」

「ワタシだって近づきたくありません」


 だから、とヘザーは鉄球を振り回す。


「このモーニングスターを振るうのです」


 リリムはもう、戦意を喪失していた。


「もう十分だろう、ヘザー。殺すまでもない。サグーの情報を引き出して、沼へ返そう」

「ヌルいですねー、相変わらず」

「キミがやりすぎなんだ。そんな過激だから、王族からも相手にされないんじゃないか」

「そうかもしれませんねー」


 まったく、ヘザーは堪えていない。自分の行いは正義だと信じて疑っていなかった。


「ただぁ、無力化はさせていただきますねえ」


 ヘザーは、リリムの前で手をかざす。


「【圧縮】」


 そう宣言しただけで、リリムの身体が手のひらサイズに縮んだ。


「この個体は、我々天使族セイクリッドが収監しまーす。こうなりたくなかったら、おとなしく罪を認めてくださいねー」


 笑顔を向けて、ヘザーはサグーの兵隊たちに自白を促す。




 続いてサグーへ向かい、事件の首謀者と話し合う。

 主犯は、王都の牢獄へ。

 サグーの領主は、王都派の人物とすげ変わった。




「はあ。やはり王都を離れて泳がせておいて正解でしたー」


 一安心という表情を、ヘザーは見せる。


「え? するとキミは」

「そうでーす。わざと王都で嫌われるようなウワサを流したのでーす」


 ヘザーは王都に近づけないレベルの不祥事を自ら起こし、謀反を起こそうとしている輩を一網打尽にしようと企てたのだった。王都も承諾済みである。


「どうして、そんな回りくどいことを?」

「『急がば回れ』といいますよー。最適化を図って最短で攻略しても、首魁に逃げられたら終わりじゃないですかー。わざと負けたふりをして、出方を伺ったのですよー」


 自分から汚れ役を買ってでも、目的を達成するとは。

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