DTと賢者の石

 体内に忍び込まれたというのに、魔女リリムは妙に冷静だった。


「反撃ですって? やれるもんならやってみなさいな!」

「お望み通り、そうさせてもらう!」


 手に魔力を込めて、ロバートはリリムに殴りかかる。


 だが、思ったより威力が出ない。リリムの持つ鉄扇で、たやすく弾かれてしまった。


「ムダよ! この体内はあらゆる魔力を遮断する。おとなしく胃液で溶かされるがいいわぁ!」


 胃液が、せり上がってきた。


「それは、どうかな?」


 タネがわかってしまえば、こっちのものだ。


 ロバートは再び、拳を振り下ろした。今度は、胃袋に直接である。


「なああ!?」


 突然、リリムが口を抑えてうめき出す。


「この匂いは……硫化水銀だとぉ!?」


 バジリスクが、苦しみ出した。


 ロバートは、ヨロイを覆う水銀を体内に流し込んだのである。


「さて、もう一発!」


 再び、ロバートはリリムを攻撃した。


 敵も鉄扇で防ごうとする。


 が、ロバートは鉄扇を破壊して拳を叩き込む。


「なんと!?」


 防御できたはずの攻撃を受けて、リリムは困惑していた。




「くそ! この水銀は、【賢者の石】か!」




「そうだ。ボクのミスリルアーマーは、表面を常に水銀状の【賢者の石】でコーティングしている」


 賢者の石は、いわゆる術者を補助する機能を持つ。

 いわば、人工知能である。

術者が魔法を使えなくなっても、ヨロイじゅうを駆け抜ける硫化状態の賢者の石が、術者をサポートする。

 また、有事の際は攻撃手段へと転じることができるのだ。


「……き、貴様の狙いはこれだったのねぇ!」


 そのとおり。賢者の石で威力を倍増した攻撃を、無防備な相手に撃つことができる。


「このフィールでは、魔法で匂いを消さなくていいからね」


 賢者の石は、硫黄臭がする。


「トドメだ。刺激臭で死にそうな顔をしているから、すぐ楽にしてやろう!」


 もがくリリムに、ロバートは爆炎を打ち込んだ。




 カメレオンの身体が、爆風で弾け飛ぶ。




 上半身が吹っ飛んだバジリスクの上に、ロバートは立っていた。



「く、くそお……」


 アフロ頭になったリリムが、ポールにしがみつく。しぶとい。


「でもねえ、これで勝ったと思わないでよねえ!」


 ゲラゲラと、リリムは笑う。


 さきほど開放した村人が、諸手を挙げて現れる。


 その後ろには、サグーの国旗を携えた兵隊たちが。


「どうして、サグーの兵隊が!?」

『やはり、サグーはすでに乗っ取られておったか』 


 ロバートたちを、小国サグーの兵隊たちが取り囲んだ。


「オババ、どういうことだ?」

『謀反じゃ。元々サグーは、魔物と組んで王都を潰す気だったんじゃ!』


 リリムが「そのとおり」という。


「ブッシュマイヤーの善人ぶった態度に、サグーの領主は辟易していたそうなの。魔物と組んで甘い汁を吸う方を選んだのよん」   


 サグーから来た冒険者や女性の村人たちも、サグーの兵隊に取り押さえられている。


「すまねえ。俺たちは、監視役だったんだ」



 縄で縛られた冒険者の男性が、告げた。


「村人が、あんたらのようなダンジョンを攻略しにくる冒険者と接触するかどうか、見張ってろと」


 ダンジョンにもしものことがあったら、報告するように言われていたのだろう。


「あははは! ワタシが生きている限り、サグーは我々の味方ってわけ!」


 リリムが兵隊に号令をかけて、ヒナマルを捕らえそうとする。




「やっぱりそーでしたかー。国から離れて泳がせておいた甲斐がありましたねー」



「な、誰っ!?」



 うろたえるリリムの眼前で、兵隊たちがトゲ付き鉄球の一撃を受けて転倒した。


 トゲについた鎖が、兵隊たちの脚に絡みつく。


「全員、動かないでくださいねー。これ以上は、王都ブッシュマイヤーへの背徳行為とみなしまーす!」


 ブッシュマイヤーの兵隊を連れて、一人の爆乳シスターが現れた。手に持っている鉄製の杖は、鉄球と鎖でつながっている。


「キミは、ヘザーッ!」

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