DTと、沼の魔女リリム

 ダンジョン内部へ入ると、眼がうつろな男性たちが一心不乱に横穴を掘っていた。

 大人も子どもも老人も、全員が何か遠くを見つめながらツルハシを振るっている。


「早く逃げるんだ」


 ロバートが男たちの肩を揺すっても、まったく作業をやめようとしない。


「おいしっかりしろ!」


 ダメだ。怒ってもなだめても、男性たちは穴掘りを進めている。


「村に帰ろう。ママたち心配しているよ」


 ヒナマルが呼びかけても、同様だった。まるで聞く耳を持たない。


「どうにかならないんですか?」

『アヤツを倒さぬ限り、無理じゃろう』


 洞窟の中央にある開けた場所が、ボス部屋だった。


「いえいいえーい」


 女怪人がお立ち台に登って、ポールダンスをしている。やけにテンションが高い。

 ボディコンルックに身を包み、両手には鉄扇を持って踊る。


『アレが沼の主、魔女のリリムじゃ』

「フーッ! みんなぁ、がんばれがんばれ」


 脚の指でポールをしっかりを掴み、リリムは器用に回っていた。


「おお、なんかカッコいい」 


 リリムの踊る姿に、ヒナマルは見入っている。


「感心している場合じゃない。アイツを倒さないと、村がダメになるんだ」

「そうだったね。おねーさん、ストップ!」


 ヒナマルが大声を出すと、リリムは露骨に不機嫌そうな顔に。


「なぁに? ワタシのダンスを邪魔するってのぉ?」


 大きな口から、ギザギザの歯列が見える。人間の口の開き方ではない。明らかにモンスターだ。


「ボウヤたち、出ておいでぇ。コイツラを追い払ってぇ」


 魔物たちが、ロバートたちを取り囲む。毒牙を持ったウルフ、小動物ほど大きなナメクジや、スライムである。


「緑色のネバネバ、気持ち悪いね」

「あれは、スライムだ」

「ええ、マジで……スライムって、もっとポヨポヨしてグミっぽいのかと思った。スマホゲーと実物は違うね」


『すまほげー』というのはよく知らないが、これが現実だ。


 最も警戒すべきは、フロアの四分の一を占拠する、大型のカメレオンである。


『気をつけい。中央にいるのはバジリスクじゃ。おそらく魔女のペットじゃろうて』


 見た目はカメレオンだが、マヒ効果のある光線を眼から放つ。


「毒毒攻撃でやっつけちゃってぇ」


 お立ち台の上から、リリムがバジリスクに指示を出す。

 ロバートは、氷の槍を形成した。肉弾戦で、ザコを蹴散らしていく。


「近寄らせても、もらえないか」


 火炎攻撃で一網打尽にすることもできる。しかし、村人がいる以上本気を出せない。強力な魔法を使えば、彼らにケガをさせてしまう。


 なんとか、村人をよけながら戦うしかない。


 槍でモンスターを凍らせて、砕く。地味な作業が続く。


「アハハーッ。防戦一方だねぇ」


 観戦しているリリムが、こちらを挑発する。


「ロバちゃん、呪いを解く魔法とかない?」


 たしかに、村人の眼を醒まさせることは一時的には可能だ。

【マインド・ショック】という魔法で、精神操作を弱い電流のショックで無理やり散らすのである。


「あるけど、時間がかかる!」

「じゃあ、あたしがモンスターを引きつけるから、お願い!」

「そんな危ないマネなんて、させられるか!」

「やってみないと、わかんないじゃん!」


 ヒナマルの意思は固い。任せて大丈夫だろうか?


「危なくなったら、オババの指示に従ってね。約束できる?」

「うん! 任せて!」

「頼む!」


 ロバートは、精神を集中させた。ターゲットは四三人である。彼ら全員に、電気ショックを送る。子どもや老人もいるので、極力微量でなければならない。


「やあん!」


 ヒナマルが、スライムの吐く酸に捕まった。


 脚部の衣装がドロっと溶けて、太ももが全開になる。


 集中しろ集中。


「わあ、まただ!」


 今度は、背中が丸見えに。


「わざとやってない!?」

「こっちだって真剣なんだって!」


 ロバートが言うと、ヒナマルが抗議してきた。


「えええい、もう! マインド・ショック」


 微弱の電流を、ロバートは手から放つ。

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