パクパカ使いのJK

「お、おごおお!」


 セルベールの首が、曲がってはいけない方向へ曲がった。

 あれで生きているのは、さすが魔族というところか。


 何も考えていないのか、パクパカはセルベールに背を向けて折れた木の枝から葉を食べている。


「むおおおお! おのれ人間のメスめ! ロバート・デューイ! この決着は必ず!」


 よろめきながらも、道化師は立ち上がった。


「ねえ、コイツからもっと聞くことある?」


 セルベールが話しているにも構わず、ヒナマルは道化師を指差す。


「ないよ」


 コイツは嘘つきだ。情報を引き出したところでブラフの可能性がある。ならば、聞く耳を持たない方がマシだ。



「パクパカ、キック」


 後ろ足で、パクパカはセルベールの顔面を蹴り上げた。


「ふんごぉ!」



 アゴを打ち抜かれて、セルベールはきれいな放物線を描いてぶっ飛ばされた。


「やりすぎたかな?」

「いや。あれだけやっても、おつりがくるくらいさ。彼はそれだけ、多くの命を奪った」


 彼の策略によって、どれだけの街が地図から消えていったか。


「すごい悪い奴なんだね。あのオッサン」

「殺意は高いね。この世界で一、二を争う、危険なヤツだよ。やっつけてくれてありがとう」

「でも、まだ死んでないよね?」

「それでも、脅威は去った。キミの機転のおかげだ」


 ヒナマルがパクパカを動かしていなければ、油断したロバートたちの前で街が焼かれていただろう。


 ダンジョンを出ると、隣国の冒険者たちがオークと斬り合っていた。ロバートの顔を見て安心したのか、活力溢れる勢いでオークの群れを壊滅させる。


「人がいっぱい! 助けに来てくれたんだね?」

「派手な魔法を使ったのに、理由があるっていったろ? これが、理由ってワケ」


 単に「モンスターの群れが、街を襲っている」と伝えても、隣の国から見れば脅威に感じてくれない。


 戦の炎が上がっていれば、

「魔物の群れによって、こちらにも被害が及ぶ」

 という説得力が生まれる。


 実際、それだけの規模だった。

 冒険者からすれば大した敵でなくても、街からすれば十分恐ろしい。


 だからこそ、特大の魔法を派手にぶっ放す必要があったのだ。


「無理矢理撃ち込んでいたわけじゃ、ないんだね」


「もちろん。ちゃんと計算してるんですよ?」

 得意げに、ロバートは指を立てた。


『何を言っておるか。まんまと敵に逃げられたくせに』

「まあ、そうなんですけどね」

『魔族の側近が動いているとなると、油断ならん。対策を打たねば』


 肩を落とすロバートを、ヒナマルは「まあまあ」と励ます。

「次に出くわしたら、やっつければいいじゃん」


「それもそうだね」


 街が見えてきた。


 パクパカを、門の前にある駅に返す。


 ステートルの街にある冒険者ギルドで、ロバートはギルマスのレックスに事情を説明した。


「と、まあこういうワケだ」

「どういうワケだよ?」


 テーブルに置かれたミノタウロスの斧を見て、レックスは唖然となる。


「隣町と連携して、ようやく魔物の抑え込みに成功したかと思えば、セルベールのご登場とはね」


 深く、レックスはため息をついた。


「ため息をつきたいのは、こっちだよ。またアイツを相手にするなんて」


 しかも、何をしでかすかわからない。

 

「魔王を復活させるために動いていると思うが、次にどの街を狙うか見当が付かねえ」


「いや、ヤツの向かいそうな場所はわかるよ」

 ロバートは、地図に指を這わせる。


 ステートルからほど遠い、とある大陸の中心に置かれた。

 山々に囲まれた広大な土地には、立派な城が建っている。


「王都ブッシュマイヤーか」

「どんな所なん?」

「エライ王様がいる。この辺りで最も栄えている都市だよ」


 ロバートに続き、レックスが後を追う。


「それだけじゃないぜ。俺たちの仲間の一人である、ヘザーの拠点がある。次に狙うのは、ヘザーだろう」


 ヘザーは、王の護衛をするかたわら、診療所も経営している。



 セルベールは、ヘザーもろとも王の息の根を止めようとしているのだろうか。

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