DTとJK、次の街へ

「しかし、ロクな戦力もなくて、王都なんか攻めるか?」

「なんだっていいはずだよ。セルベールにとっては、魔族の存在を知らしめるだけでいい」


 油断させて一気に、といった悠長な作戦ではなく、常に緊張状態にさせて疲弊を待つつもりでは、とロバートは考えている。



「そっちの方が悠長な気もするが?」

「魔族の恩恵をこっそり受けていた魔術師は、割と多いんだ」


 彼らが手を組んだら、ヘザーだけじゃ太刀打ちできない。


「ヘザーって人と王様って、仲いいの?」


「悪いよ」


「マジ?」

 ヒナマルが、口をポカンと開ける。

 想像していなかった返答が来たからだろう。


「以前、王子様にちょっかいかけてね。それ以来、出禁になっているはずだ」

「王子には、ちゃんと許嫁がいってるのに。あのヤロウ、嫁候補に名乗り出やがったんだ。それも勝手に」


 バカの所業としか言えない。

 冒険者は、タダでさえ身の危険がある。

 嫁候補になんぞ、なり得ないのに。


「で、既成事実を作ろうと寝室に忍び込んで、とっ捕まったんだ」


 魔王討伐の功績と、診療所を建てたということで、信頼こそ勝ち取っていた。

 が、一連の騒動があったため、ヘザーは城へ入れない。


「『自分が一番、王子を乗りこなせるんだ!』とか言ってたよね」

「逆セクハラじゃん。はっちゃけすぎ。でも会ってみたい!」


 女性なら、破天荒な人物に憧れを抱くモノなのか?


「気をつけろ。もうすぐ建国三〇〇年を祝う式典がある。王様、狙われるぜ」


「そんなことはさせない。ボクが食い止めるよ」

 ロバートが、胸を張る。


「王様って、そんなに狙われてるの?」

「あの国王に、恨みを持ってるヤツが多いんだ。主に悪党だが」


 ブッシュマイヤー国王は、善人で通っていた。

 彼は王族には珍しく、悪事を許さないタイプだ。


「いい意味では、曲がったことを許さない善なる人。悪い意味では、融通が利かない男でな。不正や汚職は断じて許さないんだ」

「王様より、司教が似合う人だよね」

「実際、司教の家系だったしな」


 国王の放つ魔力障壁は、聖なる力で魔を寄せ付けない。


「下手すりゃ、宗教国家化するところだったんだよな」

「奥様の性格がアバウトだからね」


 王妃がいなければ、戦争が起きていたかもしれなかった。


「すまないがロバート。すぐにでも出発してくれ」

「うん。転送魔法で行くよ」

「いや。お前には寄って欲しい場所がある。もう一つ、依頼を頼みたいんだ」


 王都へ続く道に、ダンジョンができたらしい。

 そこから、モンスターが多数現れているという。

 王都から派遣された冒険者で応戦しているが、膠着状態だという。


「これでは、調査もままならん。それに、セルベールの動向も気になる。少し遠回りになっても、魔物の数を減らして王都を安心させておきたい」

「わかった。ここからだと、ティッチの村が近いね。そこまで転送魔法を使う、村に着いたらダンジョンへ向かうとするよ」

「助かる。パクパカは、くれてやる。俺が買い取ってお前にやろう。前金だ」


 手続きを済ませ、パクパカを譲り受けた。


 ヒナマルが手懐けた個体は、ヒナマルから離れようとしない。


「よーしよしよし。カズコー」

「カズコって、その子の名前?」

「うん。黄色いから。ホントはカズノコって名前に使用可って思ったんだけど、ちょっとエッチいから」


 魚の卵を「数の子」というらしい。多産の象徴だという。

 それが少々性的と言いたいのだろうか?


「じゃあ、ボクのは『トリル』って名前にしよう」

 あまりうれしくなさそうだ。横を向いて唇をブルブルと言わせる。

「ありがとう。レックス」

「お前のためじゃない。ヒナマルのためだよ」


「それでも、うれしいよ」

 ロバートはレックスと握手をかわす。


 ヒナマルが、門を出てしまった。


「まだ、休んでから行ってもいいのに」

「もう、十分休んだよ。ロバちゃん、早く行こう」


 ヒナマルは、王都が待ち遠しいらしい。




(第二章 完)

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