DT・JKと、パリピ魔族

 振り返ると、槍斧の先端がロバートめがけて襲いかかってきている。赤黒く輝く刃が、今にもロバートを貫こうと迫ってきた。


「しゃらくさい!」

 避けているヒマはない。裏拳で叩き落とす。ジイン、と手の甲が痛む。


「いったぁ」

 ロバートは、手をブンブンと振った。ミスリル製ヨロイ越しとはいえ、痛いモノは痛い。 


「さすが伝説の勇者、ロバート・デューイ殿。見事な回避能力ですなぁ。ケケケ」


 槍斧で武装した魔族が、天井へ張り付く。逆さ吊りのような体勢で、カエルのようにしゃがみ込んだ。ジャラジャラした金細工で武装し、洗っていないドレッドヘアをたなびかせている。顔を鋼鉄のマスクで覆い、肩の通気口から白い息を常時吐き出していた。この魔物は、酸素を嫌うタイプだから。


「お前は、【セルベール】!」

 どうして上位の魔族が、こんなところに!


「確かに、ボクが倒したはず」


「ワタシは不死身なのです。ケケケ」

 セルベールが荒く呼吸をしながら、槍斧を肩に担ぐ。


「このオッサン、強いの?」

「コイツはセルベール。またの名を【血染めの道化師】という」


 かつて、魔王の側近の一人だったモンスターだ。

 彼に倒された歴戦の戦士は、数え切れない。


「鬼強じゃん。なんかチャラいパリピみたいなのに!」


 拍子抜けの単語が出てきて、ロバートは肩を落とす。


「ねえヒナマル、パリピって何?」

「だってグラサンしてマスクしてさぁ、自撮り棒まで持って。ダンスパーティとかにいそうじゃない? クラブとかフェスとか!」

「まさか!」


 仮面舞踏会ならまだしも、こんなふざけた格好をしたモンスターが、社交界ダンスパーティにいてたまるか。


「なんとも、不本意なあだ名付けられたようですが!」

 セルベールは、また白いガスを噴射した。


「まあ、強いでしょうな。この辺りの邪魔者は、排除させていただきましたし。ケケケ」


 確かに。セルベールの周りには、冒険者たちの亡きがらが。


「彼らの血を使って、魔王サマ復活の儀式を行おうとしましたのに」


「貴様!」

 天井にいるセルベールに向けて、ロバートは火炎弾を放つ。


 しかし、セルベールは回避に全力を注いでいた。

 戦う意思はないらしい。


「ですが、作戦が失敗した以上、長居は無用。まさか、あれだけの軍勢が全滅してしまうとは」

 シュコーと、セルベールはまたガスを放つ。


「おっさん、さっきから息苦しいの?」

「私は、地上世界の空気が不快なのです。なのでガスマスクが欠かせませんケケケ」


 わずかな空気でも身体に影響が及ぶ。

 よって、地下でしか生きられない。


「じゃあ今の状況は、ヤバいよね」


「お嬢さん、どういう意味ですかな……なななあ!?」


 天井が崩れ、穴が開いた。

 酸素が、一気に洞窟へ流れ込む。


「これはたまりません。退散としますか」

 ガスを大量に吐き出し、セルベールが白い煙に消えていく。 


「これは、始まりに過ぎません。いずれまたまみえることになるでしょう、ケケケ……」


「待て!」

 火炎弾を放とうとした。


『いかん、ロバート!』

 しかし、ミニムに止められる。


「くっ」

 ロバートは、火炎攻撃をあきらめた。代わりに氷の矢を放つ。しかし、一発も当たらない。


 煙が晴れる。セルベールがいた場所には、氷の矢が突き刺さっているだけ。逃げ足だけは速いヤツだ。


「なんでファイアーボールを撃たなかったの? 得意技なんでしょ?」

「撃てなかった。さっきのガスは、火気に引火するタイプだ。吸い込んでわかった」


 火炎弾を放てば、ヒナマルもろとも火ダルマになっていた。


「とにかく引き返そう。レックスに報告しないと」


 ロバートはヒナマルを連れて、空いた穴からダンジョンを出る。

 パクパカを口笛で呼び戻して、乗り込んだ。


「あたしもやろっと! ピーッ」


 ヒナマルがロバートより鮮やかな音が鳴る。


 パクパカが猛スピードで、ヒナマルのもとへ走ってきた。


「ハハハ! ロバート・デューイ! 勝負はおあずけです」


 ダンジョンから近い大木の枝に、セルベールが乗っている。いつの間に移動したのか。



「パクパカ、ジャンプ、でもってキック!」


 ヒナマルが号令をかけると、パクパカが飛び上がる。


「だがいずれ決ちゃ――」

 

 グシャア!


 ヒナマルの指示で、パクパカがセルベールのいる木の枝まで飛び、踏み潰したではないか。

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