DT魔道士とJK、ダンジョン探索へ

 ダンジョンは、廃砦の地下だ。ステートルの街からパクパカで出発して、およそ一時間走ったことになる。歩きだったら、半日はかかる距離だろう。


 廃砦は、見た目からして特別難しいダンジョンという気配はしない。しかし、凄まじい殺気が漲っている。こんな所に、新たな地下洞窟を作るとは。


「本当なら【初心者の館】で、ちょっとキミの強さを確認したかったんだけどね」


 もっと敵の弱いダンジョンで、ヒナマルの実力を試すことだってできた。

 初心者向けの洞窟なら、喜んで連れて行けたのに。


「いいって。緊急事態だもん。ついて行くよ」

「ありがとう。じゃあ、入り口の前でパクパカから降りてくれるかな?」


 ダンジョンの側にある森へ、パクパカを避難させた。魔物たちは街への襲撃に夢中で、ここまで見ていない。パクパカに注意を払う余裕がないのだ。


「パクパカちゃんたち、大丈夫かな?」

「心配ない。襲われても、オークくらいなら返り討ちにするから」


 実際、ちょっかいをかけてきたオークが、パクパカキックで星になった。


「そんなに強いんだ。頼もしいね」

「でも、ダンジョンまでは入れない。身体が大きいからね。狭いところに対するストレスもすごいんだ」


 よって、森へ放す必要がある。口笛を吹けば戻ってくるから、安心だ。


「急ごう。第二波が来そうだ」

「そうだね。この先にボスがいるみたい」


 アプリを起動させて、ダンジョンに入った。


 マップには、デフォルメされたミノタウロスが斧を振り回している。


「ギイ、ギイィ!」

 洞窟内では、ゴブリンがまだ群れを成していた。


 この集団を、外へ放すわけにはいかない。


「迎え撃つよ!」


「うん」

 ヒナマルも、刀を抜く。


 この程度の数なら、魔法を使うまでもない。殴って撃退する。 


 剣を振り回して、ヒナマルもゴブリンを追い払っていた。


 その背後に、クロスボウを構えるゴブリンが。引き金を引き、ゴブリンが矢を放つ。


「それ」

 矢がヒナマルを貫く直前、ロバートは風の魔法を発動させた。ヒナマルの背中に、石ころ程度の小さな竜巻を起こす。


 竜巻に巻き込まれて、矢が方向を変えた。クロスボウを撃ったゴブリンを襲う。


 次の矢を装填している間に、ゴブリンは眉間を貫かれた。


「ありがと、ロバちゃん!」

「いえいえ」


 正直なところ、ヒナマルも襲撃に気づいていた風に見える。

 一瞬、刀で矢を叩き落とそうする仕草をしていた。


 ミニムも、矢のことを教えていない。

 ヒナマルの勘を試したのだろう。曲者め。


「案外、地味だね。さっきみたいに、派手な魔法でドーン! ってやらないんだね?」

「あれは、ちゃんと理由があるんだ」


 実は、あそこまでしなくてもよかった。 

 大きな煙と物音が必要だったのだ。


「なんだろ?」

「外に出てみたら、わかるよ」



 地下二階まで辿り着き、いよいよ最奥部へ。比較的、初心者向けのダンジョンだった。それをアジト代わりにしていたらしい。


 天井が高い空洞に出た。怪物用の玉座がある。


 正面に、ミノタウロスが座っている。巨大な斧を携え、重い腰を上げた。身体が大きい。スネだけでも、ロバートの背丈ほどある。


「こいつがボス?」


「そうかも!」

 ヒナマルが、スマホを確認した。


 三メートルはあろう巨体が、声を上げながら玉座から立ち上がる。壮大さが、オークの比ではない。


 怪物が、大きく胸を反らした。斧が持ち上がる。


「来るよ!」

 ロバートが、ヒナマルを抱き上げて跳躍した。

 

 ミノタウロスが、斧を横方向へなぎ払う。


 戦斧が、岩や柱を叩き壊す。


 あの場にいたら、二人とも両断されていただろう。


「おおう、すっごい」

「感心している場合じゃないよ!」

「いや、ヨロイ越しでもロバちゃんの体温って感じるんだって」

「油断しないでーっ!」


 返す刀で、ミノタウロスは上空にいるロバートに斬りかかった。


「大型魔獣が、ボクを止められるモノか!」


 足の裏に、ロバートは氷の魔法をかける。


 襲いかかる斧の表面に着地した。


 スケートのように斧を滑りながら、ミノタウロスの懐へ。


「ヒナマル、トドメを!」

 ロバートは、ヒナマルから手を放す。


「オッケーッ! うりゃああ!」

 ヒナマルが、ミノタウロスの胴へ斬りかかった。


 対するミノタウロスも、エルボーで対抗する。


 ヒナマルはスピードこそあるが、あのパワーがぶつかったらひとたまりもない。


「おとなしく経験値になれ!」

 風の魔法を起こし、ロバートがミノタウロスとヒナマルへぶつけた。

 ヒナマルへは、加速のために。ミノタウロスへは、クッションのためだ。


 風が障壁となって、ミノタウロスのエルボーがそれた。


 そのスキに、ヒナマルが刀を振り下ろす。


 ヒナマルの一撃が、ミノタウロスの胴を両断した。


 イビキのような悲鳴を上げて、ミノタウロスがズシンと地面に沈む。

 息はしているが、もう二度と立ち上がれない。

 

 とはいえ念のため、ロバートがモンスターの心臓を止めた。


「これで終わった?」


 大騒動だった割には、やけにあっけない。


 そもそも、ミノタウロスのような脳筋に、こんな大規模作戦が思いつくだろうか?


 嫌な予感がする。


 そう思っていると、ヒナマルのスマホが聞いたこともないアラームを流す。 


「ヤバい、もっとデカイのがいるよ!」

「どこ?」


「ロバちゃんの後ろ!」

 ヒナマルが、ロバートの後ろを指さした。

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