DTとJK、モンスターの群れと遭遇

 アイコンの群れが、ダンジョンから続々と現れている。

 モンスターが、街の周りを取り囲んでいるように見えるではないか。

 わざと街を迂回している動きで。


「ミニム、双眼鏡を!」

『おうよ。ほれ』


 ミニムから、双眼鏡を借りる。

 あまり近づくと、モンスターにこちらの場所を知られてしまう。

 慎重に距離を取って、確認する。

 

 やはりだ。

 モンスターたちは、ジワジワとこの街に集結していた。


「どうしよう、ロバちゃん? ちょい殺意高めだよ?」

 ゲーム画面ほどカワイらしくないモンスターを前にしてか、ヒナマルも顔をしかめる。


 パクパカを反転させ、ロバートは来た道を引き返した。

 街へ知らせに行くために。



 街へ戻ると、受付嬢が驚いた顔でギルドから飛び出す。


「どうなさいました?」

「街にモンスターが来ている! ここを襲う気だ!」

「なんですって!?」

「手の空いているモノは、武装の準備を!」


 ロバートの言葉を聞き、受付嬢が緊急依頼を要請した。


 冒険者たちは騒ぎ出すも、冷静に武装を始める。


「この数ではダメだ! 誰か、隣の国まで援軍を要請してもらいたい! 各国と連携し、逆に挟み撃ちにする!」


 提案には、レックスが乗ってくれた。

 一番早い馬と、連絡役を隣国へよこしてくれるという。


「あなたは?」

 受付嬢が聞く。


「ダンジョンへ向かう」


 モンスターを操っているのは、親玉だ。

 そいつを倒せば、騒ぎは収まるかも。


「いい、ヒナマル。激戦になるけど、いいかな?」


「もち!」

 サムズアップで、ヒナマルは応えた。


「じゃあ行こう!」

 ロバートも戦闘態勢に。


「どこへ行くの? ダンジョンは向こうだよ?」

「まずは数を減らそう!」


 幸い、敵は弱い種族ばかりだ。ゴブリンやオーク程度である。

 それでも、おびただしい数だ。

 街の住民に任せるわけにはいかない。


「ここで食い止める」

 ヨロイの指先に、ロバートは炎を集結させた。


「くらえ、【焦熱】! てやああ!」

 パクパカに乗りながら、ロバートが手から火球を放つ。

 サイドスロー気味に、群れへ向けて投げつけた。


 赤黒い炎の弾が、モンスターの集まる草原に着弾する。


 膨大な火柱が上がり、ゴブリンたちが灰となった。


 炎は今だ衰えない。地面を舐めながら、他のモンスターを次々と飲み込んでいく。

 本当は氷の矢で全滅させてもよかった。


 しかし、ロバートの目的は「敵を炎で恐れさせる」こと。


 現に、魔物たちは燃えさかる炎の前で足がすくんでいる。


「これで魔物が逃げてくれたら、レックスが早馬を出せる!」


 しばらくすると、レックスが黒い馬に乗って現れた。

 白い馬に乗った、男女二人組のエルフを連れている。


 白馬は女性のエルフが手綱を握っていた。

 男性エルフは、背後から弓で追っ手を打ち落としている。


「OKだ、ロバート! 馬が出ていった! ここはオレらがなんとかするから、元を絶ってくれ!」


「わかった。行ってくるよ!」

 今度こそ、ロバートはダンジョンのある場所へ。


「魔物の密度が濃いよ! やろうか?」

「そうだね。ヒナマル、やってみせて!」


 パクパカをスピードアップさせて、ヒナマルが群れに突っ込む。


 二メートル近いオークが、棍棒を振り回して襲いかかってきた。

 棍棒は岩の塊でできているのか、幹に当たっただけで木をなぎ倒す。


「いくよ、パクパカ!」

 構わず、ヒナマルはオークに正面から対決を挑む。


 パクパカも、ヒナマルを振り落とさんばかりに粗度を上げた。


 バカが来たとでも思っているのか、オークは余裕の表情だ。ヒナマルを叩き潰さんと、棍棒を振り降ろす。


 パクパカをドリフトさせて、見事ヒナマルは棍棒の一撃をかわす。そのとき、既に攻撃は終わっていた。首に刀を打ち込んで、鞘に収めている。


 オークは最後まで、自分が何をされたかわかってないような表情をした。首をダラリとさせて、気絶する。


 あんな戦い方、初めて見た。これが、ヒナマルの本気か。


「死んでない?」

『命を奪うまでの力は、引っ込めておる。この歳で殺しに慣れさせると、後戻りできんでな』

 ミニムが、殺傷力を抑えたらしい。

「その方がいいかも」


 見ると、ついででヒナマルは、ゴブリンたちも斬り捨てていた。


「おいしくないなら、容赦しないよ!」

 物騒なことを言いながら、ヒナマルはゴブリンを叩き切る。


 ヒナマルに斬られたゴブリンは、次々と昏倒した。心臓を突かれたらしき個体も残さず。


 自分も氷の矢や雷を放って、ロバートは敵を蹴散らした。

 特に、遠くから魔法を撃つシャーマンタイプを優先して狙う。

 ヒナマルが倒した相手は、ロバートがトドメを刺した。


「待ってください。ダウンだけですよね? トドメを刺さないと、経験値にならないのでは?」

『抜かりなし。アイテムが手に入らんだけじゃ。経験値にはなっておる』


 なら、ヒナマルはもっと強くなりそう。



『じゃが、サポートくらいしかできぬ。油断するな。ヒナマルを守るのは、お主の役目じゃ。忘れるでないぞ』

「承知!」


 群れが三分の一ほど片付いた後、冒険者の援軍が到着した。


「よし、ダンジョンが見えてきた」


 戦闘は彼らに任せ、ロバートはダンジョンへと軌道を変える。

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