JK、ナビを使う

 ダンジョンへ向かうため、パクパカを見に行く。


「パクパカってなに? アルパカみたいなの?」

「アルパカってのがよくわからないけど、人を乗せられる動物だよ」


 馬と並んで、首の長いモフモフの生き物が。


「アルパカじゃん! でもなんか黄色い! 羽根まで生えてる!」


 ヒナマルの世界にも、似たようなモンスターがいるようだ。


「知ってるの、パクパカを?」

「例の遠足で、見る予定だったの! エサやりできるって楽しみだったんだけど」


 ロバートが召喚してしまって、流れてしまったと。


「度々、申し訳ない」

「いいって。パクパカもカワイイし。よーしよしよし」


 パクパカは首が長く、モコモコの毛が全身を覆う。足にはヒヅメがある。


「あんまり近づくと!」

 ロバートは、ヒナマルを止めようとした。


 しかし、パクパカはヒナマルを恐れていない。


「いつもは、もっと気性が荒いのに」

 その証拠に、ロバートが近づこうとすると、首を振って攻撃してくる。


 だが、ヒナマルが相手をしているパクパカは、暴れ出さない。

 特別おとなしい個体でもなかろうに。


「よーしよしよし」

 パクパカの首を撫でながら、ヒナマルは飛び移るチャンスを窺う。


「今だ。跳躍して乗ってみて」


「わかった。よっホッ、っとぉ」

 軽くジャンプして、ヒナマルはパクパカに飛び乗った。

 あっという間に、パクパカを乗りこなす。


 パクパカの方も、ヒナマルを気に入ったみたいだ。


「乗れた! ロバちゃん乗れたよ、あたし!」


 ヒナマルだけでなく、パクパカの方もうれしそうだ。


「手綱を引いて、安定させてみて」

「うん。どーうどーう。よし、いい子だねぇ」


 ロバートもようやく、パクパカをなだめた。

 背に乗って、前へ進む。


「パクパカって、もっと気性が荒いんだけどね」

「普段噛みグセのあるネコも懐いてくるし、好かれるタイプなのかな?」


 動物を手懐けるスキルも、含まれているのだろう。


「パクパカってカワイイけど、変な生き物だね」


 手綱を握りながら、ヒナマルはパクパカをゆっくりと進ませた。


「ヒポグリフってキメラの、更に交配が進んだモノだよ。ヒポグリフは性欲旺盛で、どんな種族とも子作りができるんだ」


 もう何世代にも渡って、交配が続いているという。

 もはや、どこが進化しどこが退化したのかさえわかっていないそうだ。名前も、ヒポグリフと呼びにくいから、訛ったらしい。


「で、パクパカの種は、野生動物と交配したタイプじゃないかって説がある。逃げ足だけが速いのが特徴なんだ。移動だけで、戦闘に向いていないからね」


 熱心に講釈を垂れていると、ヒナマルが口をポカーンと開けていることに気づいた。


「おっと」

 あまり解説すると、また女性をシラケさせてしまう。

 説明会はここまでにした。


「そういえばさ、キミの副業スキルがやけに高かったんだけど?」

「あー。バイトしてたからかも」


 実家がお金持ちなのに、アルバイトをする必要があるのか。


「社会勉強? ロバちゃんだって、貴族だから遊んで暮らせるはずなのに、魔王退治に行ったじゃん。それに近いかな」


 なるほど。ヒナマルが言いたいことも、なんとなくわかった。


「バイトっつっても、部活の助っ人くらいかな。食券で手を打ってさ」

「クラブは何を?」

「格闘系。あたし護身術を習ってるから」


 自衛のため、それなりに腕を磨く必要があったらしい。

 それで戦闘にあっさり適応できたのだろう。


「帰りに精肉店に寄って、コロッケ買うの。超おいしくってさ」

 楽しそうに、ヒナマルは語る。


 なおさら、帰す必要に迫られた。早く方法を考えねば。


「でさあ、ちょっと気になるんだけど」

 スマホという端末に、ヒナマルが注目している。


「それは、スマホという端末だよね」


「そうそう。地図を出せるの」

 パクパカに乗りながら、ヒナマルがスマホをロバートに見せてきた。


「こっちでも、向こうの文明は使えるんだね」

「うん。あたしも今知ってビックリ。でね、ちょっと見て」


 ヒナマルが見せてくれたのは、位置情報ゲームなるものらしい。

 歩いている場所をファンタジー世界に見立てて、架空のモンスターを戦う。

 実際の街を舞台にした、チェスのようなモノか。


 どうやら、この付近の地図を示しているらしい。ミニムの仕業だろう。


「マップなんてどうやって仕込んだんです、導師ミニム?」

『お主が寝ている間に、地図をちょちょいと取り込んだだけじゃ』

「よく使えましたね」

『ワシは適応力が高いからのう。お主と違ってな!』 


 それができること自体が、恐ろしいのだが?


「これが、あたしらの現在いるポイントね。それで、向かってるダンジョンが、ココだよね?」


 大型の魔獣をデフォルメしたマークが、ダンジョンの位置で立っていた。ミノタウロスのような怪物が、棍棒を振り回している。


「こいつは【レアモンスター】って言ってね、ボクスラスなのね」


 その怪物を倒すのが、ロバートたちの仕事だ。


「このチビのアイコンってなんだろ? めっちゃ街に近づいてきてるんだけど?」


 ダンジョンから、ゴブリンのようなアイコンがワラワラと溢れ出す。


 ロバートは、冷や汗をかく。

「大変だ。街が包囲されそうじゃないか!」

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