JKとコロッケ

「朝ごはん、どうしよっか?」

「露天が出ているから、そこで買おう」


 いつも朝食を買いに行く店へ、ロバートは向かっている。

 きっとヒナマルも気に入ってもらえるはず。


「そうだね……うわ! コロッケじゃん!」

 カリカリと音が鳴る露天に、ヒナマルが食いついた。


「コロッケパンは、ここの人気店なんだ」

「わかる! 匂いでもうおいしいって思えるもん!」


 カラッと揚がるポテトコロッケに、ヒナマルの目は釘付けになっている。


「オバチャン、コロッケパン一つ!」


「あいよ」と、女店主が長いパンを切った。


「実家がお寿司屋さんなのに、コロッケ好きなの?」

「大好き! あたし昔、生のお魚が食べられなくてさ」


 子どもなら、仕方ないかも。

 生魚は、案外珍味の部類に入るのだ。


「それでママが作ってくれたのがコロッケだったんだー。カニコロッケ!」

「カニ……ミズール・クラブのことかな?」


 指を二本「チョキ」の形にして、ロバートはヒナマルに尋ねてみる。


「そうそう! そこからパパも、コロッケなら娘も食べるってわかって回転寿司のメニューにカニコロッケと牛肉のコロッケを追加したの。そしたら大繁盛! あたしも好きになっちゃった!」


 揚がったコロッケを、店員が白パンの切れ目に差し込んだ。

 黒いソースと辛子をつけて、ギュッと挟み込む。

 このソースは、フルーツを潰してケチャップと混ぜたものである。


「はいどうぞ! 銅貨三枚!」


「ありがとう、店主」

 ロバートが代金を払い、ヒナマルにコロッケパンを渡した。


「わーい! いただきまーす」

 大きく口を開けて、豪快に口へ含む。


「味が濃いだろ?」

 パンに染みた濃厚なソースを、ロバートも堪能する。

 この絶妙な塩加減が、なんともいえないのだ。


「んふんふ、サイコー」

 目一杯頬張りながら、ヒナマルは顔を緩ませる。


「ちょっと、付いてる」

 ロバートが、ヒナマルの頬についたソースをハンカチで拭き取った。


「えへへ。ありがと」

 ヒナマルの頬が、やや赤みがかる。


「あたし当分、ここで働こうかな?」

「それがいいかもしれないね」


 たしかに、ヒナマルは副業スキルが随分と高い。

 商業と組み合わせれば、ここでも十分暮らしていけるだろう。


 ヒナマルと屋台でコロッケを売る姿を、思い浮かべた。


「ん? どうしたん?」

「いや、別に」


 ヒナマルの口元が、ニヤニヤとつり上がる。

「もしかして、想像しちゃった?」


「バ、バカ言わないでって!」

「顔に書いてる」


「からかわないで!」

 ロバートは、視線をそらす。


 大好きなコロッケを揚げながら毎日を送る、というのも悪くない。

 実に平和な夢だ。


「ごちそうさま! めちゃおいしかった」

 店主のおばちゃんに、ヒナマルが礼を言った。


「ありがとう、お嬢ちゃん。ロバート様もいつもごひいきに」

「いえいえ、そんな」


「せっかくのお相手だもの。逃がしちゃダメよ」

 女店主まで、からかってくる。


「ボクたちは、そういう関係じゃ」

「朝から二人だけで歩いていて、恋人同士じゃないって言うのかい?」


 やはり、そう見られていた!


「失礼します!」

 そそくさと、その場を離れる。


「二個目が欲しかったのに」

「お腹が空いたら、別の露店に行こう。とにかくギルドで仕事を探すよ」


 ひとまず、冒険者ギルドへ向かった。


 ヒナマルのレベルがどのようなモノか、測定しないと。今のところ、ヒナマルの戦闘力は計り知れない。多少の無理は利きそうだが。


「あれ、掲示板に行かないの?」

「うん。あそこを利用できるのは、Bクラス以下だから」

 掲示板の依頼は、料金が安い分だけ仕事も楽だ。

 トップクラスの冒険者が依頼を独占すると、後進が育たない。


 冒険者レベルが高すぎると、掲示板は必要ない。

 ロバートほどのレベルとなると、直接ギルドが依頼を回してくれるから。


 受付カウンターに座る、メイジャー夫人にあいさつをした。

 レックスの妻だ。


「すいません。何か仕事がありますか?」

 受付嬢が、一枚の紙を取り出す。


「ダンジョンにて、大型魔獣の討伐がございます」

「また、大型魔獣ですか?」


 正体不明の大型魔獣が、最近になって度々目撃されている。


「多いですよね、最近」

「そうなんですよ。討伐できる冒険者も限られていて」


 あまりハイレベルな依頼だと、ロバートが駆り出されてしまう。


「掲示板にも、でっかいモンスターの絵があったよ」

 ヒナマルが両手を広げた。


「あれは中型クラス」


「もっとデカイのがいるの?」

 手を広げたまま、ヒナマルは爪先まで伸ばす。


「見に行ったら、ドラゴンだったってコトも多いんだ。遠くまでしか近づけないから、誤情報も多い」


 ロバートが遭遇したのも、ドラゴンだった。

 大型魔獣だと聞かされていたのに。


「あのコロッケに使われているお肉も、魔獣の肉だよ」


「あのコロッケに使われているお肉も、魔獣の肉だよ」

「マジで? 食べてよかったのかなぁ?」


 無慈悲に殺された肉を食べたと思ったのか、ヒナマルは食べる手を止めた。


「かわいそうに思う必要はないよ。必要最低限の殺生だから」


 ヒナマルが、空に「ありがとう。ごちそうさま」と祈る。


「それともう一つ。ダンジョンまでの道のりは、パクパカをご利用ください」

「パクパカに乗れって?」


 人に慣れさせて欲しい、との依頼があるという。


「ボクらじゃなくて、新米冒険者でいいのでは?」

「新米なら、目の前にいらっしゃるので」


 ヒナマルを言っているらしい。


「では。お気を付けて」

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