JKと朝チュン?

「カワイイ」なんて、家族にさえ言われたことはない。

 両親や兄、妹からの愛情はあるし、ロバートも感じている。

 だが、距離を置かれていたのは事実だ。


 他にも、ロバートはあらゆる女性たちから避けられてきた。

 女性の冒険者たちのみならず、街娘までも。


 カワイイ呼ばわりされたことなど、一度たりとてない。


 しかし、そんな彼にも美しい妻ができた。

 

「ロバちゃん。ゴハンできたよ」

 リスのミニムを肩に乗せながら、ヒナマルがロバートを揺り起こす。

 彼女の左手薬指には、誓いの指輪が輝く。ピンクのエプロンがかわいらしい。


「ありがとう。今日の朝食は?」

 ベッドからロバートは起き上がり、服に着替えた。

 魔法学校講師のローブをまとう。


「ほら、ネクタイ曲がってる」

「ああ、ありがと」


 不器用ながら、ヒナマルがロバートのネクタイを直す。


 ロバートはされるがままだ。

 講師の衣装にネクタイなんて必要だったかすら、ロクに確認せず。


「顔を洗っておいでよ。ゴハンの支度するから」


「はい」

 言われるまま、ロバートは洗面台へ。

 ひげ剃りで顔を剃り、電動歯ブラシで歯を磨く。

 髪を水ですき、ドライヤーで乾かす。


 どういうわけか、未知の機材なのに使い方を知っていた。


 食卓から、いい香りがする。玉子の匂いだ。


「今日の献立は?」

「目玉焼きと、サンマの塩焼きだよ」

「うわあステキだな。ボク、ヒナマルが焼いてくれたサンマ大好き」

「えへへ。ありがと」


 サンマというのはなんだろう、と思いつつ食卓へ。


 大皿には、目玉焼きが二個のっかっていた。

 細長い焼き魚が、皿の上で寝そべっている。

 なるほど、サンマというのは魚の一種らしい。

 あとはお椀に盛られたライスと、独特の香りがするスープがある。


「いただきまーす」

 ヒナマルが向かいに座ったことを確認して、二人で手を合わせた。


 スープはクセこそ強いが、味は悪くない。

 そのうち慣れていくだろう。


「はいロバちゃん、あーん」

 お箸でサンマなる魚の身をほぐし、ヒナマルはロバートの口へ近づけていく。


「あーん」

 パクリと、ロバートも大口を開けて切り身を迎え入れた。


「おいしい?」

 首を傾げながら、ヒナマルが問いかけてくる。


「どうかしたの、ロバちゃん? おいしくないかな?」

 あまりにもロバートが長時間も硬直しているからか、ヒナマルが問いかけてきた。


「そうじゃなくて……おいしい、はずなんだけど……ん?」


 まったく、味がわからない。

「食べたこともない料理」なので、味が想像もつかないのだ。


「ヒナマル、ちょっと待って」


 ロバートが手で制すると、ヒナマルが不思議そうな顔をする。

「なんにもおかしいことなんてないよ?」


「いやいや、全部おかしいでしょ!? なんでボク、食べてる魚の名前も知らないのさ!? 日常的に食べてるはずだよね!?」


 疑問をロバートが投げかけると、さっきまで笑顔だったヒナマルが目を細めた。


『チッ……バレてしもうたか』


 ミニムの声がして、ロバートは覚醒する。

 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 目を覚ますと、昨日のベッドだった。


「おはよ」

 隣では、ヒナマルがもう目を開けている。


 案の定、何も起きなかった。

 当然だろう。

 まだ会って一日しか経ってない相手と婚前交渉など、もってのほかだ。


「愚か者め。せっかくヒナマルを嫁と認識する洗脳の最中じゃったのに」


「孫を洗脳するなよ!」


 どうやらミニムが、「ロバートがヒナマルを嫁と思い込む」魔法を浴びせていたらしい。


「やはり、イメージだけでヒナマルのいる世界での生活は出せなんだか」

「お味噌汁が、ぼんやりしていたね」


 ミニムとヒナマルが、反省会をしていた。


「今の夢って、ヒナマルが監修していたの?」

「そうそう。あたしも新婚さんってどんなやりとりしてるのか、知らないんだけど」


 話を聞く限り、ヒナマルの世界での新婚生活をモチーフにしていたらしい。そのせいで、情報が混線してしまったようだ。


 これがリアーズの世界観でやられていたら、信じてしまったかも。


「どうして、洗脳なんてしようと?」

『こうでもせんと、お主はオナゴに手を出さぬではないか!』


 ロバートは頬に、リスシッポのモフモフビンタを受ける。


「あのねえ、ムリヤリ連れてこられた子を嫁認定なんてできないって」

「じゃあ、ムリヤリじゃなきゃ、嫁認定してくれる?」


「ぐっ」と、ロバートは言葉に詰まった。


「例えばさ、お見合いとか」


「まあ、その場合は考えるかも」

 可能性を口にする。


「やったね」

 なぜか、ヒナマルがガッツポーズを取った。


「キミはいいの? いきなりこんな所に呼び出されて、順応性が高すぎなんだけど?」


「うーん。マジメに学校なんて通ってなかったから。ちょっと長めの休みをもらってるカンジかな?」


 勤勉だったロバートとは対照的な発言だ。付き合いきれない。


「行こう。ギルドで動きがあったかもしれない」

 起き上がり、ロバートは旅支度を始めた。


「どうして、こんなに朝早く出るの?」

「未成年と朝帰りだと思われたくないの!」


 まだ街が起き出さない間に、退散せねば。


 チェックアウトして、ロバート一行は外に出る。


 それにしても、宿の主人がニヤけていたのには、腹が立つ。

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