DTができるまで
「そっち!? 危険を乗り越えて帰ってきた友人に聞くこと!?」
「当たり前だろ! 万年バチェラーだった男が、いきなり若い女を連れて帰ってきたんだぜ! 話題にしないほうがおかしいだろ?」
ロバートのツッコミに、レックスも反論する。
彼の言い分もわからなくはないが、あんまりだ。
「もっと他に話すことだってあるはずだよ! 見てよ、このドラゴンのウロコを!」
ドラゴンのウロコに付けられたマークを、ロバートは指差す。
「ここに焼印があるだろ? こいつは以前から、魔王軍の配下だった証しに違いないよ。爪の形状からして、レジエンズム地方に住んでいるタイプだろう。これは岩山を登るときにしっかりと崖や窪みを掴むためなんだ。レジエンズムはゴツゴツした岩石地帯だから」
ロバートは、モンスターに関わる知識を、次々と披露する。
「わかった。わかったからロバート」
「どこがわかってるのさ! 真面目な話なんだ!」
「いいから落ち着けって!」
レックスが、ロバートをたしなめた。
「あのなロバート。女の前でそういう話をするから、周りから避けられるんだよ。七度目のコンパで懲りただろ?」
ナッツと酒を交互に煽りながら、レックスが呆れ返る。
「そういえば、そうだったね」
すっかり独演会となって女性陣がドン引きしたことを、今更になって思い出す。
「せっかく彼女ができたんだ。また昔のお前に戻る気か?」
「独り身だったのは、たまたまだよ」
「お前、つくづく女運なかったもんなぁ」
腕を組みながら、レックスが思い出にふけっている。
「故郷にいる宿屋の女の子なんて、一番お前になついていたのにな」
三歳下の少女で、食事も必ずロバートは一品多かった。
「魔王討伐から帰ってきたら、三人の子供がいて。時間の流れを呪ったよ」
「数年も音沙汰なかったら、そりゃ恋人もできるさ」
向こうも、ロバートは自分など相手にしていないと思っていたらしい。
「大本命が嫁に行って、今度こそ女性との接点がなくなってさ。他の知り合いはみんな冒険者で、異性よりモンスターを追いかけていたし」
かといって、町娘とコンパをしても惨敗続きである。
「だよな。紅一点のヘザーは生臭いながらも僧侶だし。俗世に戻るにせよ、『金持ちイケメン好き』だからなぁ」
「ボクはおろか、パーティメンバーなんて眼中なかったよね」
ヘザーは「結婚するなら、貴族か王族」と言って聞かなかった。僧侶のくせに、いや僧侶だから、安定した収入のある殿方を好むのだろう。
「自分で修道院を経営しているからね。いくらでもお金がいるんだろうさ」
「まあ、誰もヘザーを女扱いしてない辺り、お察しなんだけどな」
というわけで、ロバートは貴族といっても独身貴族になりかけ
ていた。
「そこに、あのお嬢ちゃんが登場した。どういう関係なんだよ?」
「実はさ……」
ロバートは、事実を告げる。
「うわあ。嫁って魔法で呼び出せるんだな」
「ボクも驚いてるよ。三〇歳の誕生日にもらった魔法を使ってみたら、これだもん」
しかも、相手の都合などお構いなしだ。
「で、どうするつもりだ? ご祝儀はもうちょっとまってくれ。今は何かと入用でな」
「待って気が早すぎる。それに、キミたちからお金をせびろうなんて思ってないから」
第一、まだ嫁にするとも決めていない。
「そもそも、向こうの事情も聞かないで勝手に連れてきたからね」
「じゃあ、どうする気だ?」
「元の世界に帰す方法を考える」
それしかないだろう。いくらなんでも強引すぎだ。
帰るすべが見つかるまで、当分はこの世界にいてもらう必要はある。
たしかにヒナマルは、竜族最高峰のレッドドラゴンをたった一撃で正気に戻した。
その戦力は惜しいが、ムリに戦わせるわけには。
「その方がいいだろうな。ムダに詮索されても仕方ない」
下手に彼女をアテにすれば、新たな戦の火種になる可能性もある。傭兵になんか出されたらたまらない。
「彼女、いったい何者なんだ?」
レックスが肩をすくめた。
「何も食べないの?」
さっきから、レックスの料理が来ない。
「いいんだ。酒しか頼んでねえ」
「お酒だけ?」
ロバートを食事に誘ってくれたが、レックスは酒だけを飲んでいた。軽くナッツをつまんでいた程度である。
「家で、カミさんが作ってくれるからな。食前酒みたいなもんさ」
「そっかー。なるほど」
これが、妻を持つ男の姿なのかもしれない。
早食いのロバートは、すぐに料理を食べ終えてしまっていた。
自分勝手な性格を反省する。
あとは、ヒナマルが食べ終わるのを待つばかり。
「悪いねボクたちだけ」
「いいさ。ロバートの話を聞きたかったからな。それが何よりのごちそうさ。いやあ、いい話を聞いた。お前があんな美少女を連れて帰ってくるんだもんな」
レックスが、テーブルの上に両腕を組む。
視線の先にはヒナマルが。
「ヒナマルだっけか。このドラゴンは、本当にお前さんが?」
竜のウロコをアイテムボックスから出して、レックスはヒナマルに問いかける。
「そうだよ」と告げて、ヒナマルはミートボールパスタを平らげる作業に戻った。
「信じられんな。なんらかのサポートがあったならわかるが」
「あったっちゃあ、あったね」
当時あったことを、ヒナマルが詳しく話す。
「なるほど、導師ミニムのご加護とはな」
ロバート同様、レックスも納得した様子だ。
『余ったスキルが、たまたまヒナマルとカチ合っただけぞな』
口の周りをミートソースだらけにしながら、ミニムは告げる。『ロバートだって善戦しておった。致命傷こそ追わせられなかったが、相手も虫の息に近かったわい』
ヒナマルはあくまでも、追い払っただけ。
そう、ミニムは付け加える。
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