伝説の勇者と、伝説になるかもしれないJK

 続いて、受付嬢からさらに質問が飛ぶ。


「どの学園に所属しているのでしょう?」

「大葉坂第二高校の2-B だけど?」

「ボクの教え子です! マジェストリング魔術学園、魔法剣士科の院生!」


 適当にごまかす。


 どうにか、受付嬢も納得してくれたようである。


「ああ、教え子に手を出したと。なるほど」

「なにが、なるほどなの⁉」


 まったく、この受付嬢は。


「ねえ、ロバちゃんって教師なん?」


 今度はヒナマルから質問を受ける。


「そうだよ。こう見えても、黒魔術の権威だからね」


 今は討伐任務にあたっているため、生徒育成に力を注げないが。 


「ヒナマル、ホントにJKって書くの?」

 リアーズにはない職業だ。


「一応高校生だから」

「学生だって? 一七で、まだ学生なんだね?」

「えっと、リアーズっていうんだっけ? この世界って、学校はないの?」

「一応あるよ。一五歳で卒業するけど」


 このリアーズには、魔法を習う学校が存在する。

 剣士志望といえど、一応魔法を習う。治癒などは自己責任だからだ。

 一五歳になると、そのまま魔法使いになるか、魔法も使える冒険者となる。

 あるいは、素質なしとみなされて退学させられるのだ。

 冒険者の中で魔法が使えない者は、魔法学校の落第生と見なされている。


 一七歳になってもまだ学生身分の者は、この世界にはいない。


「へえ、早熟なんだね」


 身体だけは早熟しているJKが、感心した。


「OKです。ではヒナマル様、この水晶玉に手をかざしてくださいませ」


 スイカほどある水晶玉が、受付嬢の隣に鎮座している。

 聖杯のような台に置かれていた。


「はいよー」

 水晶玉に、ヒナマルが手をかざす。


「これ、何をしているの?」

「冒険者のポテンシャルを見ているんだ。戦闘要員の冒険者になる方がいいか、商業や工芸の世界へ行くべきか調べるんだよ」


「スキルって、ゲームだと全部一緒くただよね? 戦闘用も、戦闘向きじゃない錬金術とか料理とかも」

「昔は、こっちもそうだったよ」


 しかし、「非戦闘スキルを上げていたら冒険者のランクが上がりすぎて、高難易度の戦闘用依頼しか仕事がなくなる」という不公平が生じてしまった。

 こんな事態をなくすため、戦闘と非戦闘のスキルは分けたのだ。


 仰々しい台も、ちゃんと意味がある。

 この台を伝って、ギルド内データベースから冒険者見習いの的確なポテンシャルを割り出すのだ。


「出ました。副業スキル、戦闘スキル共にトップレベルなんですが!?」


「本当だね。魔法は大したことないけど、剣術が随一だ。勇者レベルじゃないか」


 意外だった。

 戦闘スキルはミニムの引き継ぎだから、まあいい。

 問題は副業レベルだ。


「どの辺りが?」

「商業スキルが高いですね。どんな商売もこなせますよ」


 戦闘は危ないから、商売方面で当分は働いてもらうのも手か。

 彼女にそのつもりがあればいいのだけれど。


「ロバートはいるか!? まだ帰ってないよな!?」

 金髪にわずかながら白髪の混じった男性が、息を切らせてカウンターから大声を上げた。三〇代の中年とはいえ、筋肉はまるで衰えていない。


「ボクなら、ここにいるよ。レックス」

 手を上げて、ロバートがかつてのパーティメンバーに声をかけた。


「おお、相変わらず人と目を合わせられないんだな。友だちなのに」

 軽口を叩きながら、レックスはカブト姿のロバートに微笑みかける。


「ゴメンゴメン。ついクセで」

 急いで、ロバートはカブトを脱ぐ。


「ロバちゃん。レックスって、さっき話してた?」

「ああ。俺はレックス・メイジャー。ここのギルドマスターで、かつての剣聖だ」


「ヒナマルです。こんちは」

 手を上げて、ヒナマルはレックスに笑顔を向けた。


「ついでに、俺はこの受付嬢の旦那さまだ」と、レックスが受付嬢の肩を抱く。


「立ち話もなんだ。晩メシでも一緒にどうだ?」

「あっ。もうそんな時間が」


 窓の向こうは、もう日が陰っていた。


 ギルドの近くにあるカフェにて、ロバートとレックスは同じテーブルを囲む。


「久しぶりだな。ロバート」

「奥さん大丈夫なの? 身体は」


 現場復帰するには、早すぎる気がしたが。


「心配ない。産後から一ヶ月でもう働いている。カミさんのおふくろさんが、子供の面倒を見ているよ」


 身体を動かしている方が、彼女にとては楽らしい。


「早く復帰できてよかったな」


 ちなみに、ヒナマルはミニムと一緒に山盛りパスタと、オレンジジュースを食べている。レックスにおごってもらっていた。


「悪いな、ボクまでおごってもらって」

「ドラゴンを倒してくれたんだ。これでも足りないくらいだ」

「殺していない。撃退はしたけれど」

「同じようなもんだ。追っ払ったことに違いはねえ」



 レックスが物々しい様子で、身を乗り出してくる。「ところで」と、話を切り出してきた。


「お前にどうしても、話を聞きたかったんだ。メシ代は、取材費と思ってくれていい」


 真剣な眼差しを、ロバートも返す。


 強いモンスターが、まだこの世界に残っているのだ。世界の危機が、また迫っていると考えていいだろう。



「ヒナマルと言ったな、あの娘。お前、あの娘とはどういう関係なんだ?」



 ロバートは、テーブルに額をぶつけた。

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