JK召喚は、ただのマッチング結果⁉

「そうなんですか!?」


 寝耳に水である。

 てっきり「強い召喚獣を呼ぶ魔法」だと思っていた。


「どうして教えてくれなかったんですか!? ボクをダマすなんて!」

『やかましい。こうでもせんと、お主は嫁をとらんじゃろうが!』


 たしかにそうだが!


「それじゃあ、召喚時に理想の女性像ばかり浮かんできたのは?」

『理想のオナゴをイメージさせるために、決まっておるじゃろうが!』

「圧の強い言い方されてもぉ!」


 このやりとりに困り果てたのは、呼ばれた本人であるヒナマルだ。 


「なんかショックだわぁ、あたしぃ。なにか使命を持って、この地に呼ばれたんだと思ってたからさぁ」


 おっしゃるとおりである。


「ごめん、こんな師匠で」


『黙らっしゃい。だいたいお主が子孫を残さんからこんなことになるんじゃ! 勇者たるもの、血筋を残すことも考えんと!』

 モフモフシッポで、ミニムが往復ビンタをしてきた。


「あのー。ロバちゃんが勇者って、どういうこと?」

『こやつはのう、魔王を倒したのじゃ』


 かつて、魔王が世界を支配していた頃、四人の勇者が討伐隊として集結した。


 紅き剣聖 レックス。

 黄金の槍 アーチエルフの君主 ゴットフリード。

 癒やしの青空 ドワーフの僧侶 ヘザー。


『中でも黒鉄くろがねの魔術師、このロバート・デューイは、魔王にとどめを刺した本人じゃぞい』


「へー、スゴいじゃん!」

 尊敬の眼差しを、ヒナマルはロバートに向けた。


「孫の活躍を誇張しているだけだって」


 肉親と思うと修行の手を緩めてしまう。

 よって、ミニムは孫にまで「師匠」と呼ばせている。


「お寿司屋さんと一緒だね。パパもじいちゃんを師匠って呼んでたよ。パパの弟が継ぐようになって、修行はあきらめだけど」


 ヒナマルの父親がチェーン店の店長となった背景には、複雑な事情があるようだ。


「とにかく、魔王を倒した感触は、今でも覚えているよ」


 思い出すだけで、不快感が漂う。

 世界を救った爽快感なんて、まるでない。

 あるのは、人の命を奪った感覚だけ。


 ロバートは、すっかり病んでいた。

 一人旅も、半ばヤケクソだ。

 こうでもしないと仲間に依存し、引きこもってしまうと思ったからだ。


「ボクは、英雄でもなんでもない。普通の生活をしたかったんだけどね」

 自虐的な笑みを、ヒナマルに向ける。


「今からでも、遅くないと思うよ。ロバちゃんは、まだ心が死んでない」

「そうかな?」

「きっとそうだよ! だって、あたしを救ってくれたんだもん!」


 たしかに、自分はヒナマルを救ったことになっている。でもそれは、ただの不可抗力だ。偶然に過ぎない。


「たまたまだよ」


「違うと思う! こういうのってさ、運命なんだよね。合わない人はトコトン合わないし、かと思ったらフッとマッチする人が現れてさ」


「キミくらいステキなら、もっといい人がいるよ」


「いないって! みんなお金目当だったり、いやらしい目でしか見てこなかったもん。だからあたしさ、誰とも付き合ったことないんだよね」


 明るい性格だが、ヒナマルも不自由していたのだろう。端々から、傷になる言葉が飛ぶ。


「殺した命があったかもしれない。でも、ロバちゃんが救った命はここにある!」

 ヒナマルが、自分の胸を手のひらで叩く。


「ありがとう。救われたよ」



 コホンと、ミニムが重い空気を断ち切った。

『まあええ。で、早う済ませい』


「は? 契約はさっき終わりましたが?」

『バカモン! 夜伽のことを言っておるんじゃ!』

「師匠、声がデカい!」


 せっかくいいムードだったのに、雰囲気をぶち壊すとは。


「あのさ、【よとぎ】って何?」


『ヒナマルよ、お主もウブなやつよのう』

 またも、ミニムが耳打ちする。


「ありゃりゃーっ! マジかー」

 両方の頬に手を当てて、ヒナマルが焦った。


「いいから、早く街に行きますよ!」


 帰るすべが見つからない以上、ヒナマルは当分ここで暮らすことになる。


 ならば、冒険者登録をせねばなるまい。

 

「さすがロバちゃん。こんな寒い森の中じゃなくて、ちゃんとしたベッドまでエスコートするつもりなんて!」

『DTの考えそうなことよ』


 ありえない妄想を、後ろの二人は抱いていた。


「二人して何考えてんの!? 置いてくよ!」




(第一章 完)

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