DTとJKとBBA

『久しいのう、若造。童貞をこじらせて地球の少女に手を出すとは』

 まるでロバートのすべてを知っているかのように、白いリスは軽口を叩く。


「ねえロバちゃん。この子だよ。あたしにずっと説明をしてくれてたの。この子、何者なん?」


 白いリスを手に乗せて、ヒナマルが尋ねてきた。こっちが聞きたい。


「この人が、白き魔女【二分音符ミニム】。ボクに魔法を教えてくれた師匠だよ」


 紹介されたリスは、ドラゴンの骨に着いたスジ肉を前歯でこそいでいる。


『いかにもワシは、白き魔女ミニムである』

 ミニムは、二本目の骨にかじりついた。


「リスが師匠なの?」

「違うよ。本物の師匠は老婆で、出歩くこともないんだ」


 ひょっとしてと思い、ロバートはアイテムを探る。

 やはり、師匠からもらった【モフモフのおもちゃ】がなくなっていた。

 あの白いモフモフが、このリスなのだろう。


『魔力をリスの形にして、遠隔操作で会話しておる』

「おばあさん、あたしがあのドラゴンをやっつけたときに、話しかけてこなかった?」

『うむ。お主に戦闘能力を与えたぞい。若かりし頃に持て余していた近接戦闘スキルを、ありったけお主にブチ込んでやったわい。どうせ腐らせるからのう』


 美少女になんてことを。魔改造も甚だしい。


 ヒナマルがこの世界で会話できるのも、武器を扱えるのも、謎のプロテクター装着も、すべて師匠ミニムの与えた恩恵だとか。


「そうなん? あんがと!」


『ただ、あまりアテにするでない。たしかにワシは死なん。じゃが無害じゃ。あくまでも戦うのはお主ゆえ、覚悟せいよ」


「はーい。わかった」


 ヒナマルは、やけに物分りがいい。

 この世界がゲームだと思っていたからか? 


「これから、師匠のところへ相談しに行こうとしていたんですよ!」

『いんや。その必要はない。ワシがこの娘と共にある。ヒナマルとやら、安心なされよ』


 師匠のフォローがあるなら、百人力だ。


『ワシがこの娘をフォローするのはええんじゃ。ところで弟子よ、もう済んだのかえ?』


「あっ、契約はまだです!」


『バカモンが! 早うせんか!』


「すいません。今からやりますっ!」


 戦闘で、すっかり忘れていた。


「それって、やらないとヤバいの?」

 ヒナマルが聞いてきた。


『ヤバいのじゃ』


「召喚士と被召喚者の本契約をしないと、キミはこの地に留まることも、帰ることもできない」


 本契約を済ませないと、肉体がどちらにとどまっていいのか判断が狂う。

 召喚時に通過した、時空の彼方に被召喚者が放り出されてしまうのだ。


「わかんない。一言で!」

「キミは死ぬ」

「ざっくりすぎ! でも理解できた!」


 急いで、正式契約の準備をする。アイテムボックスから、白い小さな指輪を取り出す。


『白の指輪、準備ヨシ!』

「ヨシ! ああ、でもサイズが」

『そんなもん気にせんでええ。勝手に指輪がフィットするから、安心せい!』


 そういえば、モンスターの腕にもはめられる仕様になっているのだった。

 自動でサイズが調整されるならば、安心か。


「はい。それじゃあ、手を取っていい、ヒナマル?」

 ロバートは、ヒナマルの左手を取った。


「なんか、結婚式みたい」

「うん。なんか緊張するね」


 ヒナマルは左手の薬指に、白い指輪をはめた。


『よし! これで、夫婦成立じゃ!』 


「……は?」

 ロバートは、ミニムが何を言っているのかわからない。


 意味がわかっていないのか、ヒナマルがキョトンとしている。


「あのさ、状況が飲み込めないんだけど?」

 リスのミニムが、ため息をつく。


『実はのう、ゴニョゴニョ……』

 ヒナマルの肩に乗り、ミニムがヒソヒソと耳打ちした。



「えーっ!? あたしって、ロバちゃんの嫁としてココに呼ばれたの!?」


 ロバートがミニムから伝授されたのは、

【理想とする相手を呼び出せる】

 魔法だったのである。

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