偶然、JKを助けていたDT
ヒナマルが解体を終えた。
素材を全て、アイテムボックス代わりのポシェットへ放り込む。
「キミは、召喚される前は何を? お昼を食べていたみたいだったけど」
「ああ、そうだった。うう、お腹も鳴るし」
ヒナマルがお腹を抑えた。
「昼食にしよう。そこで、キミが連れてこられた理由も話すよ」
岩山の下を、安全な森林地帯まで降りる。
ロバートが焚き木に火をつけて、ドラゴン肉を炙った。
「うん。いい感じ。どーぞ」
「いただきまーす! うん、うまい!」
ヒナマルが、十分に火が通った骨付き肉にかぶりつく。
豪快な食べっぷりだ。
「ほら、ロバちゃんも」
骨付き肉を、ヒナマルが差し出してきた。
「ボクはいいよ。何もしていない」
働かざるもの食うべからずである。
「いやいや食べなって。一人で食べるの、寂しいから」
「なら、いただきます」
ロバートは、レッドドラゴンの肉をかみしめた。
ドラゴンの肉なんて、魔王討伐後の祝勝会以来である。
「ごめんね。昼食時を邪魔してしまったようで」
炭化したヒナマルの弁当箱を思い出し、ロバートは詫びた。
「そうでもないよ。ロバちゃんが助けてくれたんだよね。ありがと」
「えっ。ボクがキミを助けた?」
どういうことだろう?
「遠足の授業だったのね。あたしさ、バックレたんよ。高校で知り合ったユミって娘と、そのカレシと一緒にいたんだけどね」
同行していたユミという友人が「山登りの授業なんてつまらない」と、言い出したとか。
友人とそのカレシと、数名で勝手に行動を始めたそうである。
「そしたら、ユミがカレシとどっか行っちゃってさ。あたし一人でウロウロしてたんよ」
クラスともはぐれてしまい、お腹が空いてきた。「一人飯をするしかない」という状況に。
「でさあ、ごはん食べよーってときにさ、岩が降ってきたの! さっきの子の頭くらいあるデカい岩が!」
ドラゴンが去っていった先を、ヒナマルが指差した。
「走馬灯ってさ、ホンットにあるんだよね! ビックリした! パパとママになんにもしてあげられなかったなーとかさ、もっとお料理勉強してお店やりたかったなーとか思っちゃって!」
さすがのヒナマルも、死を覚悟したという。
「あと少しで岩の下敷きになると思った直後に、変な土地に来てあんたとバッタリ」
駆けつけ早々にドラゴン退治とは、恐れ入る。
「ところでさ、ロバちゃんは海外の人?」
「まあ、そうなるかな?」
この娘からすると、明らかに自分は海外出身者だろう。
「言葉が通じてるけど!?」
「それは、どうしてかわからないけど」
ロバートも不思議に思う。
「で、ロバちゃんが、あたしをココに連れてきたってわけかー」
「……ごめんなさい」
「それはそうと、ココってどこ? 地球でいうと、どの辺?」
地球というのが、彼女の住む星らしい。
「ここは、地球とかいう場所じゃないね」
リアーズというのが、この世界の名だ。
そう、ヒナマルに教えてあげる。
「マ!? ってことは、ここってガチの異世界!?」
「そうなんだ」
「じゃあ、この妙にリアルっぽいドラゴンも、本物?」
「うん。キミが倒した」
なんの戦闘スキルも持っていないのに。
「それで、どうしてあたしはこの世界に?」
「話せば。長くなるんだけど」
ロバートはヒナマルに、事情を説明した。
「ふーん。で、ロバちゃんがピンチッたから、あたしを呼び出したと」
「そうなんだ。厳密には女性のサムライを呼ぶつもりだったんだけど……」
「誘拐目的ではないよね?」
雇われ店長とはいえ、ヒナマルは裕福な家庭に住むお嬢様だ。
命の危険があってもおかしくはない。
「当然。蓄えはあるし、人をさらう理由なんてないよ」
ヒナマルがお嬢様だと知ったのも、ついさっきである。
「あたしが魅力的だったから、ってことも?」
ふざけた調子で、ヒナマルがしなを作った。
「さすがにそれはない!」
自分はいたって健全だ。未成年に手を出すなど、ありえない。
「そんなにあたしって魅力ない?」
「じゃなくて!」
どうにか弁解し、身体目当ての召喚ではないと強調した。
「これから、どうすんの?」
「とりあえず、師匠のところへ行く」
師匠の元へ趣き、ヒナマルが帰れる方法を探す。
「どうして召喚されたのがキミだったのか、どうしてドラゴンをあっさり退治できたのか、謎が解明できるかも」
だから、師匠のところを訪問しに行く。
とはいえ、師匠の家は随分と遠くにある。
残党の討伐は中断せねばなるまい。
『そんな手間は無用じゃ』
ヒナマルのポシェットが、ガサガサと動き出した。
現れたのは白いリスである。
『この娘は、ワシが育てた』
「え、師匠!?」
ロバートは、リスの声に聞き覚えがあった。
なんと、師匠の声色だったのである。
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