ドラゴン VS JK! ~もう全部、あの娘一人で十分なんじゃないかな?~

 どうやら、召喚には成功したらしい。

 その証拠に、魔法陣召喚の際にロバートが投げたモフモフを、ヒナマルは腰に携帯している。


 サイドテールで、胸はそこそこ大きくて。


 ロバートは、もっと詳しく事情を聞き出そうとする。


「えっとー。じぇーけーっていうのは||」


「うっひょーすっげーっ!」

 ロバートの話を聞かず、いきなりヒナマルが立ち上がった。

 ドラゴンの元へ、一目散に駆け出す。


「こらこら、危ないから!」

 ロバートはヒナマルを羽交い締めにした。


 本能で動く様は動物みたいだなーと、ロバートは思う。


「マジドラゴンじゃん! すっげ! ホンモン始めてみた! どこのアトラクションだろ?」


 ひなまるはバシャバシャと、なにか端末のボタンを人差し指で押している。

 シャッター音がしているところから、どうやら写真を撮っているようだが。


「うっわ。間近で見ると超リアル。生きてるみたい」


 実際に、このドラゴンは生きている。

 ヒナマルの態度に困惑している辺り、より生々しい。


「何をしてるの?」

「スマホで写真にとって、SNSにアップすんの」


 どうにかヒナマルがおとなしくなったので、ロバートは拘束を解いた。


「SNS、とは?」

「遠くの人と会話のやりとりする、アプリのこと。知らなそうだね。仙人みたいな格好してるし」


 アプリ、という単語さえわからない。

 遠方の相手と通話や文章の贈り合いができるとは。

 便利なツールと言えるだろう。


「ドラゴンを知っているってことは、キミの住む世界も、ドラゴンが?」


 まるで危険な世界から来た、という印象はないけれど。


「ゲームに出てくるよ。デカくてさ、討伐に一時間位かかんの。堅ってーのなんのって」



 そんなゲームが存在するのか。 

 コマやカードをモンスターに見立てて戦うボードゲームくらいは、こちらの世界にもある。

 が、ヒナマルのいうゲームはもっと進化しているのだろう。


「あっれー? 繋がんねえ。Wi-Fi飛んでねーじゃん。んだよ世紀の大発見ってのに」

 ヒナマルは、スマホとかいう端末を手でペシペシと叩く。


 とにかく、早く逃さないと。


 レッドドラゴンが、困惑から立ち直ってしまった。


「え、こいつ動くの?」

「動くよ! モンスターなんだから!?」

「CGだと思ってた!」


 ゴパアと、ドラゴンの口が開く。


「危ない、ブレスだ!」

「え?」


 ロバートはヒナマルを抱えて側面へ飛んだ。


 瞬間、岩をも溶かすブレスが、さっきまでヒナマルがいた場所を灰にする。


「大丈夫!?」

 ドラゴンの灼熱すら通さないミスリルヨロイで防護したから、無事だといいが。


「平気平気。つーか、熱っつ!」


 地面の熱がまだ冷えていない。


 真夏のような温度に、ヒナマルが音を上げた。


「無事ならよかった」

「ちょっと、どいて欲しいかな?」


 気がつくと、ロバートはまだヒナマルを抱いている状態のままではないか。


「しまった。ごめん!」

 慌てて飛び退く。


 ケガはないようだ。しかし……。 


「ああああああ!」

 突然、ヒナマルが悲鳴を上げた。


「大好物のコロッケがぁ!」


 ヒナマルの視線を追うと、そこには火ダルマになった弁当箱が。

 ブレスの直撃は免れた。

 が、風呂敷に炎が燃え移り、弁当箱を燃やしている。

 中身まで燃やすのに、さほど時間がかからなかった。



「おのえええ! 食べ物の恨みは恐ろしいんですけどぉ!」

 ワナワナと、ヒナマルが怒りに震えている。



「え、何?」

 今度は、ロバートが軽く悲鳴を上げる番だった。


 ロバートのアイテムボックスが、暴れだす。

 取り押さえようとするが、言うことを聞かない。


「うわ、なんだっ!?」


 ひとりでに、アイテムボックスから何かが飛び出す。

 例の使えない刀と、ミスリルの原石が。


「どういうことだ?」

 目の前で、世界の法則では説明がつかない現象が起きている。


 ヒナマルの手に、白鞘の刀が収まった。

 少女の左半身を、ミスリルのプロテクターが覆う。


「あれは、サムライ!」

 おとぎ話でしか見たことのない剣聖が、眼前にいる。


 ロバートがイメージしていた通り、いやそれ以上に美しい剣姫が参上した。


 ヒナマルが、ドラゴンを見据える。


「無茶だ。いきなりレッドドラゴンと戦うなんて!」


 止めに入ろうとする前に、ヒナマルは動いた。

 跳躍して、斬りかかる。


 ドラゴンはヒナマルを撃墜しようと手を振り下ろす。

 蚊でも叩き落とすような、相手を舐め腐ったモーションで。


 ヒナマルが勝った。腕を切り落としたのだ。

 凶暴な腕攻撃を切り捨てた刀身は、瞬時に鞘へと収まっている。


「太刀筋が……見えない!」


 戦闘能力なんて、ないように見えたが。


「キミ、戦闘経験者?」


 熟練のソードマンでさえ、ドラゴンの腕を斬るなんてできないのに。


「わっかんない、全然。頭の中にゲームのイメージが湧いただけ!」


 恐怖に怯えたドラゴンが、大口を開けた。

 不利な形勢を逆転させるつもりだろう。


「さっきのブレスが来るぞ!」


「望むところ!」

 ヒナマルは逃げない。ブレスにさえ立ち向かう。


「ダメだ!」

 ロバートは、ヒナマルの前に立とうとした。ブレスを遮ろうと。


「え、これでいいの?」

 誰と話しているのか、ヒナマルは刀を抜く。

 どうやら、モフモフと語り合っているようだが。

 上段の構えで、ドラゴンの正面に立つ。


 無情にも、ブレスは放たれてしまった。


「やああああ!」


 同時にヒナマルは、刃を真一文字に振り下ろす。


 太刀から、桜色の衝撃波が放出された。




 ヒナマルの放った桜色の刃は、岩山すら溶解するブレスさえ断ち切った。


「ええーッ!」

 思わず立ち止まり、ロバートは愕然となる。


 ドラゴンのブレスを斬った冒険者なんて、歴史上存在すらしない。それこそ、物語の世界でしか。


 伝説に聞いたことがある。

 刀の凄さは切れ味でも、鋭さでもない。熟練者が振れば、魔力で構成された光の刃を撃ち出せることにある、と。


 ヒナマルは、それをやってのけたのだ。


「んっとー。アンタは、元は悪い子じゃないみたいだ、ね!」


 再度、JKは刀を振り下ろす。


 銀色に光るカマイタチ状の衝撃波が、レッドドラゴンの身体を突き抜けた。


「死んだ?」

「ううん。悪い心だけを斬ったんだって」

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