DTをこじらせたおっさん魔道士、地球からJKを召喚してしまう

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 どうしようもない魔道士に、JKが舞い降りた

手違いでJK召喚

「なんてこった」

 黒鉄の魔道士ロバート・デューイは、レッドドラゴンと睨み合っている。


 魔王軍の残党を狩る旅の中、最大級のモンスターと対峙してしまった。


 身にまとう黒い金属ヨロイは、薄いながらもドラゴンの爪やブレスにも対抗してくれている。さすがミスリル最高位といえよう。


 だが、身を隠していた岩は、ほとんどがチーズのように溶けてしまった。


 これでは、息を整えることさえ難しい。


 さっきからロバートは、動きっぱなしだった。


 世界を制圧していた魔王をロバートたち勇者勢が倒して、もう三ヶ月が経つ。

 なのに、まだこれだけ強力な相手が残っていようとは。


「これはもしかすると、まだ魔王は滅びていないのでは?」

 あらぬ予感が、ロバートを襲う。


 できればデタラメであってほしいが、楽観視はできない。


 一度国に帰ったら、報告が必要だな。


 無事に帰れたらの話だが。


「ちくしょう、なんでよりによって単独行動のときに!」


 ロバートは、仲間を連れていなかった。


「大将のいない魔王軍なんて楽勝っしょ」と余裕をかました、出発前の自分を殺したい。


 実際楽勝モードで、大した危険もない。


 こんな凶悪な敵がいるんだと知っていたら、ロバートも無茶はしなかった。


 しかし、こいつを放置しておけば、すぐ下にある街に被害が出る。下の村は単なる農村で、戦力なんてない。


 ロバートがわざと前に出ているのは、ドラゴンの注意を村から遠ざけるため。


 ここはムリをしても、ロバート単騎で対処せねば。最悪、刺し違えてでも。


「くそ、三〇過ぎたDTのまま死にたくない!」


 決死の状態で、ロバートを奮い立たせている理由が、それだった。


 ひとり、ロバートが残党狩りをしているのも、周りが結婚したからである。

 彼らは揃いも揃って、愛する妻が産気づいた。


 独身のロバートに、そんな相手はいない。

 別にポリシーがあるわけでもなかった。

 単にタイミングが悪いだけ。


 魔王討伐の旅に出ている間、仲間は恋人を得ている。

 故郷の娘たちも、出会った美女たちもみんな嫁に行った。


 そもそも、「出産に立ち会う友だちに迷惑をかけたくない」なんて言っている段階で、彼に婚期など訪れない。


 自己犠牲的な思考は、ときとして女性を遠ざけるものだから。


「せいや!」

 ロバートは、五度目の電撃を放つ。


 ドラゴンのウロコを貫けない。

 とはいえ、確実にダメージは与えていた。

 電撃を撃っているのも、全身に衝撃波を浴びせるため。

 そこへ、弱点の冷気でも浴びせれば。


「いける! だけど」


 もっとだ。さらなる決定打が欲しい。

 まだ足りなかった。


 自分の得意技は、よりによって「一点集中の爆炎」なのである。相性が悪すぎた。


 戦力は、おそらく互角だろう。

 いや、相手の方は頑丈で、魔法も通りにくい。

 圧倒的に不利だ。


「そうだ。あれをやるチャンスじゃないか!」


 召喚魔法を教わっていたじゃないか。

 師である魔女に教わったあの召喚魔法を。


「自分がもっとも望んでいる相手が見つかる」と、師匠も言っていたではないか。


 今が、その時だ!


「……」


 ブレスを回避しつつ、複雑な呪文を唱える。

 アストラル界へとコネクトした。


「たしか、具体的な『そばにいてほしい人』をイメージするんだっけ?」


 前衛に立ってくれる子がいい。防御は間に合っている。ウロコを断ち切れる強力な攻撃力が欲しい。


【サムライ】だ。

 

 たしか、おとぎ話の世界にそんな職業があったと書いてあった。ドラゴンさえ一撃で葬り去るという。


 幸いなことに、刀は持っている。

 誰も装備できなくて、産廃になった刀が一振りだけ。

 素材に解体しなくてよかった。


 どうせなら、女子のサムライがいい。


 サイドテールで、胸はそれなりに大きくて。

 利き手じゃない方は、ミスリルのプロテクターで覆う。


 ちょうど盾作成用の素材なら、アイテムボックスの中に余っている。

 自分はアイテム作成スキルもあるから、秒で作れそうだ。


「自分が遠慮がちな人間だから、ちょっと強引なくらいの女の子が……いやいやバトル中だっつーの! なんで一瞬で、顔の造形まで浮かぶんだっての⁉」


 本当に、ロバートはどうしようもない。


「なんでもいいから、強い女の子を……って! だから、どうして女子限定なのかなぁ⁉」


 この期に及んで、女子と仲良くなりたがっている自分を呪った。

 こんなときは、もっと無機物や動物などを選ぶべきだろうが、と。


「ええい。ちくしょう! どうせ死ぬなら、女の子と……いや勝つぞ! ボクはこんなところで死ねるか! その娘も守る! 絶対!」


 ロバートは、召喚する女性のイメージを終えた。


「いでよ!」

 上空に、魔法陣が拡がる。


 何事かと思ったのか、ドラゴンが突撃をためらった。

 ブレスを吐くことすら忘れて、魔法陣を警戒している。


 魔法陣がグニャグニャと曲がって、人の形をしたシルエットとなった。


「くるぞ!」

 ポンッ! と、魔法陣が消える。



 そこには、ぺたんこと座る少女の姿が。



「あれ? ここどこ⁉」

 黒髪サイドテールの女の子は、明らかにこの世界に住むどの種族とも違った。


 冒険者ギルドの受付が着るようなブレザーに、チェックのミニスカート姿である。オレンジ色のカーディガンを、腰に巻いていた。足は白いニーソックスで覆われている。


 手に、黄色い小さな弁当箱を所持していた。

 特殊な素材でできているらしく、携帯性が高そうに見える。


「えーっ! なにココ? 遠足は山だって聞いてたのに、こんな岩ばっかりの場所って聞いてないんですけど⁉」


 少女は手に弁当箱を持ったまま、辺りをキョロキョロした。

 何が起きたのか理解できていない様子である。


「あの、こんにちは。言葉はわかるかな?」

 恐る恐る、少女に声をかけてみた。


「うお、フルフェイス! あんたが誘拐犯⁉」

「ああっ、そっか。ごめんなさい。あと誘拐じゃないです」


 カブトを脱ぐ。

 いつもは人の視線が怖くて取らないのだが、顔を覚えてもらわないと。


「おお、声は若いけど、見た目はおっさんなんだね」


 失礼なことを言われたが、勝手に呼び出したのは自分である。怒れなかった。


「ボクは、キミを呼び出したロバートという。魔法使いだよ。キミの名前は?」 


「ヒガシマル ヒナコ。ヒナマルって呼んでよ。職業は……えっとー、JKだよ」


「じぇーけー、とな?」

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