第4話 最高傑作
警察署の二階は刑事課のフロアらしく、体格の良い強面の男性が廊下の壁にもたれかかっていた。これでは取調室に行くことが出来ない。
「どうするの、
「そうですね……」
シェンリーの問いかけに、美空は少考して答える。
「このまま強行突破しましょう」
「そんなことして、本当に平気?」
「はい、私の実力なら大丈夫です」
心配そうな眼差しでこちらを見つめるシェンリーを横目に、美空は堂々と男性の前に立った。そして、すかさず魔法を発動させる。
「魔法目録十二条、催眠」
すると男性は、全身の力が抜けて壁伝いに床に腰を下ろした。そのまま頭を前に垂らし、いびきをかき始める。
「この人、美空お姉さんが眠らせたんだよね……?」
近づいてきたシェンリーが、男性の顔を覗き込んで言う。
「そうですよ。催眠魔法です」
「美空お姉さんって、もしかしてすごい人?」
「さあ、どうでしょう。それよりも、他の人に気付かれないうちに早く取調室に向かいましょう」
「うんっ!」
美空とシェンリーは音を立てないよう注意しつつ駆け足で取調室を目指す。
曲がり角や扉の前では念のために立ち止まって安全を確かめた。それでも途中何度か危ない場面はあったが、何とか無事に扉の前まで辿り着くことに成功した。
「ここにお姉ちゃんがいるんだね」
「そのはずです」
小声で聞くシェンリーにこくりと頷いた美空は、一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
「では、入りますよ」
指でスリーカウントし、勢いよく扉を開く。
「動かないでください! ここにワン・メイフェンさんはいますか?」
「誰だ貴様ら!?」
「なぜ子供がこんな場所に!」
取り調べ中だった男性刑事二人が慌てた様子で立ち上がる。一人は五十代、もう一人は三十代といったところか。
奥の椅子には自分より少し年上と思われる女性が座っていた。左の頬が赤く腫れ上がっていて、その姿はとても痛々しい。恐らく取り調べ中に殴られたのだろう。
そんな女性を見て、シェンリーが大きな声で叫ぶ。
「お姉ちゃんっ!」
どうやら彼女がシェンリーのお姉さんであるメイフェンのようだ。
「チッ、こいつの妹か」
「しかし、もう一人は誰です?」
「知らん。しょうがないからまとめて処分するぞ」
コソコソと話し合う男性刑事二人。だが、その内容はこちらに丸聞こえだ。と言うよりも、あえて聞かせたという方が正しいかもしれない。
自分たちを怯えさせ、反抗させないようにする作戦。子供だと思って完全に侮っている。
実際シェンリーはぶるぶると身体を震わせ、美空の背後に隠れるようにしている。だが、美空にとってはそんな脅しは全くの無意味だ。
「私、動くなと言いましたよね? 命令に従わないなら、あなたたちを痛い目に合わせますよ?」
美空は微笑を浮かべ、ゆっくりと足を前に踏み出す。
五十代の男性刑事にはそれが意味不明な行動に映ったのだろう。顔を顰め、声を荒らげる。
「おい、貴様! 動くな! 主導権は我々にあるのだ!」
「いいえ。この場を支配しているのは私のはずですよ」
「この命知らずめ、撃ち殺してやる!」
苛立ちを隠せない五十代の男性刑事は、拳銃を取り出し銃口をこちらに向けた。
「……その手の脅し、もう飽きたんですけど」
それと同時に、美空は右手を前に伸ばして魔法を唱える。
「魔法目録八条三項、物質破壊」
そして、その魔法を刑事の握る拳銃へと放った。
「ふん、黙れ小娘ッ!」
まさか本当に魔法が使えるとは夢にも思っていないのか、五十代の男性刑事は美空の行動を意にも介さず引き金に指をかける。しかし、銃口から弾は発射されない。それどころか、拳銃がバラバラに壊れて床にパーツが散乱した。
「一体、何が起きたというんだ……!」
拳銃のパーツだけを握る手元を見て、明らかな動揺を見せる五十代の刑事。
そんな刑事の胸ぐらを掴み、美空は不敵に笑う。
「だから、主導権は私にあると言っているじゃないですか」
「クッ。貴様、何者だ!」
「これを見ても、名乗る必要がありますか?」
美空は五十代の刑事を蹴り飛ばし、逃げようとする三十代の刑事に視線を向けた。
右手をそちらに伸ばし、神経を集中させる。
「魔法目録二条、魔法光線」
魔法を唱えると、右手から光線が真っ直ぐに放たれ、三十代の刑事の背中に直撃した。その勢いで三十代の刑事は廊下まで吹き飛ばされ、壁に身体を打ち付ける。
それを傍で眺めていた五十代の男性刑事の表情は、みるみると絶望のものへと変わっていった。
「そうか、思い出した……。貴様は、皇国の最高傑作と呼ばれた魔女……」
そう。私は
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