第2話 支配下の警察
「ここが警察署だよ」
シェンリーの案内で警察署に辿り着いた私は、早速中に入って受付の女性に話しかける。
「すみません。この女の子のお姉さんってここに来てますか?」
「その方のお名前は?」
女性の問いかけにシェンリーが答える。
「お姉ちゃんの名前はワン・メイフェンだよ」
「かしこまりました。確認致しますので少々お待ちください」
女性はそう言うと受話器を取りどこかへ電話をかけた。何度かのやり取りの後、そっと受話器を置く。
「申し訳ありません。ワン・メイフェンさんは引き渡すことが出来ません」
そんな。一体どうして。
私はシェンリーと顔を見合わせてから、女性に質問する。
「なぜです?」
「ワン・メイフェンはスパイ容疑で捜査中です。もちろん面会も制限させて頂きます」
厳しい表情で簡潔に説明すると、私たちの発言を先回りするようにそう付け加えた。取り付く島もない。
「お姉ちゃんは写真を撮ってただけ! 絶対にスパイなんかじゃないっ!」
シェンリーが必死に主張する。でも、この人に何を言ったところで意味は無いだろう。女性はただの受付であってシェンリーのお姉さんを解放する権限など持っていないはずだ。
「うーん……」
私は腕を組んで頭の中を整理する。
これは思った以上に状況が悪い。シェンリーには辛い決断だろうが、ここは一度出直した方が良さそうだ。
「シェンリーさん、一旦作戦を練りましょう」
「作戦? お姉ちゃんに会えないの?」
「会えるようにするために作戦を練るのです」
私は女性に一礼し、シェンリーと共に警察署を後にした。
時刻はまもなく正午。シェンリーと出会ってから二時間が経過していた。
「お姉ちゃんとは、このままお別れなのかな……」
すっかり意気消沈してしまったシェンリーに、私は慰めの言葉をかける。
「放っておけばそうなってしまうでしょうが、そんなことにはさせません。大丈夫です。私が必ずなんとかしてみせます」
するとシェンリーは、私の目を見て満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、
「いえ、感謝するのは全て解決してからにしてください……」
シェンリーから向けられた純粋無垢な気持ちに、照れ臭さを感じる。今までの人生でまともに感謝されたことなど無かったので、どうして良いのか戸惑ってしまった。
「しかし、この国の警察はなかなか厄介なようですね……」
テンシャン人民共和国は独裁政権に近く、警察は完全に党の支配下にある。その上、街中に設置された監視カメラで市民の行動をリアルタイムで把握している。いくら護衛隊で鍛えられた私でも、簡単に倒せる相手ではなさそうだ。
「ですが、シェンリーさんの悲しむ姿は見たくないですし、バレるのを覚悟であれを使いますかね」
「あれって?」
「まあ、すぐに分かりますよ」
きょとんとしているシェンリーに、私は得意気な顔をしてポンポンと頭を撫でた。
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