好きになるってなんですか?

eguhiko

好きになるってなんですか?


人を好きになる気持ちが分からない。


好きとは相手に本気で全てを捧げたくなる事。

好きとは相手を本気で心配してしまう事。

好きとは相手を本気で考えてしまう事。


中途半端な好きという気持ちで人と付き合うことはいけない。








大学は思っていたよりも綺麗で広かった。

部活やサークルの先輩が勧誘に来た。

でもアルバイトを理由に所属するのはやめた。


大学で友達を作る為、SNSで同時期に同じ大学に入学する人を片っ端からフォローした。そこから友達を作れないかと考えた。


友達を作ることに専念する為に始めたSNSだったが、気づくと毎日触るのが日課になっていた。自分の好きなバンドやゲーム、漫画やアニメなどのコミュニティに参加したり掲示板を見たりしていた。


すると誰も参加していないコミュニティを立ち上げている人がいた。

見てみると自分が好きなGREEN DAYというバンドのコミュニティだった。

いつもは書き込みなどしないが、初めて書き込みをしてみた。


「はじめまして!僕もこのバンド好きなんですよね!」


どこにでもあるようなありきたりな文章だった。

自分で文章力のなさに少し嫌気がさした。


「どんな曲が好みなんですか?」


返事が返ってきた。


「僕はロック調の曲が好きなので、Basket caseとか大好きです!」


「私も大好きなんです!良いですよね!」


「でもCD持ってなくていつも携帯でしか聞けないんですけどね」


「そうなんですか?」


僕は特に理由はなかったがCDを持っていなかった。

そもそもこのバンドも有名な曲しか知らなかった。

でも好きな事には変わりはなかった。


「実はこのバンド好きなんですけど、有名な曲しか知らないんです」


「せっかくなら聴いたほうが良いですよ!」


SNSでのやり取りが楽しかった。

顔が分からない会ったことのない人と楽しく話す感じが何故かすごく新鮮に感じた。


数日間バンドの話でおススメの曲を教えてもらったり他のバンドの話をしていた。

そして気づくと掲示板でのやりとりが個人でのメッセージのやりとりへと変わっていった。



個人のメッセージのやり取りになって気づいた事がある。

女性であるという事。

近くの大学の女子大生であるという事。

彼女は家から大学までは距離が遠いという事。


そして、遠距離恋愛の彼氏がいるという事。



やはり大学生という事もあり、話の話題は恋愛系に結果的になってしまった。


ある日、いつものように話していた時の事だった。


「最近なんか聴く曲とかある?」


「特にないかな…。結局GREEN DAYが一番聴いてる…(笑)」


「そうだよね…。私も結局戻ることが多いかも」


「同感…」


「そういえばCDは買ったの?」


僕は彼女に特に誘う気があったわけではないが冗談半分で聞いた。


「買ってないよ。良かったら貸してくれん?(笑)」


彼女からの返事は早かった。


「いいよ。明日大学終わりに時間ある?バイトもちょうど休みなんだ」


「本当にいいの?w」


「大丈夫w」


「じゃあ貸してもらいますw」


「私大学2限までだから終わったら名古屋駅に友達とご飯食べに行くから、4限終わるころにそっちに戻るね」


「いやっ…。俺が借りるから名古屋駅まで借りに行くよ。4限終わったら向かうわ」


「いいの?ありがとう」


僕はSNSで出会った顔も知らない女性と会う約束をした。


僕はその時そのことを深くは何も考えていなかった。


その日の夜は武藤と遊ぶことになっていた為、武藤の家に向かった。


武藤は僕の小学校からの友人である。

彼は高校は定時制の高校に進学して現在はアルバイトをしながら通学中。

大学へは進んでおらず、アルバイトも昼間にすることが多い為、夜は毎日のように一緒にいる。そしてそういう事になったと彼に伝えた。


「マジか?お前そういうやつだとは知らんかったわ」


「どういうことだよ」


「SNSで彼女探しちゃう系男子ww」


「ちゃうから。相手は彼氏いるんだぞ?CD借りるだけだって」


「ああー略奪愛もする人だったとは…」


「どっちかというと俺はそういうのは会わない主義なのはお前が一番良く分かってるだろ」


「確かに…。でも会うんだろ?」


「女の子に会いに行くというかCD借りるっていうだけの気持ちだからな…」


「まあ相手に彼氏もいるんだろ?」


「そうだけど」


「じゃあ間違っても恋愛発展はなさそうやね」


武藤は僕の今までの恋愛事情や友達事情など細かい性格に至るまで一番知っている。

良くも悪くも僕の事を一番見ている人だ。


僕は一日中武藤にいじられ続けた。

発展があったら教えろとか、俺にもSNS恋愛のやり方を教えてくれだのと言っていた。


次の日僕は朝から少し緊張していた。

別にやましい気持ちがあったりデートをしたりするというわけではないが、

一対一で女性に会う事は間違いない。

自分にいつも通りで平常心で…。

と、言い聞かせて家を出た。



2限が終わって彼女からメッセージが届いていた。


「私終わったから友達とご飯行ってるから、授業終わったら教えてね!」


僕は一言了解。と彼女に返した。


講義が終わってすぐに彼女に連絡を取った。


「今終わったからバスに乗って駅まで行ってそこから行くから30分くらいで着くよ。」


「分かった!」


彼女からも一言返事が来た。


僕は携帯にイヤホンを刺してGREEN DAYのBasket Caseを流した。

テンションを自ら上げる為に目を閉じて音楽に聞き入った。


バスは無事に駅に着いた。

降りて改札へと向かう。

普段バスや電車では通学はしていない。

その為、マナカ等のカードは持っておらず、切符を買って改札を通った。

改札を抜けて地下鉄に乗り込む。


電車に揺られる事約15分。

あっという間に名古屋駅に着いた。

改札へ向かうまでの距離で彼女にメッセージを送った。


「名古屋のどこにいる?」


「ご飯終わって一人でぶらぶらしてた!今から改札に行くね!」


僕は改札を出た。

そしてメッセージを確認した。


「どこの改札にいるの?」


基本的には都会と言われる場所には来ない為、よく自分の居場所が分からなかった。なので、どこの改札かと聞かれてもピンとこない。


「ごめん、よく分かってない…」


「えっ?wwどういうこと?ww」


「名古屋久々に来たからよく分からんw」


「東山線で来たよね?」


「うん」


「じゃあそこで待ってて!私が行くね!」


「ごめん!ありがとう!」


僕は東山線の改札の出口付近で壁にもたれて携帯をいじりながら待つことにした。

するとメッセージが飛んできた。


「着いたよ!どの辺にいる?」


僕は緊張しながら辺りを見回した。

彼女を探した。

しかし分かるわけはない。何故なら僕たちはお互いに顔を知らない。

SNSのプロフィールにも写真はお互い載せていない為、見た目の情報を得ない限りは分かるわけなどないのだ。


辺りを見渡している中で一人綺麗な女の子を見つけた。


その子は春だと言うのに、首元に赤いマフラーをしていた。

そして季節外れのコートを羽織っていた。

僕はメッセージを返した。


「ジーパンに紺のジャケットを羽織ってるよ」


僕は自分の今日の服装を彼女に伝えた。

するとすぐに返事は返ってきた。


「私今日は春だけど赤いマフラーしてるww」


僕は顔を見上げてさっきの女の子に目をやった。

彼女はまだ周りをきょろきょろとしていた。

僕はその子の方にゆっくりと歩き出した。





「伊藤真衣さんですか?」





僕は勇気を出して声をかけた。

彼女は少し驚いてはいたが、すぐに返事を返した。


「はい」


「えっと…。江口雅之と言います…」


僕は緊張しながら自己紹介をした。

すると彼女は笑いながら僕に言った。


「知ってるよwwプロフィールの名前本名でしょ?w」


僕は緊張のあまり変な事を口走ってしまったと心の中で恥ずかしさで後悔した。


「これ!言ってたCD!」


「あ…ありがとう!」


僕はCDを受け取った。

しかし、会う目的を果たしたのでどうしていいか分からなかった。

時間は5時を過ぎようとしていた。


僕は彼女に尋ねた。


「今から何する予定とかあるの?」


「う~ん。特にないかな?江口くんは?」


「特に何もないから久々にぶらぶらして帰ろうかなって…」


「そっかぁ…。私も一緒に行っていい?色々話してみたかったし!」


「いいけど…ノープランだよ…?」


「大丈夫!私も予定ないしw」


僕は彼女と駅を出た。


僕たちは駅の周りを散策した。

途中途中煙草を吸うので、喫煙所巡りみたいになっていた。

しかし、彼女は嫌な顔をすることなく、笑顔で話しかけてくれていた。

僕も自然と笑顔に引っ張られて楽しい時間を過ごす事が出来た。


そして、近くのゲームセンターに入った。

僕は元々ゲームセンターに通っているわけではなかったが、クレーンゲームなどの機械は得意だった。


財布に一枚だけ入っていた500円球をクレーンゲームに入れた。

景品はチロルチョコがひしめき合うほど入った詰め合わせの袋だった。

僕は全部で6回のチャンスがもらえるうちの3回で景品を落とした。


彼女はものすごく喜んでくれていた。


彼女はキラキラした目でクレーンの行く先を見ていた。

普段なら取れる気はしないが、残りの3回でまた景品を取ることに成功した。

飛び跳ねながらすごいすごいと言ってくれた。


「江口くんすごいね!ゲーセン潰せるんじゃない?w」


「そんなにお金ないよw」


「でもあったら出来そうだよねw」


彼女と冗談を言いながら笑い合った。

しかし彼女が思い立ったかのように言った。




「私達カップルみたいだねw」




僕はその一言で何か崩れた気がした。

この子には彼氏がいたのだ。しかも二年程付き合っている遠距離の彼氏。

僕ははっとした。


「真衣ちゃん彼氏とはどうなの?」


「う~ん。会えないことも多くて…。なんか浮気してるって噂も聞いてて…」


「それは事実なの?ただの噂じゃなくて」


「一緒の大学に行ってる子が言ってたから…」


僕は謎の正義感に駆られた。

思いもしないような言葉を気づけば並べていた。


「でもそれって何も彼氏から聞いてないんでしょ?」


「うん…。でも本当な気もするから別れようかなって…」


「気がするだけで別れたら後で後悔すると思うけど」


僕はそのまま続けた。


「もしかしたら浮気に見えただけでこうやって俺たちにみたいに遊んで話してるだけかもしれないよ?だからちゃんと話した方がいいよ。今すぐ別れるって選択肢は良くないと思う」


「うん」


僕はこの時彼女に何を言っているんだろうと思った。

それと同時にこうやって遊ぶことを彼氏に対して申し訳ないと思ってしまった。


「これ…取れたお菓子お家に持って帰って」


「え?でも江口くんが取ったんだから」


「お母さんと一緒に食べてよ。俺は500円あればまた取れるからw」


「いいの…?」


「大丈夫!」


「ありがとう!」


彼女はお菓子の入った大きい袋を受け取った。

僕たちはゲームセンターを出た。

時間は8時を過ぎていた。


彼女はゲームセンターを出て僕に尋ねた。


「お腹空いてない?」


「まあこんな時間だし腹は減ったかなw」


「晩御飯食べて帰らない?」


「もう8時過ぎるけど時間大丈夫?」


「大丈夫だよ。電車が走ってれば帰れるからw」


二人で歩いて近くのファミレスに入った。


ファミレスでは彼女の現在の彼氏の話が8割ほどだった。

自分の罪悪感もあってか、彼女には基本的に別れる方向性で話をするのは良くない事を何度も伝えた。


彼女とファミレスで語り合った後、駅に向かった。


「また今度CD返すね!」


「いつでもいいよ!また今度ね!」


「うん!ありがとう!」


彼女は改札を抜けようとした。

しかし、手前で止まって思い出したかのように話した。


「そういえば連絡先聞いてなかった!教えて!」


「えっ?いいけど…」


「あっ!嫌だった?」


「全然嫌じゃないよ!そういえば交換してなかったなって思っただけw」


「良かった!また連絡してね」


僕は名鉄の改札の前で彼女の背中が見えなくなるまで手を振った。



地下鉄に乗って地元の駅に帰った。

帰る道中に武藤からメールが来た。


「今日はまだ帰って来ないのかな?」


「今帰宅中だけど?」


「なんだよ~!朝までコースじゃないんかw」


「だからそんなんじゃないって」


「そっかあ…。この後暇か?」


「暇だけど…」


「うちでゲームでもしようぜ」


武藤は車で駅まで迎えに来てくれた。

僕は武藤の車に乗り込み、武藤の家に向かった。


部屋に入るなりゲームの電源を点けた。

二人でゾンビを倒していくゲームである。

武藤はゲームをしながら僕に言った。


「じゃあ結局彼氏の話聞いてバイバイ?」


「まあCD借りるのが目的だし…」


「そんなものどうでもいいんだってwとりあえずお前は付き合いたいとかないわけ?」


「ないね」


「もし告られるパターンがあったらどうすんの?」


「向こう彼氏いるんだよ?そのパターンはないっしょw」


「いやいや…。彼氏いて男と二人で遊んでるくらいだからありえるってw」


「とりあえず付き合う気はないって」


「ふーん」


僕は武藤の言葉に少しドキッとした。






すると、彼女から連絡が入っていた。


「今日はありがとう!無事に帰りました!」


僕はすぐに返信をした。


「今日はCDありがとう!」


「全然大丈夫!返すのはいつでもいいからね!」


「明日にはパソコンに入れるからいつでも返せるんだけど、都合の良い日教えて」


「私今週はバイトで時間上手く作れないから来週でもいい?」


「もちろん!」


「じゃあ来週の金曜日とかどう?」


「了解!」




僕たちはまた会う約束をした。





平日はあっという間に過ぎ去った。

気が付くと日曜日になっていた。

今日は中学の元3年2組のクラス会だ。

久々に会う友人達はどうなっているのかと少しドキドキしていた。


夕方の5時に家を出て、近所の居酒屋に向かった。

居酒屋はほぼ貸し切り状態となっているようで、店の外には久々に会う中学のメンツが騒いでいた。


僕たちは中学時代の話をしたり、現在の近況について話していた。

2時間が過ぎようとしていた時、隣に僕が以前好意をよせていた綾乃が座った。


「ねぇねぇ」


「何?」


「伊藤真衣ちゃんって知ってる?」


「えっ?」


まさかここで名前が出るとは思わず、びっくりして少し大きな声になってしまった。


「いや…知ってるけど…。なんで?」


「あのね、私同じ大学なんだ」


「そ…それで?」


「江口自分の中学教えたでしょ?それで真衣ちゃんがそれを覚えてて私が中学の名前言ったら聞いてきたの」


「そうなんだ…」


「あんたデートしたらしいじゃんww」


「デートじゃないって!CD借りただけだから!」


「あの子はそうは思ってないみたいだったけどねw」


僕は驚きのあまり、綾乃を追求した。


「何を言われたの?」


「あんなに大人な考えの人がいるんだなって言ってたw」


「はっ?」


「なんかね、あの子今彼氏いるじゃん?それで悩んでるみたいだったところで話を聞いてもらったって言ってたよ?」


「話は聞いたけど考えたかというとそういうわけでは…」


「彼女にはカッコよく見えたみたいwあんたきっと好かれてるよw」


「マジか…」


「付き合うの?w」


「いやっ…。彼氏いるやんかwそれはないわw」


「あんなに可愛いのにもったいない。少し天然だけどねw」


「おう…」


僕は少しモヤモヤしてしまっていた。

好意があるかもしれないと言われると何故か彼女を考えてしまった。

クラス会は無事に終わり、二次会のカラオケに出かけた。

カラオケでは、さっき綾乃に言われたことが頭から離れない。

気が付くと僕は彼女にメッセージを送っていた。


「今日綾乃に会ったよ」


「えっ?今木綾乃ちゃん?」


「そう。中学のクラス会で同じクラスだったんだw」


「私の事なんか言われた?」


「うん。なんか友達で知り合いなんでしょ?って聞かれたw」


彼女は動揺した様子だった。

そのせいもあってか、連絡の返しが異常なほど早かった。


「なんか変な事言ってなかった?」


「変な事は特別言ってなかったよ」


「ならいいや」


「言われてまずい事でもあんの?」


「ないけど、ほら!綾乃ちゃんって色々言いそうだからw」


「確かにw」


彼女は話の話題を切り替えた。


「そういえばさ、言っておきたいことがあるんだよね」


「なに?」


「私彼氏と別れたんだ」


「そうなんだ。ちゃんとケリはついたの?」


「話し合って、別れよって言ったらあっさりいいよって」


「そっか。まあ次頑張れw」


「ちゃんと私彼氏の家に信じたい気持ちもあったから会いに行ってきたんだ。そしたら、他に好きな子が出来たって言ってた。だから別れよって言って別れた!」


「そっか」


「これで私もフリーだよw」


「彼氏候補探さんとねw」


「うんw」


僕は少し心の中でなんだか嬉しくなっていた。


僕は携帯を閉じた。



毎日学校からバイト先の往復だった。バイトが終われば武藤と会ってはゲームをする。そんな平日を送っていた。


待ちに待った金曜日になった。

僕の気持ちは緊張と嬉しさでいっぱいになっていた。

気が付くと彼女に会う事を待ちわびていた。


「今日は何時にどこに集合する?」


僕は彼女にメッセージを送った。

彼女はすぐに返事を返してくれた。


「私は4限までだけど江口くんは?」


「俺も今日は4限だよ」


「じゃあ学校終わったらこの辺で会わない?」


「とりあえず大学近くのスタバとかでいい?」


「もちろん!」


僕は4限が終わるとすぐに車でスタバへと向かった。

スタバには既に彼女の姿があった。

僕は椅子に座って携帯をいじっている彼女に声をかけた。


「お疲れ様。何飲んでるの?」


彼女は少し驚いた様子でこちらを見て言った。


「なんだ!江口くんかwびっくりしたwアイスラテだよ」


「俺もコーヒーくらい飲むかな」


僕はレジでお金を払ってアイスコーヒーを受け取った。

そして彼女の席の前に机を挟んで座った。


「これ。借りてたCD。ありがとう」


「いいよ!ちゃんと聴けた?」


「うん。問題なく」


「なら良かった!」


「今日の予定は?」


「今日も何もなし!どっか行こ!」


「行きたい場所ある?」


「特にはないけど…」


「この辺なんもないからな…」


僕たちは特にやることが見つからなかった。

そうすると彼女が言い出した。


「映画見に行きたい!」


「分かった!」


僕は彼女と映画館へと向かった。

彼女が見たい映画は変わった映画だった。


一人の男性がある島に流れ着いてそこは小人の住む島だった。

そして彼は小人に大男として捕えられるというコメディー映画だった。


しかし、僕は逆に助かった。

女の子とゴリゴリの恋愛映画とかを見るのが苦手だった。

その後に何を話していいかが分からない。

というか恋愛映画を見ること自体がそこまで好きではなかった。


映画を見終わると、彼女は楽しそうに映画の感想を話していた。

そして僕に言った。


「また映画観に来ようね!」


僕は笑って返事を返した。


映画を見終わった後は二人で食事をした。

食事は特に高いコースとかがあるわけではなく、今回もファミレスだった。


時間は10時前だった。


「家まで送ってくよ。」


「えぇ~!悪いよ!家遠いし!」


「大丈夫だよ。流石に遅いから」


「電車あれば大丈夫だって!」


「ちょっと話してたいしいいじゃん」


「うーん…わかった…」


彼女は家の住所を教えてくれた。

僕は車のカーナビに住所を打ち込んだ。

彼女の家は岐阜の西可児という場所だった。

片道一時間以上はかかる距離だった。


僕は車を走らせた。


「ねぇねぇ…。江口くんって今好きな人いるの?」


「いないけど…」


「彼女とか作らないの?」


「作ろうと思って作るのは何か違うかなって思ってる…」


「でも告白とかされたらどうするの?」


「関係性とかにもよるけど、せっかく告白してくれたらちゃんと考えるよ」


「考えるって?」


「多分好きになってもらって付き合ったとして相手を好きになれるのかなとか、付き合ってもすぐにめっちゃ好きとはなれないからそれでもいいのかなとか…」


「そっかぁ」


「正直な事言うと、やっぱり自分が好きで告白したとして、相手は好きじゃないのに付き合ってもなんか楽しいんかなって考えちゃうんだよね。徐々に好きになることももちろんあるだろうからそうなれるかもしれないって思ったら付き合えるかな」


「私は付き合ってくれたら嬉しいと思うよ。だって好きだから告白してるわけだし」


「う…ん…」


少し微妙な空気が流れた。


僕は煙草が吸いたいからと言って近くのコンビニに入った。


すると彼女も降りるねと言ってコンビニに入って行った。

僕はコンビニの外の灰皿の前に行って煙草に火をつけた。

少し強めに吸ってゆっくりと煙を吐いた。





「はい、これ!」


煙草を吸っている僕に彼女は缶コーヒーを渡した。


「送ってくれてるお礼」


「マジ?ありがと」


僕は缶を開けてコーヒーを一口飲んだ。

まだ残っている煙草を吸っている間も彼女は僕の横でそれを待っていた。

僕は煙草を吸い終わると車へと彼女と戻った。


車を再び走らせた。

車は順調に進んでいって、彼女の家の近所まで来た。

すると彼女が口を開いた。


「まだ少し時間ある?」


「あるよ」


「もう少し喋りたいなって思って…」


「俺は別に何時でも大丈夫だからいいけど…。真衣ちゃんは親が心配しない?」


「大丈夫。少し遅くなるって言ってあるからw」


「ならいいけど…」


少し沈黙があり、彼女が話しだした。


「江口くんって不思議だね」


「なんで?」


「だってこんなこと私が言うのなんだけど、こういう場面って口説いてきたりするもんじゃんw」


「だいぶ自信家だなw」


「そういう人が多かったからw」


「正直口説いたこととかないしな…。そういうのよく分からんわw」


「後はね…。彼氏と別れない方がいいよって言ったのは江口くんだけだったんだ」


「なんかごめんw」


「いや、嬉しかったっていうか考えてくれてるんだなって思った。

私彼氏の事言われてなんかはっとしたの。結局別れちゃったんだけどねw」


「まあいいんでないの?考えて出した結果なら」


「それでね…。急なんだけど、私…」


僕は彼女の言葉を遮るように話した。


「あ~待って!勘違いだったら申し訳ないんだけどそれって返事必要なやつだよね」


驚いた表情で彼女が頷いた。


「う…うん…。」


「今はすぐに返事出せない気がするんだ…。すっごい嬉しいんだけどさ…」


「嬉しけど…ダメなの?」


「ちゃんとそういう気持ちが持ててから返事出したいんだ。でもすぐじゃないかもしれないから…」


「分かった…。じゃあどうしたらいいの?」


「俺から言うからそこまで待てるなら待っててほしい…」


「…分かった。引き留めてごめんね」


「いや…。こちらこそありがとう…」


彼女は車を降りて家に帰って行った。

僕は一人で考えながら家に向かって車を走らせた。



その日は家についてすぐに眠ることは出来なかった。



それから先は気が付くと彼女の事を考えてしまう日々が続いた。

そしてあれから彼女からの連絡はない。

僕もなんと言いだしていいか分からずメッセージを送ることが出来なかった。


そして一週間が過ぎた。

毎日どこか元気がないことを察していたようで、武藤が遊びに行こうと電話をかけてきた。


そして武藤を車に乗せて近くのカラオケに向かった。


「それで結局真衣ちゃんとはどうなのよ」


「まあ…」


「まあってなんだよw進展ありか?」


この前の事について武藤に話した。


彼女が彼氏と別れたこと。

そして告白される一歩手前まで来たところ。

すると武藤は少し真剣な顔で僕に言った。


「お前最低だな」


「えっ?」


「その真衣ちゃんはきっとお前が好きで別れてきて告白したと思うんだけど」


「でも考えた結果だからって…」


「それはお前の事も考えてって結果だと思うけど」


「どういう事?」


「真衣ちゃんはお前の事が好きになって告白しようとしてくれたんだろ?でも返事もろくに返してないじゃん。失礼すぎるわ。さらに言えばお前だって気があるような素振りしてるからいけないんだろ?」


「そんな素振りしてないって」


「だったらすぐに帰ればいいだろ」


「いやっ…。遊んだだけじゃん」


「それをデートと取るかは人の受け取り方次第だろ。中途半端にしてるくせに変にカッコつけようとしてさ。それが一番ダサい」


「ちゃんと考えたいんだ」


次の武藤の言葉で僕ははっとした。






「それを好きって言うんじゃないの?」






続けて武藤は言った。


「その人の事考えると気持ちの治まりつかなくなったら好きって事だろ?」


僕は思っていた事を言われた気がして何か引っかかっているものが取れた気がした。


部屋を出て彼女に僕は電話をかけた。

彼女はすぐに電話に出てくれた。


「もしもし?」


「もしもし…。久しぶりだね」


「今電話大丈夫?」


「大丈夫だよ」


僕は彼女に今の気持ちを正直に伝えた。


「俺さ…。真衣ちゃんの事好きだと思うんだけど、幸せにしてあげられるかなとか、ずっと好きでいてもらえるのかなとか、自分もずっと好きでいられるのかなとか変な事ばかり考えちゃうんだ」


「うん」


「でも、好きなのは事実だと思う。だから…」


「うん…」


そして彼女は言った。


「ちゃんと考えてくれることで多分誰でも嬉しいと思うよ。だから考えすぎって事は私はないと思うから、なんかあったら二人で考えようね」


「おう」









好きになるという事。





それは相手の事をただ考えるという事。





















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