第7話 生きる理由
『もお!!』
『どおしたら始めてくれる?ねえ!』
『ねえねえ!うー。わからん!』
『あなたの考えることが全くわかんない!』
『ねえ。なんで?なんなん?あんた神を舐めプしてる?』
半ばキレ気味に質問してくる。矢継ぎ早である。
「ねえ?アヤカちゃん。」
「死にたかった僕を引き留めて、人生やり直しなさい。だなんて、身勝手な主張だとおもわないかい?」
「何万回も死に戻りして君の時間を浪費してしまっているのは申し訳ない。因果律云々の影響があるにせよ、それだけでは僕の足は進まないんだ。」
「もし可能であるならば、どんな方法を使ってでも、「僕」という存在を消し去ってくれても構わない。きっと、あるんだろう?その方法というものは。」
「不本意な気持ちのまま異世界を味わうくらいなら、僕は何億回でも舞い戻り、君との再会を喜ぶ道を選ぶよ。」
相手は女神だ。いや、少女神か。
気持ちは偽らず話す。
『なっ?!!!』
『このひとスケコマシですう!警察っ』
『警察う!このひと捕まえてくだしゃい!』
何故か頬を染めてモジモジしだす神。
膨れて登場した頬が今は赤く色付く。
「ねえ。アヤカちゃん。」
「なんでぼくをたすけたの?」
「そこの理由がクリアにならないと歩みは始まらないし、そこの理由が些事ならば、始める理由に届かない。」
何万回目に、核心に迫る。
はい、そこの君。
いっかいめに聞けよとか言わない。
『うーん。うー』
『あー。どうしようかなー....』
アヤカが分かりやすく逡巡する。
全知全能かとおもてたわ。神。
『うーんとね?君が死ぬと因果応報の法則が揺らぐのは確かなこと。あなたの持つF値はとても危険。それはうそじゃない。』
『それとね、揺らぎを抑える方法もあるの。すこし大変だけどね、対象世界の軸を多少ずらすことによって揺らぎの連鎖を断つこともできる。』
『あなたを救うことと、揺らぎを抑えること。どちらも力をつかうことに変わりはないの。』
女神と少女、どちらの顔で話したのだろうか。直ぐには見分けつかない。
「であれば、助ける理由に足り得るが、助け続ける理由にはならない。」
「単刀直入に聞く」
「なんで助けた?」
意を決して伺う。
こちとら無限ループ中だ。
この瞬間に意識が途切れても何の未練もない。
「納得できる理由がほしい。」
『もお!』
『最初に言ったよね?ほっとけなかった。って。』
『擦り減って、減った分の補給もせず、他者に求めることも、強いることも、返してさえも言わない。』
『それで、一区切り。まわりが幸せになったのを確認して死ぬ。なんて許さない。』
『そゆのは、私たちのしごと。』
うーん。。。
深い。
一番めんどくさいパターンやコレ。
生前も居たなあ。こういう奴。
神様てめんどくさいヤツなんだ。。。
神様がきっとみていてくれる。
て、マジだったんだw
こちとら善行積んだつもり全くないんだけどなあ笑
どちらかというと、世界の浅ましさを侮蔑し、汚れないために高潔に生きるという苦行を完遂して清々しい気分なんだけどなあ。
きっと、嬉しくなる言葉なのだろう。
きっと、褒め言葉なのだろう、ほっとけないとは。
だがしかし心は熱くならない。
本格的にダメになったみたいだなあ。僕は。
であれば、、、
「ありがとうアヤカちゃん。」
「ほっとけないなんて言ってくれて、見ていてくれてありがとう。」
「でもね、まだ足りない。」
『たりない?』
アヤカが戸惑う。
「うん。足りない」
「ご褒美が。」
『おかねなら無いよ』
「うん。オカネ嫌い。」
『身体ですか?』
「うん。カラダ。」
『うげーw まじかよ』
アヤカが本気で引いている。
気にするものか。
『具体的にどの程度?』
『一応、過程を経てからじゃないと譲れないボーダーあるよ』
拒否らないんだww
OK前提のボーダー設定もあるよw
下衆であるが素直に嬉しい。
喜怒哀楽ポイント少し回復したはず。
「出会ったばかりで戸惑うかもしれない。けれど、これは前借りだと思ってほしい。あなたが言う「すり減る」という表現を使えば、すり減る人間が擦り切れないように、油を差してほしい。」
『サラダ?』
「ゴマでもないよ?」
『つまり?』
「抱擁をください。」
「それと、くちづけの権利を」
『なっっっ!!!!』
(なんとロマンチックなっ!!!!)
カッコの部分が念話で届いた。
大丈夫かこの神。
『ぐぬぬぅ.....』
『不埒な要求をしてきたら本気で消し去る気でいたが、許容できるギリギリを攻めてくるあたり、おぬしやり手じゃな?』
動揺からかキャラがおかしくなってる。
「つまり、ok?」
「無理強いするつもりもないし、無理なら違う理由を探すけど。」
『うーん。。でもぉ、、、』
モジモジモード突入。
アヤカは人差し指と人差し指を突っつきながら煮え切らない態度を崩さない。
「そっか。わかった。」
「無理なら他当たるわ。じゃ。」
行くあてもあるはず無いのに、光の空間の中、踵を返して立ち去ろうとする。
他もいなけりゃ別れの挨拶できる状況でもないが。
『まっ、待って!』
『無理じゃないっ。全っ然無理じゃないからあ!!!』
アヤカが呼び止める。
よくみると涙目だ。
「え?でも嫌そうに見えたけど?」
『心の準備ってものがあるでしょうガッ!』
(ばかもーん!そんなすぐokしたら端ない女だと思われるでしょうガッ!ポーズよ、ポーズ。察しなさいよっ!)
心ダダ漏れアヤカ。
「心の準備ってことは、嫌々受け入れるってこと?」
『まあ、わたしから求めることなんて万に一もない話だけどお、こっちの都合で転生させちゃってるわけだしい?甘んじて受け入れる、てカンジかな?』
(実際、あなたから求められることなんて万に一もない話だと思ってたから、そっちからアプローチしてくるなんて超うれぴい♪是非こちらからお願いしたい所存で候。)
ツッコむのめんどいからスルーね。
「おっけー。わかった。」
「じゃあ、さっそくヨロシク」
「気が変わらないうちに早く!」
『うっ、うんっ!わかった!!』
何故か強気のぼく。
何故か従順な少女。
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どれほどの時間が経ったのだろうか。
アヤカは光のオーラを纏いながら僕に近づき、優しく頭を撫で、柔らかく抱きしめる。
重力のないせいか足先から頭まですっぽりと包まれた感覚は心地が良く、子供の頃に味わった以来の安心感を覚える。指先を絡ませて左手で手を握り、右手は肩甲骨下あたりの背中に添えられた。
特段、特別なことはしていない。
ただのハグ。
それなのに、彼女の温もりは、冷え切った心を震わせるのに十分だった。
10秒だったのか、
10分だったのか、
10日だったのか、
10年だったのか、
時間の長さだけが曖昧で、
満たされるまでの抱擁で、
ぼくの心は生き返った。
『いままで、よくがんばったね。』
はじめはぎこちなかったアヤカが、
解けた緊張のおかげか優しく微笑む。
応える僕も、計算された愛想笑いではない本当の笑顔を向ける。
見つめ合い、無言で心を通じさせる。
そして、今までの一生分、ご褒美をもらえた充足感を身に宿し、アヤカにくちづけをする。
『「ふふっ」』
ふたりは優しく微笑みながら身を離す。
冷えた心が熱を取り戻し、
不毛の地から揺籃の地へ。
よし、もう大丈夫だ。
僕は口を開く。
「アヤカちゃん。」
「さっきさ、心の声漏れてたよ?」
「もっと素直になろうね?^ ^」
僕はとっておきの愛想笑いを彼女に向ける。
準備は万端だ。
『?!!!!』
顔を真っ赤にしたアヤカは、それでも意図を汲み取ったのか、ワナワナしながらも冷静さを取り繕いながらこう叫んだ。
『ばっかもーん!!』
『あんたなんか大っ嫌いっ』
『さっさと行ってきなさあい!!!』
手足を空中でバタバタとさせながら憤怒の表現を全身でアピールしながら、
光の空間は更に眩くなり、
ぼくは何万回目かの異世界転生を果たす。
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