第6話 異世界転生 take n
『はぁ、はぁ、はぁ、』
『これで何万回目よ!!』
「ごきげんようアヤカちゃん」
「奇遇だね。もしかしたら運命かもしれないね^ ^」
用意したかのような作り笑いで見慣れてしまった顔を見つめる。
ここまでの検証でわかったことは、
①もとの世界の時間は、僕が飛び降りた瞬間で止まっている。(止めている)
②異世界の管理も神(GODアヤカ)が執っている。
③転成のゴールは魔王討伐。人魔のバランスが崩れかけているので勇者召喚の体をとる。
④事前情報なく転生させた理由は、適切なタイミングでアヤカがアドバイスのために現れるつもりであったから。
⑤突発的なピックアップだった為、転生を断られる訳にはいかず、ごねられるのを防止するためにとりまブチ込んだ。
という内容だ。
そもそも只の自殺志願者だ。話し合いなど期待するのが間違いである。とすれば、アヤカの判断はあながち的外れでなく、呆れられたり怒られたりしながら受けた説明の経過につれて腑に落ちていく。そんなに、この神は傲慢ではないのかもしれない。
想定外だったのは、異世界転生してまで命を落とそうとする“武藤 宗”という存在だろうか。
基本的に世界間移動は行われず、崩れたバランスを立て直すためには地上を滅ぼし、地平を無に還したのちに命の種を蒔く。という方法をとるらしい。なにそれこわい。
今回僕が阻まれた頭身行為は、因果律を保つためにされたものであり、転生先の世界に差し迫った脅威は無いらしい。
魔王討伐までの道のりで、感情総量のマイナスを解消し元の世界へ戻る。もしくは、討伐途中であっても、何かを成し遂げ〝個体としての異常性〟が解消されれば戻るも可。
加えて、この旅を通して生きる気力が回復された場合には、飛び降りる前まで時間を巻き戻し、その先の人生を謳歌する選択肢まで用意されていたようだ。
うーん。手厚いサポートw
『あのさあ!』
『出発前にネタバレさせる転生者なんて聞いたことないわよっ』
『こんなことなら耳障りのよい言葉並べて送り込んだ方が100万倍楽だったわ.....』
GODがゲンナリしている。
きっとそういう選択肢を取らなかったのは、嘘のつけない性格のためか。いや、それなりに敬意を持ってくれているからこその扱いだったのかも。驕り高ぶる性根であれは、あるいは僕の生き様が無様であったならば、彼女はきっと偽りの言葉をスラスラと述べるタイプの人間だ。違う、神だ。
異世界転生して開始5分のリセマラを繰り返した挙句、神は転生者からの信頼を得た。
転生者は、神から【意気地無し】の称号を得た。
ここまでの検証で得た確信は、
アヤカは絶対に見捨てない。
という盲目的な自信とも言い換えられる感覚だ。
神ともなれば、元の世界の時間を止めた後に、僕という根源自体を消し去る選択もできるはずだ。〝時間を巻き戻す〟というフレーズがでたときに反射的に思った。
畏怖、という感情を持つ事は初めてだった。
また、いま手のひらの中にある自信とも過信とも言える安心感は、
きっと、
下種に堕ちれば消え失せる。
彼女の瞳は欺けない。
龍の瞳とも言うべきか。
いまある言葉の原資は今までの経験から。もし異世界で怠惰に惰眠を貪れば、きっと鬼になる。
天真爛漫で素直で可愛い神の裏の顔は絶対に見たくないな。と率直に思う。
きっと、
普通は、
冒険を重ねたのちに得る印象を、
スタート前に獲得した。
大きなアドバンテージともいえる。
自分としても賭けだった。
納得できる情報が得られるまでリセマラを繰り返すことは、信頼を失いかねない。興味も薄れかねない。
途中、このあたりで冒険をスタートさせたほうが良いのか?と考えたタイミングは有ったが、妥協せずに死に続けた。
理由は、生きる理由がなかったから。
歩み始めるきっかけは、
生きる理由が見つかったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。