「うああ。つかれた」


 そう言って。


 彼が、いつもの席に座る。

 酔って、幻想を見ているのだと、思った。

 彼が。ここにいる。


「幻想でも、夢でもいい」


 会えたなら。それだけで、嬉しい。


「ん。幻想がなんだって?」


 彼。こちらを見て、ほほえむ。


「あ、炭酸飲料ください。ええと、じゃあ、ジンジャーエールで」


 彼。


「うそ」


 ここにいる。


「どうして」


 彼。出てきたジンジャーエールを、炭酸と格闘しながら、飲んでいる。


「ふはあ。仕事終わりの一杯は、美味しいなあ」


「ねえ。なんで。どうして」


 夢なのか。わたしは、酔っているのか。


「何が?」


「あなた。MIAって。わたし。隕石が」


「あ、ああ。任務中行方不明MIAね。総監、早とちりしすぎだよなあ」


 彼。いつものように、笑う。


「最後の隕石を前にして弾薬が尽きちゃってさ。機体を突っ込ませたんだ。脱出して海上で助けを待っていたんだけど、隕石のステルスチャフ、ええと、レーダー妨害みたいなやつがあって、他の機体が誰も俺を見つけてくれなくてさ」


 ジンジャーエールの、おかわりを注文しながら。


「泳いできたんだ。80キロ。たいへんだったよ」


 ジンジャーエールのおかわりが来る前に。


 彼の胸に。


 飛び込んでいた。


「おっと。衆人環視でそういうのは、はずかしいな」


 彼に、やさしく押し戻される。


「ねえ」


「うん?」


「しょっぱい匂いがする」


「あ、ごめん。80キロ泳いできたから。しかも、岸に泳ぎ着いてからすぐに防衛網整備だったんだ。ほら。あれ見て」


 曇り空を突き抜けて。流れ星が、たくさん降り注いでいる。


「また隕石が降ってきてるんだ。この前のやつは隕石の欠片部分で、今日が本体。撃ち落とすために、諸々の指揮を執ってた。あの隕石と対峙したのは、ほら、俺だけだから」


 流れ星。降り続けている。


「きれい」


「綺麗だね。あれ全部、ミサイルで撃ち落としてるんだ。自動追尾の設定大変だったなあ」


「ねえ」


「うん?」


「お酒呑んで」


「なんで?」


「お酒。呑んで。おねがい」


「いや、ほら。俺、いつ飛ぶか分からないし」


「80キロ泳いだのに?」


「あ、まあ、今日は、さすがに飛ばないか。空母の防衛網もあるし」


「おさけのんで」


「なんで?」


「あなたと。仲良く、なりたい、から」


「仲良く?」


「あなたが。もう。わたし」


 なにを言いたいのか、わからなくなってしまった。


「おさけ、呑んでもいいけど。どうなっても知らないよ?」


「うん」




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