第4話

「どうぞ」


 管区。


 この前の黒服黒スカートの女性が、いた。部屋に招き入れられる。ラフな格好だった。


「自己紹介を」


 彼女。机の上に、名前の書かれた三角形の議会とかに置いてあるやつを出した。


「管区総監です」


 偉い、人だった。わたし。この人に勝てる要素、本当にひとつもないな。


「眞逆時津の、任務中行方不明MIA原因について、ですね?」


「はい」


 請われるまま、席についた。社長室とか、そういうところによくある、ふかふかの椅子。はじめて座った。沈み込む身体。


「彼は、優秀で、優しさのあるパイロットでした」


 総監の女性。向かい側に座る。椅子は、そんなに沈み込まなかった。体重計みたいな椅子だなと、なんとなく、思う。


「たとえ無人機であっても、必ずコクピットにあたる心臓部分は狙わない。ときには被害を最小限に押さえるために、数十機のドローンを陸から海のほうへ引き剥がすようなこともする人間でした」


「そうですか」


 彼は。やさしかった。そう言われただけで、どこか、あたたかい気持ちになる。彼に、言ってあげたい。


「ただ、彼の技術に付いていける者がいなかったため、通常は二機から五機で1隊を構成するのですが、彼は、基本的に一機で1部隊扱いでした」


 彼は。ひとり。


「そして、彼は。優しすぎた」


 総監の女性。プロジェクターで写真が1枚。机に、写し出される。


「これが、現場の写真です」


 燃え上がる、海。


「燃えているのは。本来、この街に落下するはずだった、隕石です」


 身体ではなく、こころが。椅子に沈み込んでいく感覚がする。


「隕石そのものは特殊な鉱物で構成されており、大気圏内で燃えながらその表面が燃焼、同時にステルスチャフのような効果を発揮し落下してきていました」


 総監の女性。言葉を選ぶようなしぐさ。


「分かりやすく噛み砕いていうと、肉眼でしか確認できない隕石です。レーダーや通常の弾頭防衛網では把握できませんでした」


 総監の女性。頭を下げる。彼女のせいじゃないのに。頭を下げないといけないのだろうか。


「哨戒中の眞逆時津は、この隕石の落下に遭遇。予想落下地点がこの街であることに気付き、これが街へ落下する前に海上で撃墜することに成功しました」


 彼は。街を守った。


「これが、その当時の音声です」


 その身を犠牲にして。


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