05 ENDmarker. 人生の帳

 彼女。


 ソファに、沈み込んだまま。


 動かない。


 しあわせそうな、顔。


「おやすみなさい。よい夢を」


 そう、声をかけて。


 立ち上がる。


 プラネタリウムの天球に向かって、スイッチを押す。


 プラネタリウム。


 ゆっくりと、停止した。


 非常灯の灯りと、椅子に仕込んである畜光材だけが、鈍い光を放つ。


 彼女の帳は、降りた。


 せめて、最期くらいは。


 よい夢が見れているとよいのだけど。


「おつかれさまでした。あなたは、あなたの人生を立派に生ききった」


 普通の人生。


 普通であることが、どれだけ立派で、どれだけ代えがたいものか。


 普通というのは、素晴らしいことで、同時に、とても難しい。だからこそ、それを最期まで生き抜いたあなたは。とても素晴らしく、美しい。


 彼女。安らかな顔。


「きっと、おつかれでしょう。ごゆっくりおやすみになって、よければ、また、来てくださいね」


 彼女が、さびしくないように。少しだけ、隣に座っていることにした。

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