Ⅵ.パンのおかげ

にゃんにゃんベーカリーのパンを毎日食べて分かった事。

①お告げを聞けるのは1日1回。1日に何個食べても、1個目のひと齧りしか聞こえない。

②声の主はパンの種類によって違う。フランスパンは優しそうな男の人の声だったし、あんぱんは時代劇に出てくる侍みたいだった。

③お告げの内容は気まぐれで、聞きたいことが聞けるわけではない。


こんなとこだろうか。

そもそもこの現象がなんなのであるかはもう考えないことにしていた。考えても答えが出ないからである。


毎朝パンのお告げを聞くことになってから一ヶ月経つ頃には、僕の生活はそれなりに充実したものになっていた。

とりあえず始めた就活も順調に審査を通っていたし、カフェ店員の女性(名前はききさん)とも親しくなって何度かデートをするまでになった。

全てはパンのおかげか。

絵は毎日少しずつ描くようになったものの、まだ向き合い方が分からなかった。真剣になるのが怖い、傷つくのが怖いのだと思う。

現実逃避をするように、就活は美術やデザインとは全く別の業界をあたっていた。


今日はききさんとランチをすることになっている。

朝ごはんに食パンを食べると昭和のラジオのアナウンサーみたいな声が

「吉報きたり!」

と言った。

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