報われない戦い

「魔族と決闘!?」


 俺の驚きの声がホールにこだました。言い出したのはフィールだ。


「また何でそんなことを……」


「王国と領土を争ってる魔族とね、話し合いしたらさあ、うちに超強い魔導師がいるってとこに食いついてきてね、つい……」


 フィールも気まずそうに目を背ける。


 俺も魔族と戦ったことはあるが面倒な相手だったのは記憶している。強大な魔力、人ならざる体力、なによりモンスターと違って知性がある。


 正直なところ出来れば戦いたくない相手だった。しかしフィールの性格を考えると……


 で、私は「やってやろうじゃねえかよこの野郎!」と答えたわけよ。


 大口叩くのは別に構わないのだが、俺を巻き込むのはやめていただきたい。


 で、魔族と決闘することになったと?」


「そうそう! しかも結構肥沃な土地をかけたらしくってね、ぜったに負けるなって言われちゃった」


 俺のあずかり知らぬところでえらく大事な決定がされていたようだ。ひどい。


「安心しなさいマティウス! 今回は王家からのバックアップがあってね、結構良い装備が支給されるわよ!」


 嫌な予感しかしない……


「まず日時は日中にしたわ! 魔族は太陽に弱いからね! そして大量の魔石、国土が広がるって言ったら王様が大量に支給したの!」


 決闘なのに自分に都合が良い日時を選ぶとか卑怯の極みだ、まあ頼もしいけどな。


「というわけで! あと一週間後の決闘まで魔力をためておいてね?」


「いや、俺は魔石だよりなんだが……」


 その言葉が届くことは結局無かった。


 しかし、だ。魔族がそんな不利な条件を認めるだろうか? 文句の一つでも言ってやるのが筋だろう。


 魔族さんもずいぶんと優しくなったものだ。


 ――それから毎日、屋敷に大量の魔石が届けられたのだった、それこそ……大陸を破壊できるほどの……


 ――一週間後


 「いよいよ対決ね! 相手はゾディアックってやつだからね? 負けちゃ駄目よ?」


 俺は魔石の上に立ちながらそれを聞いていたが、魔族の皆さんがかわいそうになるほどの暴力だった。


 立会人もいるが、できる限り下がらせている。不測の事態を避けるためだ。


 そうして決闘の時間、太陽がてっぺんに登り切る時刻、いや卑怯だとは思うけどさ……よく魔族の皆さんも納得したよな。


 そうしてようやく魔族の皆さんがやってきた、筋骨隆々のものから、魔法使いであろうひょろりとしたやつ、弓矢を装備した遠距離色と様々な魔族が集まってきていた。


 なるほど、どれがそのゾディアックさんだろうか?


 魔族の中でもひときわ強そうなものがその集団から前に出てきた。


「初めまして人間さん、「我々」がゾディアックです」


 ?

 我々?


「おや、事態が分かっていないようですね? 人間はとても強いものを選ぶと言いました、我々は「ゾディアック」を選ぶと言いました。さて、私たちは「一人」と言いましたか?」


 なるほど、不利に見せかけておいていざ戦闘となれば数の暴力で圧倒するつもりか……


 こちらの裏を着いたのは賞賛に値する、それでもこっちの「武器」を知らなかったのが運の尽きだ。


「なるほど、確かに一人とは言っていませんね」


「マティウス!?」


 フィールが泣き出しそうな声を上げる。


 それを励ますために俺は言う。


「安心しろ、絶対に負けない」


 そう、こちらには無数の魔石がある、あちらに武装した「ゾディアック」がいるならこちらも武装は自由のはずだ。


「では、始めてよろしいですかな?」


 おずおずと立会人が聞く。


「問題ない、始めよう」

「こちらも問題ないですとも! 始めましょうか……殺戮を」


「では始め!」


 先手必勝!


「ビッグバンフレイム!」


 足下の魔石が一気に石になる、火球は敵グループへ一直線に飛んでいき爆発をした。


 地面が溶けてガラス状になっていく、極熱に身を焼かれる魔族はどういう気持ちなのだろうか?


 魔族に知り合いがいたら、魔王にたてつくのと俺と戦うののどちらが生存できそうか聞いてみたいものだ。


 とはいえ、今は片っ端から魔石の魔力を熱量に変換していく。


 魔族だけあって、それに耐えうるものも少し入るようだ。


 ちなみに火に強いというサラマンダーは一瞬で消し炭になった。生き残ったのは炎自身が意志を宿した魔族くらいだった。


 吹き荒れる熱風と、強烈な光に皆が目をくらませている、追撃のチャンスだ!


 そこで俺は容赦なく真逆の第二波をたたき込む。


「アブソリュート・ゼロ!」


 圧倒的冷気が相手の場をすべて凍り付かせる、先ほどの熱量に絶えそうだった連中もまとめてさようならだ。

 地獄があるならこんな光景だろうという魔族にとっての地獄絵図ができあがった。


 そして緩やかに気温が周囲から流れ込み、常温へと戻っていくが、「ゾディアックさんがた」に動けるものは一人としていなかった。


 そして呪文詠唱後、足下に散らばる石と、前方に広がる大量の魔族を死体を前に俺は勝利宣言をした。


「俺は勝った! 魔族の大群をものともせずに! そうだな? 立会人?」


 立会人は引きつった笑みを浮かべながら頷いた。


 ここでの戦いは歴史に残るかもしれないな、人間の勝利ではなく、魔族を襲った大災厄としてだが……


「よーし! じゃあ帰るか? フィールももう用はないだろう?」


 勝敗は決したし、死体の山は誰でも確認できる、要するに俺がここにいる意味は無い。


「さすがねマティウス! やっぱり私の部下だわ!」


 しれっと手柄にしようとしているのはさておいて俺たちは屋敷に帰るのだった。


 ――翌日

「マーティーウース-!」


 フィールが涙目で飛び込んできた。


「勝ったのに! 私勝ったのに! 国王のクズが「いや……マジであんなん使うと思ってなかったし……報酬は魔石だいな?」とか言いやがったのよ! なめてるわよね!」


 おーよーしよし、とフィールの頭をなでながら、やはり自分はコストが高いのだと再認識するのだった。

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