電磁兵器の可能性について

「出来たー!!!!!」

 

 俺は一人快哉を叫んでいた、俺の苦手な肉弾戦用の攻撃魔法が完成したんだ。

「マティウスー、うるさいよー」

 

 フィールが文句をたれてくるが気にしない。

 

 俺はウッキウキで集めてきた鉄製品で弾体に最適なものを取り出す。

「マティウス? このくず鉄の山がなんになるの?」

 

 辛辣な意見だなあ……これが超兵器になるとも知らずに。

 

「俺が考えた魔法だよ、ピンポイントに強力な物理ダメージが通る」

 

 うさんくさそうな目で俺を見るフィール、まあしょうがないだろう、理論を聞けばびっくりするはずだ。

 

「まずここにあるのは鉄で出来ています」

「うん」

 

「鉄は磁石にくっつきます。ここまではいいか?」

「分かるけど……それと新魔法のなんの関係があるの?」

 

 一つずつ説明が必要なようだな。

「まず電撃魔法を金属に流すと磁力が発生しているのは知ってるか?」

 

「そうなの? でも電撃魔法を撃ち込めば磁力とか関係なくない?」

 

 ちっちっち、俺は指を振る。

 

「関係あるんだなあこれが」

 

「まず電撃魔法が使えれば磁力を自由に操れることに気づいた」

 

「ふむふむ」

「そして敵の砲に向けて強力な磁力を発生させるとどうなる?」

 

「えーっと……」

 少し考えてから答える。

「鉄がくっつくんじゃない?」

 

「そうだ、鉄は磁力にひかれる。そこで敵の方向に強力な磁力を発生させてここにあるくず鉄を投げる」

 

「ええっと……鉄だから磁力にひかれて……相手に飛んでいく!」

 

 どうやら答えにたどり着いたようだな。

 

「そうだ、そして磁力というのは思った以上に強い、相手に向けて加速させたところで磁力を絶つとそのまま相手に向かって鉄がふっとんいく」

 

 フィールも納得したらしく頷く。しかし理解できないようで。

 

「でもそれなら電撃魔法を直接撃ち込んだ方が早くない?」

 

 それは一般的な敵相手であれば成り立つことだ。

 

「もし相手に極端な魔法耐性があった場合はどうだ?」

 

「それならこれは物理だから通るわね」

 

「そう、魔法を利用した物理攻撃なんだよこれ!」

 

 ときどき魔法耐性がやたら高い相手がいるのでそういった相手は絶えられないほどの魔力を撃ち込んで倒してきたが、これがあるなら物理攻撃で相手を破壊できる。

 

 各国とも躍起になって魔法による軍備増強をしているので、魔法に対する防御方法もあらかた出尽くした、そこで原点に返って物理攻撃を行うというわけだ。

 

「しかしこれ、他国に広まるとやばい技術じゃない?」

 

 そう、魔法優位を崩す圧倒的物理攻撃だが欠点がある。

「これを撃つのに使った犠牲だ」

 

 俺は床を指さす、数個の魔石だった石が転がっている。

「これ……今の一発で使ったの?」

 

「ああ」

 これは燃費が非常に悪い、魔石がないと使い物にならないだろう。今の俺にはたっぷりとあるものだ。

 

「燃費悪いわねぇ……」

 

 魔石だよりというのはこういうことだ。

「ま、フィールの相棒やってないと出来ない芸当だわな」

 フィールはクスリと笑った。

 

「マティウスは私がいないと駄目ねえ……」

 笑顔で俺のことを見ながら言った。

 

 俺はフィールと二人で二人分以上の働きが出来る自信はある、逆にそれぞれ別々だと1にも満たない性能ではあるのだがな。

 

「ねえ、マティウス……?」

 

 フィールが悪い笑みを浮かべている。

 

「もしかしてこれって遠距離にも打ち込めるんじゃない?」

 どうやらそれに気づいたようだ。

 

「そうだな、魔石さえ十分にあれば、それなりの大きさのものを国外にまで吹っ飛ばせるぞ」

 

「やべーわね」

「そりゃそうだ、下手すりゃ軍事バランスにも関わるからな」

 

 現在敵国への侵攻と言えば兵を直接送り込むしかない、空から兵器が飛んでくるなど想定の範囲外だ。

 

 思いもがけず戦略兵器を手にしたフィールがビビっている、安心させとくか。

「まあ国境を越えるほどの高高度に撃ち出すには魔石がいくらあっても足りんよ?」

 

 魔石鉱山持ちのフィールだからこそ出来る芸当と言っていい。

「そう、ほんとよね?」

 

 フィールが冷や汗を浮かべている。

「ああ、国家規模で魔石の収集をしなければとても集まらん量だよ」

 

 ここから近辺の国境へ鉄くず一個撃ち出すのに山のような魔石が必要だ、あまりにも現実的ではない。

 

 とは言え……

「戦略兵器としてはともかく、戦術兵器にはなるからあんまり人に言わない方がいいぞ?」

 

 局所戦の勝敗を左右するくらいの影響はあるだろう。1つの戦場で勝っても大局的には負けることが多い、だが一カ所で勝てるからと戦争を始める困った人がいる。だから他言無用というわけだ。

 

「お偉いさんは無茶が好きだもんねえ……」

「お前も十分お偉いさんだと思うんだが……?」

 

 心外なことを言われたと腹を立てた。

「私はいたって庶民的じゃない!? どこら辺に偉い要素があるの? 兄様と姉様はともかく、私に偉そうな要素ゼロでしょ!?」

 

 俺に命令を下してめちゃくちゃしていなければ説得力もある言葉なんですけどねえ……

 本人が庶民派を気取るならまあそれもいいさ、貴族的な振る舞いも庶民的な振る舞いも、統治の上では必要だからな。

 

「ところで、この魔法の使い道ってなんかあるかな?」

 痛いところを突いてくるな……

「…………」

 

 俺は無言で返した。

 フィールは首を振って俺に言う。

 

「呆れた……なんに使うかも決めずに魔法を使ってるの」

 

「出来ることはしたくなるんだよ、可能なことは実行したくなるのは人のサガだろうが」

 はぁ……とフィールがため息をつく。

 

「まあなんか魔法耐性の強いモンスターの討伐依頼とかあったら回すように言っとくわ」

 そう都合良くそんな依頼があるかは不明だが、披露の場くらいはありそうだな。

 しかし、実用的な魔法に力を入れるべきなのかもな、いまだとほぼ戦闘用しか覚えようとしてないし。

 

 余談だが、治癒魔法は立派な戦闘用魔法だ、仲間が傷つくなんて日常茶飯事だからな。

「そうだな、ミスりル製のゴーレム当たりが出たら教えてくれ、吹っ飛ばせるから」

 なお、ゴーレムは無機物で構成されていることが多いので魔法が効きづらい、ミスりル製ならほぼ無敵だろう。ギルド上位が総動員されるような事態だ。しかも勝てる見込みが小さい撤退線になるだろう。

 

「マティウスが自殺志願者なんじゃないかってときどき思うわね……」

 そのくらいミスリルゴーレムを相手にするのは危険だった。

 

 しかしまあ……目の前の惨状を目にするによほど巨大でなければ落とせるだろうなと確信はしているのだった。

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