仲間「だった」奴ら

 その日、俺はギルドを訪れていた、懐かしい面々と会うためだ。

 

「よう、マティウス! 元気でやってるようでなによりだな!」

 

「ええっと……ああ、元気だぞ?」

 

 誰だっけな……以前仲間になったことはあるんだろうが、どうにも歓迎と放逐を繰り返したせいでパーティだったメンツの顔と名前が分からない。

 

「その様子だと俺たちが誰か分かってないようだな」

 

「ひどくなーい?」

 

 なんか一緒にいた少女も俺を非難するがさっぱり分からんので嫌な顔すら出来ない。

「おいおい、俺はお前に助けられたのを恩に着てたのに本人が覚えてないんじゃしょうがねーな」

 

 マッチョな男が答える、おそらくこのパーティのタンクだろう。

 

「まあお前さんはしょっちゅうメンバーをとっかえひっかえしてたしのう……わしらの事なんぞいちいち覚えてないじゃろ」

 

 じいさんがそういう、どうやらこの一団の一人らしい。

 

 そしてリーダー格の男が言う。

「なあマティウス、もう一度俺たちとパーティを組まないか?」

 

「まず名乗ってくれ、誰か分からないと返答も出来ない」

 

 リーダーが肩をすくめて言う。

「俺はゴードン、このパーティのリーダーだよ、剣士だ」

「私はエリカ、パーティのヒーラーやってるわ」

 

「俺はダグル、タンクをやってる、って言うかほんとに覚えてないんだな」

「悪いな」

 

 そう答えるとじいさんが話しだす。

 

「わしはゾーク、魔導師やっとるよ。お前さんが入ったら用済みかもしれんがな」

 

 そういう顔は俺が入ったらなどとみじんも考えていないように飄々としている。

 

「ええっと……俺は自己紹介不要だよな? 覚えてるみたいだし」

 

「当たり前だろ、忘れられないほど法外な魔法使ってたんだぞ? むしろマティウスが覚えてない方が驚きだよ!」

 どうやら以前の俺はずいぶんとやんちゃをしたらしい。心当たりはたくさんあるのだが……

「忘れるわけないでしょ!? ゴブリンの討伐依頼だったのにあなたが入ったら巣穴をまとめて吹き飛ばしたのよ! むしろアレを忘れてるあなたがすごいわ……」

「そうだっけ?」

 

 パーティそろって呆れた顔をされてしまった、魔力さえあれば全力で使ってたからな、そんなこともしたのだろう、自重した方が良かったな……

 

 昔のことを悔やんでも仕方ないし、現在の話、というか断りをしよう。

 

「悪いがお前たちと組むわけにもいかない、今の雇い主の金払いがずいぶんといいんでな」

「領主様かのう? 確かに報酬は良さそうじゃが……自由は欲しくないのか? わしらと組めば好き放題出来るぞ?」

 

 じいさんが言うが俺の答えは決まっている。

 

「すまんな、フィールが魔石を毎回くれるんで魔法が撃ち放題みたいなもんだから、昔の記憶は魔石に困ったことしか覚えてないんだ。またあんな目に遭いたくないんでな」

 

「じゃあなんで俺たちと会ったんだ?」

 

 ゴードンが聞く。答えは決まっている。

 

「なに、昔のよしみだよ。魔法を使うと精神力を削られるんでな、記憶も多少影響を受けるんだ。昔の仲間と会うのは過去を忘れないためだよ」

 

 最近は昔のことを思い出さなくなってきた、支障なく与えられる魔石、ちゃんと出る成功報酬、これに慣れると昔のハングリーさがなくなって困る。

 

 じいさんが口を挟んだ。

 

「それはただ単に今が満たされとるから嫌なことをしまっとるだけじゃろう? お前さん、昔組んだときはしんだ目で淡々と大型魔法をうっとったしのう……あれだけの魔法を無表情で撃つのは怖いくらいじゃったよ」

 

 どうにも昔の俺には若気の至りが多かったようだ。

 エリカが俺に言う。

 

「でも感謝はしてるのよ? 私なんて片腕吹っ飛ばされたのに平気で治癒魔法使うんだもん、それでこうして腕が未だに健在なのよ?」

 部位欠損の治癒は結構な魔力を消費するからな……

 

「気にするな、それなりの魔石はもらったんだろうし昔のことだ」

 俺は万年金欠だった記憶しかないので、魔石を自分で買ったことはほとんどなかった、つまりゴードン辺りが買っておいて俺に支給してくれたのだろう。

 

「しっかしお前は変わんないなあ……何年か前だというのに年をとった感じがしないぞ!」

 ダグルがそう言うが、それは不味い事態だな……老けないのではない。

 

「変わらないか……? 時間操作の魔術を使う機会が多かったんでな、多少は俺の時間が影響を受けたのだろ」

 

 時間操作魔法には代償が伴う、代表的なものとしては自身が急激に老化したり若返ったりだ、俺はできるだけ影響を受けないように使用していたがどうやら周りから見ると分かるらしい。

 

「余計なお世話かもしれんがのう……お前さん、ずいぶんと酷使されとらんか?」

 ゾークじいさんがそう言う、自分では分からない情報だった。

 

「自覚はないんだが……? そうか?」

 

「わしも魔導師者があれだけの魔法を代償なしに使うのは無理じゃとおもうぞ? お前さんなら使い可燃とは思うがのう……?」

 

 なるほど、どうやら俺の魔法は周囲からすれば異常らしい。

 

 そこにゴードンが割って入った。

「まあ細かいことはいいさ、飲もうぜ奢るからな」

 

「いや俺も今は金はあるんだが……」

 

「そういうな、領主様に借りを作るのだって悪くないさ」

 

 そういうことなら奢られようか、穀潰しだの、金食い虫だのいわれていた頃からはさっぱり想像もつかないな、奢られた事なんてなかったのに……

 

 俺たちは宴会をした後、ゴードンが真剣な顔で切り出してきた。

 

「実はマティウスにやめてもらってから一人魔導師を雇ってな?」

 

 俺の酔いが覚める、どうやらそれが本題らしい。

 

「少し前にメガリザード討伐依頼を受けてな、それ自体は成功したんだが、片足を食いちぎられてな、治癒魔法で傷は塞いだんだが修復まで出来なくてな、助けてやってくれないか?」

 

 まったく……こんなことまでしてお願いするとは、しょうがない連中だ。

 

「分かったよ、治癒魔法だな、もちろん魔石は用意してあるんだろう?」

「ああ、報酬と貯蓄を結構持ってかれたが助かるんならそのくらい出す」

 

「ずいぶんと情に厚くなったな……?」

 

 ついつい嫌みが出てしまう、悪い癖だ。

 

 しかしゴードンは事情を話す。

 

「俺の妹なんだ……パーティに入れてくれって聞かなくてな、強情を張るから修羅場の一回でも経験したら辞めるだろうと思ってたらしくじった……」

 

 なるほど、家族……か。

 

 家族愛というものの理解は薄いが、こいつらが本気で助けたいということは伝わってくる。

 

「じゃあ行くか、治癒魔法はなんにせよ早く使うのが一番だからな」

 

 本人が欠損を通常だと認識すると、治癒のイメージがしづらくなって修復がいびつになる可能性がある。

 

「恩に着る! ありがとう!」

「ありがとう」

「助かるよ」

「わしがどうにか出来たら良かったんじゃがのう……老い先短い身じゃが、しぬまでは覚えておくぞい」

 

 そうして酒場を出て病院に向かう。

 

 治癒魔法を使えない場合病院での治療だが、やはり魔法やエリクサーを使用した方が効率がいい、それでも病院があるのはそれらが使えない人がいるからだ。

 ガラっ

 

 病室のドアを開けると三つ編みの少女がベッドに寝かされていた。

「兄さん……ごめんなさい……私が言うことを聞いていれば……うぅ……」

 少女は嗚咽する、この子がゴードンの妹のようだ。

 

「じゃあマティウス、頼む」

 

 俺は手渡された手のひらほどの魔石を使って唱える。

 

「ヒールオール!」

 

 光が少女を包んで欠損していた足を修復していく。

 

 やがて光が消えると傷一つない少女がそこにいた。

 

「兄さん! 私……?」

 

「お前は助かったんだ……このマティウスが……ってあいつは?」

 

「さあ? さっきまではいたと思うのだけど」

 

「光が出てから目を閉じたららいなくなってたな

 」

「らしいやり方じゃのう……ホッホ」

 

「「「???」」」

 

 俺は病院を出て屋敷に帰る道を歩いている。

 

 実際のところ治癒魔法に「光は必要ない」

 

 アレは俺があの場を去るために出した演出だ。

 

 あいつらが恩を感じようと俺は忘れるからな、はじめから覚えられない方がいいさ、少なくともあの妹に恩を着せる気にもならんからな。

 

 久しぶりの爽快な気分で屋敷へと足をすすめるのだった。

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