ミステリィ
「マティウス! 頼みがあるんだけど!」
頼み事ねえ……頼む態度ではないと思うのだが、お金が出る以上大抵のことは引き受けなくてはならない。
「なんだ? 今度はゾンビか悪魔でも出てきたのか?」
大抵はろくでもない超常現象や魔法の類いが多いので今回もそんなところだろう、違ったら大抵さらに面倒な依頼と相場が決まっている。
「どっちでもないわ、今回はそんな楽に構えないでもらえる?」
どうやら面倒な方が舞い込んできたようだ、フィールはいつも貧乏くじを引いているような気がするが、できればそれを処理する俺の身にもなって欲しい。だからこそ収入になるわけであまりぞんざいなことも出来ないのだが……
「で、なんの依頼だ? まっとうなものじゃなさそうだな」
「ええ、不可能犯罪よ」
不可能犯罪とはまた面倒な話だ、死者が出たという話も聞かないので放っておいていいんじゃないかとも思うが、そこは貴族の務めなのだろう。
「不可能ってなにが起きたんだよ?」
フィールが言い質問ですとでも言いたげに鼻を鳴らして事件を説明する。
あらましとしては、ただの窃盗である。そこへの入り口が一カ所しかなく、密室で会ったという点を信じるならば、だが。
「貴金属がメインで狙われてるらしいの」
「そりゃそうだろう、盗むなら小さくてできるだけ金になるものを選ぶ、価値があるからってわざわざデカい壺だの絵だのを盗むのは難しいしな」
ついでに言うなら監禁も難しい、その点貴金属なら何らかの方法で原型をなくすように潰すなり溶かすなりすれば後は金属自体の価値で売れる、監禁のしやすさなら圧倒的にこっちを選ぶだろう。
「というわけで現場に一緒にきて欲しいんだけど?」
「拒否権はないんだろう?」
「もちろん」
即答だった、だったら聞くなよと言いたいところだがそれもこれもお金のためだ。
――そうして町の中心部へといたった頃
「ここが被害者の家か……」
目の前には結構な豪邸が建っていた、格差社会を思い知らされるがそこはまあしょうがないものだ、人は生まれながらに平等ではないのだからな。
「そうね、現場はリビングだそうよ」
なるほど、山ほど入り口がありそうだが内部はそうでもないのだろうか?
俺はフィールの後についてこの家に入っていく、高そうなものはそこら中にあるが、どれも売るのが難しそうなものばかりだ。
「領主様! 捜査に来ていただけたのですか!」
「ええ、なんとかして犯人を捕まえるから安心していいわよ?」
「ありがとうございます!」
フィールに対する謎の信頼感とか気になることはあるが現場へ行くのが一番先だろう、フィールの脇腹をつついて早く現場に案内するように耳打ちをする。
「マティウス、急いては事をし損じるって言葉があってね……?」
「現場が残ってるうちに調べた方が確実なんだよ、その辺も考えてくれ」
証拠隠滅の可能性もあるので今日中がリミットだろう、何らかの方法で目星だけでもつけないと迷宮入り待ったなしだ。
「奥様、この方たちが事件を解決してくださるのですか?」
使用人がそう聞いてきた、なぜか疲れた顔をしている。
「ええ、そうね。あなたでないならちゃんとした犯人が見つかるはずよ」
使用人が犯人である根拠はないはずだが?
「そちらの方が怪しい理由でもあるのですか?」
俺が奥さんに聞くと簡単に答えてくれた。
「現在うちの鍵のすべてを任せておりますからね、今朝、ドアを開けて入ってきたときすべての鍵が閉まっていたのは保証してくださるでしょう」
なるほど、使用人が一番の容疑者か。
そうして部屋を見渡しているとあるものが目についた。
「アレは……ペット用の出入り口ですか?」
部屋の片隅に小型の犬や猫くらいなら出入りできそうな小型の入り口があった。
「なあフィール……早速密室が崩れているんだが?」
「馬鹿ねマティウス、あんな小さい入り口から入れるわけないでしょう?」
そうだな、「人間なら」まあ不可能だろう。
「はい、アレはうちの猫の出入り口ですね。あそこから入って盗み出せる人間はいないと思うのですが?」
「たしかに人間なら、無理でしょうね」
俺がそう言うと二人ともポカンとしながら昨日の戸締まりの事と寝る前は確かに完璧だったことを話していた。
「ねえマティウス! これは密室よ! 間違いないわね!」
探偵気取りだが、そこはもう少しシンプルに考えた方がいいのではないだろうか?
「ところで奥さん、なぜフィールに調査依頼をされたのですか?」
すこし狼狽しながら答える依頼者。
「それは……領主様の家で一番ヒマ……いえ、お手空きだと聞いたもので……」
フィールが露骨にむっとしているがそれについては放置しておこう。
「ところでこの家にいた猫はどこへ行ったのです?」
「さあ? 朝から見ていませんねえ、なにぶん盗みにはいられたことで頭がいっぱいで」
なるほど、猫と貴金属が消えたというわけか。
俺は小声でフィールに問いかける。
「なあ? これが本当に盗みだったら税金の軽減とか会ったりしないか?」
フィールは困惑して答えた。
「そりゃあ……たしかに盗まれた分の控除は受けられるけど……まさか?」
まあそのまさかだろうな。
俺は小指の先程度の魔石を取り出して一つの呪文を唱える。
「トラッキング」
俺は猫の後を探してそれを追跡していく。小窓から出て曲がりくねり、小道に入り最後には小さな小屋に着いた。そこはまるで大事なものの保管庫のように雨風を受けない作りで見つからないような場所にあった。
「よっと……」
小屋の屋根を剥ぎ取ると宝石やアクセサリがこんもりと詰まれていた、そしてもう一つは……
「マタタビ、ですね?」
「マタタビね」
「ええ? 何のことですかね? それが今回の件と関係が? ああ! 見つかったから領主様にはお礼を言っておきますのでありがとうございました」
わかりやすく焦りながら会話を打ち切ろうとするがここまで来ればフィールでも大方予想はついているようだ。
「あなた、脱税をしようとしてましたね?」
「ななななあ!? なあああんの事でしょうね!? 分かりませんね!!」
ここまで来て否定するのは無理があるだろう。
要するに猫が毎日ここに来るようにマタタビを置いておいて、昨日の夜に小窓から貴金属を持った猫を外に出す、そして翌日、鍵のかかった部屋の中から消えたアクセサリが一丁上がりだ。
ご丁寧に使用人が第一発見者となるように鍵を渡しておいたらしく後はシンプルに全部吐いたらしい。
そうして追徴金を課されて事は一件落着となったわけだ。
なお、その猫は里親を探しに出され、無事見つかったらしい、次の飼い主がこんなせこい自作自演を行わない人間であることを願っておこう。
そうして送り出された猫を情が移ったのかフィールは涙目で送り出すのだった。
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