ギャンブラーの発想

「マティウス! 絶対に儲かるいい話があるんだけど?」


 俺は聞いていないふりをする。確実に儲かるなんていう奴に信用できるやつはいない、保証してもいい。


 なのでできるだけフィールの方を見ないようにしつつ魔道書を読んでいるのだが……


「あー! この話聞かないと一生後悔するだろうなー? きっと死んでからも後悔するんじゃないかなー!」 うざい、この調子でついて回られるととても鬱陶しいので聞いてやるか……ろくなもんじゃないだろうが……


「で、なんで急に金儲けにはしろうとしてるんだよ? 金なら十分あるだろ?」


「誰かさんに魔剣を消されたおかげで現在「私が」金欠なのよ!」


 自業自得でした、ほっといてもいいかな? 俺は悪くないと思うんだよね。


 露骨に嫌そうな顔をすると伝わったのか下手に出てきた。


「でね、この方法にはマティウスの協力が必要なのよ、ちょっと力を貸してくれないかなーって?」


 はぁ……こうして今日も厄介事に巻き込まれるのか……


「で、何をやるんだ? できればだれも傷つかないことだと嬉しいんだが?」


 殺しは簡単に金になるがそこまで倫理観がぶっ壊れていないのでできればやりたくない金策方法だ。


 フィールの性格からして、いかさまやズルはしても殺したり傷つけたりはしないので多分問題ないだろうが……


「知ってる? 王都で富くじがあるの?」

 富くじとは要するにみんなで買って一人に配当を出すというモノだ、もちろん王家後任で上前ははねるだろうが……


「知ってるが未来予測はそんな精度が出るもんじゃないし、もうすでに当たりくじが買われてる可能性もあるぞ、というかできればやりたくない」


 予測魔法は物理法則に則ったモノは比較的精度が出るのだがこういったクジのような人間の心理が結果に関わるようなモノにはあまり精度が出ない、人の心は物理よりよほど予測が難しいのだ。

「なるほど……そこでこの私は考えたのよ!」


 ああ絶対ろくでもない考えだろうなあ……聞かなくても容易に予想がついてしまうのが悲しいところだ。


 もちろん心を予測したとかではなくフィールがろくな思いつきをしないという経験則から出た答えだ。


「未来が分からないなら過去を改変すればいいんじゃない?」


「は?」


 俺の思考が止まった。

「要するにクジの当選番号が発表された日から過去に戻って当たりのくじを買えば問題ないでしょ!」

 ドヤ顔でいっている、本人からすれば本気で名案のつもりなのだろう。


「いうのは簡単だけどなあ……時間魔法ってもの凄い魔力を消費するんだぞ、その割に見返りが少ないし、なにより過去改変なんてやったことがないから何が起きるかまったく分からないんだぞ?」


 フィールはそれでも諦めない。


「ほら、だったら記憶だけ飛ばすとかさ……? 何か良い方法があるんじゃない?」


 記憶の遡行か……いっぺんやったことがあるがあまりいい記憶は無いんだよな……


「じゃあ一時間前に飛ばしてやるから魔石五個くらいいいやつを支給してくれ」


「一時間で五個!」


 ぼったくりのような価格だが時間操作には膨大な魔力が必要だ、それがほとんど普及していない理由にもなっている。


 本当に時間遡行ができるなら安いのかもしれないが。

 フィールは部屋を出て行って貯蔵庫から魔石を持ってきた。


「これで十分でしょう?」

 上質な魔石が五個ばかり用意されてきた、さてもう一つの問題だ。


「フィール、今から五枚コインを投げる、表の数と裏の数を覚えておいてくれ」


「へ? 何でそんな?」

「やってみれば分かる」


 俺は五枚のコインをトスしてテーブルの上に置いた、四枚が表、一枚が裏だった。


「さてこの数を覚えておいて一時間前に飛ばすぞ?」

「何の意味があるの?」


 その疑問を方っておいて「タイムリープ」を唱えた。

 そうして一時間前に話は戻る


「マティウス! 私、戻ってきたの?」


 俺はキョトンとするがまあなんか無理難題を押しつけたのだろうと推測する。

 そうして説明を聞くと一時間後から記憶を持ったまま戻ってきたそうだ。


 どうせ一時間後の世界で駄々をこねたのだろうがいつものことだ。

「で、何か俺は言ってなかったか?」


「えーと……あ! コインを五枚投げて裏と表の数を覚えとけって意味のわかんないことを言ってたわね」


 なるほど、分かりやすい話だな。

「じゃあコインを五枚トスするぞ? ちなみに一時間後の結果はどうだった?」

「表が四枚、裏が一枚だったわ」


「じゃあ今回の結果はどうなるかな?」

 チャリンと五枚のコインを放る、それはテーブルに落ち、三枚が表、二枚が裏だった。

「あれ……未来を見てきたはずなのに? なんで結果が違うの?」


「こういう偶然に頼って確率は時間遡行のたびに結果が変わるんだよ、だから一時間後の俺がなんと言ったかは知らんが大方金でも儲けようとしたんだろ? 無理なんだよ」


 フィールは五枚のコインを見ながらため息をついている。


「あ! でも使った魔石は元に戻ってるんじゃない? だったらリスクゼロじゃない!」


 俺は足下にある、さっき出てきた五個の石を指さす。


「これだろ? お前が様子を変えるときに出たから大方そんなことだろうとは思ったよ、時間遡行には魔石が付属して言っちゃうんだよ、だから五個消費したのは戻らんよ」


「そんなー……」


 泣きそうな顔でフィールが絶望しているが、自分のために使う魔法なんて大抵こんなモノだ。

「ほらほら、諦めて地道に稼ごうな?」


 そうしてフィールの野望は潰えたのだった。

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