フィール、魔剣をもらう

「あーこれねー、どうしよっかなー?」


 フィールがチラチラとこちらを見ながら箱を持っている。どうせその中身はろくなものではないのだろうが行きがかり上聞いておいた方がいいのだろう。世界を破滅させる道具でも好奇心で使うような奴だからな。


「マティウス? 気になる? 気になる?」


 どうしよう、すごくウザい。雇用主じゃなければ即その場を離れているところだがな……


「それなんだ? また面倒事を抱えてきたのか、しかも文字通り抱えてるな?」


 フィールが不服そうに反論する。


「まったく! マティウスにはこの剣の凄みが分からないんだね-!」


 長い箱だと思ったら剣だったのか。


「なんだ、名剣か何かが手に入ったのか?」


 フィールのはしゃぎっぷりを見るとよほどの業物なのだろう、それくらいにははしゃいでいた。

 そして自信満々に胸を張り宣言した。


「これは魔剣「シャドウ・ボーン」よ! 今まですった生き血の数は知れないと言われてるわ!」

 えー……何でそんな曰く付きのモノをウキウキで持ってきたんだよ、明らかに縁起が良いものをもらったノリだったぞ?


 そんな俺の考えなど気にもとめず箱を開封していくフィール、大丈夫だろうか?


 念のために魔石から魔力を吸って放てる状態にしておく。


 そうして出てきたモノは……箱だった。


 箱が入れ子になっていて大きな箱の内側に剣にぴったりのサイズの箱が入っていた。問題なのはその箱には護符がびっしりと貼られていることだった。


「ふふふ……さすがは魔剣……私をじらすとはいい度胸じゃない」


 フィールはビリビリと札を剥がしているので俺が止める。

「もし中からとんでもないモノが出てきたらどうする気だよ? こういうのは不測の事態に準備してから空けるモノだぞ?」


 フィールは意外そうな顔をして言う。


「あれ? 昨日マティウスに給料と魔石あげたよね?」



「ああ? もらったが……?」


「ということは今マティウスは魔石を持っている! 不測の事態への準備はバッチリじゃない!」


 まさかの準備は俺だった。ノープランでないだけマシかもしれないが……正直責任が重すぎる。


「なあ……教会師に頼んだ方がいいんじゃないか? 見た目からしていかにもやばそうじゃないか?」


「私マティウスを信じてるから」


 絶大な信頼の元破り捨てられる護符には涙を禁じ得ない、というか貼り方が尋常じゃない量だ。以前魔槍を扱ったことがあるが、魔王軍幹部が使ったという曰く付きでも箱の四隅に札が貼ってあっただけだったぞ。


 ビリッ


 最後の一枚を勢いよく剥がしてから箱の中からだれでも分かるくらいの魔力が漂ってきている。さすがのこいつもこれが分からないわけではないだろう。うん、さすがに思いとどまるはずだ。


 パカッ


「フィール! どう考えてもやばいだろそれ! なんで開けるんだよ!?」


「箱があったらそりゃ開けるでしょ?」


 だめだコイツ……本気で言ってやがる……どう考えても扱いに困りそうな代物が出てくるのしか予想ができない。


 そうして箱から漂う魔力と共に姿を見せたのは血のように赤いショートソードだった。


 ひどい物になると触れてもいないのに周囲に害を与えるモノが多い中、以外におとなしい装備だな……


「いいかフィール、それに触らずゆっくりと離れろ……」

「え……?」


 ひょいとその剣を持ち上げていた、触るなっつったろ! 何あいつ!? 言葉が実は通じてなかったとかそういうアレなの?


「ヒサシブリノニクタイダ……ナジムナ……チヲヨコセ」


 フィールは早々に魔剣に自分の意志を乗っ取られていた、マジで俺がいる以外ノープランで開けたらしい。


 クソッ、あんなやばそうなもんにどうしろっていうんだよ?


 スパッ


 俺のいた場所の後ろのソファが真っ二つに分かれる。切れ味がいいどころか金属を平気で切れるようだ。


 俺はなんとかかわして、フィールをどうにかして正気に戻す方法を考える。


 一応精神抵抗力を上げる魔法はある、だが一時的なモノなのであの魔剣がある限りかけ続けなくちゃならない、あまりにも現実的じゃない。


 そう言っている間にさっきいた場所の後ろの壺がスパリと二つに分かれて床に落ちた。

 ああもう! 四の五の言ってる場合じゃないな!


「ディスペルマジック!」

 俺は解呪魔法を魔石のほとんどの魔力で放つ。魔剣はまばゆい光に包まれながら「ウゴゴゴゴナゼニンゲンゴトキニ」とかいいつつ消えた。人間ごときに封印されてたんだから消滅も当たり前だろうに……


 フィールはパタリと倒れたので俺が助け起こすと意識障害もなく目を覚ました。


「あれ? 私は魔剣を手に取って……? なんかいろいろやっちゃった?」


 辺りを見回して自分が不味いことをやったとようやく気づくフィール、できれば開ける前に気づいて欲しかったな……


「マティウス……」

 なんだ? お礼でも言うのか? それともさっき使った魔石の補填か……


「魔剣がないんだけど?」

「は?」


 なんだコイツ、真っ先にいうのがあの魔剣の事ってまだ意識を乗っ取られてるんじゃないか?

「マティウスがなんとかしたのよね? で、安全な魔剣が残る予定で私は手に取ったんだけど……? どこにいったの?」


 ひどい理由だった。全責任を俺に押しつけたいのだけは分かった。


「魔剣は解呪と同時に消滅したよ、というかアレは剣というより呪いがたまたま剣の形になったようなモノだから呪いが消えれば消えて無くなるな」


「ええ! あれ結構良い値で売れる予定で仕入れたんだけど!? 消えちゃったの!?」


 売る気だったのかよ、というか俺が呪いを消すまでは織り込み済みだったんだな……策士なのか考えなしなのか……多分後者だろう。


「まーてぃーうーすー! お願いちょっとでいいからお金貸して! アレ売れば絶対高いって思って買っちゃったからお金やばいの! 家としてはともかく個人的にあれだけ使うのは不味いから!」

 そうして俺は三ヶ月ローンという形で魔剣代の返済を引き受けた、幸いここに来てから生活費の心配が無いおかげで補填はできた。


「うう……アップルパイが食べたい……チョコレートが食べたい……」


「はいはいガマンガマン」


 こうしてしばらくの間フィールは嗜好品を我慢することになったのだった。

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