錬金術の理論
俺は現在、部屋でとある魔法について研究をしている。真夜中、だれも起きていないのを確認してのことだ、今回の実験を知られたら罪人扱いされそうなので慎重に行わなければならない。
液体アダマンタイトを少量、水銀に混ぜる。さらにインジウム、ガリウム、カドミウム等を絶妙なバランスで混ぜて……
俺は念のために持っている魔石を使用して極高温と高圧縮を加えた。液体金属が宙に浮かび光り出す。そしてポトリと落ちてきたのは……
「成功しちゃったな……」
金だった、黄金、貨幣の基本にもなる金属、それが別の金属から作られたのだった。
「マティウス? 何を夜中にやってるの?」
不覚だった……ドアを開けて除いているフィールに、魔法に集中していたせいでまったく気づかなかった……
「「……」」
気まずい沈黙が流れる……
「それ、金よね? まさかうちの宝物庫から……!」
「いやいや、違うから」
俺は錬金術の実験をしていたのだと位置から含めて説明した、フィールは楽しそうに聞いていたが理論の少しも理解していないであろう事は分かった。
「で、なんで金なんて作ろうとしたの?」
「できそうだったからやらずにはいられなかった。できることはやってみたくなるだろう?」
はぁ……とフィールがため息をつき俺に注意した。
「いい! 私が見つけたから良かったようなものの、無関係の第三者に見られたら牢獄か一生金の生成器として過ごすことになるわよ? その辺分かってる?」
俺にはそうはならないだろうと予測があった。
「いや、そうはならんよ、貨幣の素材が変わるかもしれないがな」
怪訝そうに顔をのぞき込まれる。
「何でそんなことが言えるのよ?」
これに対する答えはとってもシンプルだった。
「アダマンタイトやインジウムとか、金より希少な金属を使ってもとより少ない量の金しか作れないからな、理解してもやろうとする奴はいないよ」
心底呆れた顔で言われた。
「だったとして、何でそんな非効率な実験をやろうとしたの? 普通に金だって買えるくらいの金額をかけたんでしょう?」
それはごもっともだがそれじゃあ面白くないじゃないか。
結局のところ研究なんてのは自己満足の極みなのだ、できるからやる、ただそれだけの行動原理で行ったことだ。
「理論を見つけると証明したくなるだろう? そういう人間のサガだよ」
「業が深いわねぇ……」
フィールも呆れたが、悪用する方法があまりない魔法と言うことで不問としてくれるそうだ、もちろん今夜のことはキツく口止めをされたのではあるが。
俺の机の上にある金の欠片を手に取って眺めている。
「確かに金ねえ……素材がレアすぎて無駄遣いでしかないのを除けばすごい発明ね」
だろうな、安価な金属から金が作れると貨幣制度の崩壊につながりかねない、禁止は当然されるだろう。
「でもなあフィール、その金で変える量の魔石よりたくさんの魔力を使ったんだぞ? そんな馬鹿な行為をだれもしないと思うがな、魔石だけでも結構な値段だからな」
ふーんとフィールは俺の机の上の金から目を離さない。
「ねえマティウス、私の知り合いに彫金師がいるんだけど?」
言いたいことは理解した。
「さすがにそれは不味いんじゃないか? 出所を聞かれたらどうするんだ?」
フィールは少し考えた後に答える。
「そうね、魔石発掘のついでに出てきたとでも言っとこうかな?」
魔石と金の鉱山は全くの別物なのだが、そんな無茶が通るのだろうか?
しかし俺の考えを見透かしたかのようにフィールは言う。
「私はね、面倒事ばかり押しつけられてね、そういうことばかりやってると相手も面倒事を抱えてることがよくあるのよ? だからお大概に干渉しない、言われたことをやる。シンプルな関係の相手だっているのよ?」
シンプルねえ……貴族のダークサイドみたいなもんか?
金事態はフィールの給金から出たお金で買ったのでフィールがもらうことにそれほどの問題は無いだろう。
世の中には深入りしない方がいいこともあると言うことでフィールにはその金を渡して退室願おうか。
「分かったよ、それは好きにしていい。ただし俺に足が着かないようなやり方で使ってくれよ?」
大事な者を手に入れたときのような笑顔でフィールは頷いた。
「うん! 最高の金細工にしてもらっておくね!」
分かったんだか分かってないんだがよく分からないことを言いながら部屋を出たフィール。
さて、俺の目的は金を作り出すことではなかったりする、それはあくまで副産物で、オリハルコンやミスリルといった伝説上の金属を作り出すことが目的だった。
その過程で金も作れそうだったから試したと言うだけだ。
さあて、今度こそ実験を始めようか。
そう言ってビーカーやフラスコや試験管をストレージから取り出し、本格的な実験を開始するのだった。
俺はオリハルコンやミスリルは古代人が鉄をそう呼んだだけなんていう夢のない話は信じていない。
だって面白くないだろう? 超すごい金属が実はただの手伝ったなんて……
だから俺は追い求める、人類の限界のその先にあるものに手を伸ばして、つかめるかどうかも分からないあやふやなものを手に入れようと努力をするのだった。
俺は人間の可能性というモノを信じたい、人間が努力すれば神の領域にだってたどり着けるのではないか?
その不遜な考えでひたすらにあり得そうもないことをなそうとすればいつかは届くかもしれない、俺じゃなくても後世の別人がやり遂げる可能性もある。だから俺は高みを目指すのを決してやめることはない。
神も悪魔も人間の手で正体を暴き、過去のモノにすることが最終的な目標だった。
それに対するまず一歩目として今日の実験をしたのだった。
手応えはあったが……当分酒場には行けないな……
そうしてしばらくやった結果、赤字が残ってフィールの依頼をひたすら小ナスは目になったのはまた別のお話だ。
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