あまねく人に光あれ
「マティウス! ちょっときてー!」
フィールからの呼び出しだ、大抵そこら辺の思いつきを俺に押しつけるだけなので俺も気が進まないが雇用主なのでしょうがなく呼ばれる方に行く。
「こちら、エレキ先生よ!」
やけに腰の低い老人が俺を眺めていた。
「どうも……今回は私の発明に協力してくださるそうで……ありがとうございます」
発明!? なんのことかわからないがフィールがドヤ顔しているのでろくでもないことなのは予想がつく。
俺はフィールに小声で聞く。
「なんだよ発明って……? っていうか協力って何?」
フィールは自分のことのように自慢げに言う。
「なんとこの先生は、電気を光に変えられる発明をしたのよ!」
「へー」
「何その薄い反応!」
だってねえ……
「俺「ライト」使えるし、その発明いる?」
クズ魔石一個で一週間くらい部屋を照らすことができるので、その発明のすごさがいまいち分からない。なんなら必要性もわかんない。
「ふっ……魔導師様には分かるまいな……魔法を使えないものでも夜を明るく照らせることの意味は……」
なんかこの発明家、偉そうなんですけど……結局フィールを頼ってきてるあたり権力闘争には弱いのが予想がつく。
フィールを頼ってくるのはスートさんやリリエルさんに相手にされなかった人が多い、多分このじいさんもその一人だろう。
「フィール、何でこんな怪しげな人を……」
「しーっ! 私が夜の町を明るくすれば私への支持が上がるでしょうが! そのくらい察しなさいよ!」
すがすがしいほどの私欲のためだった。
ええ……自分のためか……納得はしたけど……
「ちなみに電気はどうやって調達するんだ?」
「マティウスの魔法だけど?」
本末転倒にもほどがないですかねぇ……もう「ライト」して回った方が早くね?
「ここから送電線を張れば、町の皆が自由に明かりをつけることができるんです……すごいでしょう?」
「ええ……まあ……」
正直まったくすごいと思えないのだが、そう言うとちょっとこの人がかわいそうなので同意しておいた。
「まずこの線を持ってください」
そう言うと俺の手に金属の線を握らせた。
そしてその線をなんだかよく分からない管につないでもう片方を地面につないだ。
「本当は正極と負極がいるんですが……まあ今回はこれでいいでしょう。その線に電撃魔法を流してください。あ、手加減はしてください、デリケートなので弱い電気からお願いしますじゃ」
めんどくせぇ……「ライト」でよくね? なんか魔導師に恨みでもあんの?
フィールはフィールで俺に指先程度の魔石を渡してくるし、この茶番に付き合うのか……
「はぁ……いきますよ」
電気を微弱な量だけ線にかける。つながっている管の中の線が赤くなった。
「もうちょっといけますかな……」
どうやら足りないらしいのでもう少し強力な電気を流す。
管の中の線が白っぽく発光したあと、パンという音と共に消えた。
「これは成功なんですか?」
フィールが聞く。
「少々耐久性に問題がありますな、改良が必要です」
「今後に期待ってとこね」
フィールは何やら勝手に期待をしているようだが面倒くさいだけのような気がする……
その発明家が屋敷を出て行った後でフィールに聞く。
「また何であんな怪しげな発明に頼ったんだ? 魔法で町を照らすくらい簡単だぞ?」
フィールは肩をすくめて言う。
「マティウス、あなた、魔導師の少なさを分かってないでしょ? 誰も彼もが魔法を使えるってわけじゃないのよ、私が電気を全家庭に伝えることができたら魔導師に頼らなくても夜に危ない炎や希少な魔力に頼る必要がなくなるのよ?」
なるほど……確かにオイルランプでの火事は後を絶たない、かといって安全な魔法での照明はあまり普及していない、貴重な魔力を照明に使うのは贅沢とされていた。
「決して……決して、私が魔法を使えないひがみなんかじゃなくてね! いい! 私は皆のためを思ってるのよ?」
感心を返してくれ……結局自分のためじゃねえか……
とはいえ、一応みんなのためを思っているなら良いことなのかもしれないな。
「ところで電気の安定供給のあてはあったのか?」
フィールはずいと俺を指さした。
「マティウスが魔石から出せばなんの問題もないわ」
えぇ……完全に俺だよりじゃねえか……
魔力で電気を起こしてその電気で照明をたく、意味あるんすかね?
「ま、実用化にはもうしばらくかかるみたいだし、のんびり待ちましょう」
俺はその実用化と俺の寿命のどっちが早いかの方が気になるのだった。
まあ、そのじいさんの寿命の方がそのどちらよりも早そうではあるのだったが……
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