星が降る日

「星が降ってくるって?」


 俺は思わず聞き返した、フィールの顔は真剣だったが言っていることは突拍子もなかったからだ。


「そう、王立の天文学研究所が出した計算によると、だけどね」


 フィールはこの世界の周囲を回っている星の一つが軌道を変え、この大陸近辺に落ちてくると言う予想が出たことを告げた。


 そんなことを言われたって信じられるわけが無いじゃないか? 星だぞ? あの空に浮かぶ星が落ちてくる? まさか。


「先払いでこれだけ魔石が出たわ、予測魔法を使えって事らしいわね」


「え? まさかフィールが帰るのに使った馬車に積んでるのって……」


 バサリと覆いが取り払われる、そこには戦争なら戦局を決めそうなほどの魔石が山と積まれていた。


「とりあえず予測魔法で位置の確定、後は別で送られてくる魔石で破壊魔法を撃ち込んで欲しいそうよ。


 明らかに冗談で出す量ではない、本気であることをこの魔石の量が物語っていた。


「あまり時間はないの、早めに予測魔法を使ってくれる?」


「あ、ああ」


 俺は尋常ではない量の魔石にビビりながらも手を触れて「プリディクション」を使った。

 燃えさかる火、崩れ落ちる建物……死にゆく人、それは神の所業とも言える光景だった。

 あちこちから悲鳴が聞こえ誰も彼もが混乱している、あまりにもおぞましい光景だ。


「マティウス!」

「えっ!?」


 俺はそこで現実に引き戻された、凄惨すぎる光景に心が混乱していた。


「その様子だと……当たりみたいね?」


「ああ、幸い魔石がまだ残ってるから、それで観測魔法を使う、落下位置の予測はできるはずだ」


 四の五の言ってられない、あの悲惨極まる光景はなんとしても回避しなければならない。


「サーチ」


 俺は残りの魔石のありったけを使って、あの悪夢の原因を探した、おそらく点よりも遙かに高いところから落ちてくるだろう、それにあわせてとんでもなく広い範囲をサーチした。


 その結果は……


「三日後に王都だな……破壊するなら二日後の夜にここの直上にくるからそれがチャンスと言えばチャンスだが……正直星の破壊なんてやったことがない」


「分かってる、今までの文献に落ちてくる星を破壊した人間なんて居ないもの、だからもうすぐ……ああ、きたわよ」


 そう言って指さす先には超大型の馬車が小さな家くらいの荷台を引いてやってきた。


「まさかこれ全部……」

「そう、そのまさかよ」


 かぶせられていた布が払われると超高純度の魔石が大量に詰まれていた、おそらく国の一つを消し飛ばすほどのエネルギーが出せるはずの量だ。


「本気……みたいだな?」

「ええ、私たちの命運がかかってるからね……」


 ひどく重いものを持たされることもあるものだ、人類の命運ときたか……予測魔法では「その先」も予測できたが、およそ考えつく限りのひどいものだったので口にはしていない。


 空が厚い雲に覆われ大地が凍り付き動物が死に果てる、そんな世界にしないためにも全責任を俺が取らなければならない。


「やるんでしょ?」

「断れないな……」


 正直もの凄くやりたくなかった……しかし世界の命運と言うことは俺も関わることだ、あの予測上の世界でまともな暮らしをできる人間が俺含めているとも思えない、選択肢は無い。


 それから丸一日かけて、破壊魔法の魔方陣を広場に書いた、賭ける場所をすべて使い中心に置いた魔石から全エネルギーを取り出せるように用意した。


 パニックを防ぐため住民には新しい事業、としか説明していなかった。不審がるものも居るだろうが、リリエルさんとスートさんの私兵が立ち入りをブロックしてくれたおかげでスムーズに事は運んだ。


 もう誰と誰が敵対しているかなど関係なしにここに魔石が集まった、寄付、着弾予定地区からの支援、その他いろいろで魔石の量は国から支給された量の倍にもなっていた。


 そして決戦の夜。


「マティウス、怖くないの?」

「怖いに決まってんだろうが! やるしかないから全力でやるんだよ! 俺は誰も彼もが死ぬような未来を認めたくはないんでな」


 呆れたようにフィールは俺の隣から離れ魔方陣の外に出た。

 予測によると残り三十秒……

 五、四、三、二、一


「ヒュージデストラクション!」


 古代魔法を大量の魔石と共に撃ち出した、その結果……

 数秒後に分かることになった。

「マティウス……壊せたの?」


 フィールが駆け寄ってきたので俺は空を指さした。


 そこには大量の星屑がきらめきながら飛び交い、地上に落ちる前に燃え尽きていた、それは流れ星の雨で、この上なくきれいな光景だった。


 そうしてちょっとしたお祭り騒ぎになりつつも予測日は何事もなく終わりみんな安堵したのだった。


 何が起きたかを知るのは貴族と王家、それとわずかな占星術師たち、フィールの話では「星屑の奇跡」などと呼ばれているようだった。


 俺は安心感から数日寝込んだが後日、無事生きていることを底抜けに青く染まった空を見ながら実感するのだった。

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