効率のいい金策方法

 現在、町で流行していることにフィールは頭を悩ませていた。


「マティウスー……なんか良い方法ない?」


「なにも」


 町では地下で闘技場と呼ばれるものが密かに作られそこで奴隷や腕に自信がある者を戦わせるというものだ。


 いや、別にこう言ったものがある町自体はあるのでそれ自体は問題ではない、むしろおまけでやっていることの方が問題だった。


 勝敗を予想して当たれば賭けた以上のお金が返ってくる、まあ要するにギャンブルだ。


 ギャンブルは経済を疲弊させるので良くないのだが、どうにも取り締まるのが難しい、何せ地下活動をしていて表向きは「ショー」の建前をとって客同士がやっていることで言い逃れを続けている。

「そうだ!」


 どうやらフィールがまたろくでもないことを思いついたようだ。


「マティウス! あなた確か変身魔法を使えたわよね?」


 とまあこんなわけで俺はヒョロヒョロガリガリの体型に返信して闘技場に登録する羽目になった。


 運営も手数料を取っているが、大穴が連続して出ることは想定していない、要するに俺が出場して連勝すればギャンブルは成立せず、ただのショー以上のものとして成立しなくなると言うわけだ。


 毎回勝つ奴が決まっていると皆がそちらに賭けるが手数料で商売をしている運営からすればリターンが1を割ると誰も賭けなくなるのでシステムが破綻してしまう。


 そうなれば運営が持ち出しでリターンを保証することになるがそんなことをすればやればやるほど胴元が損をするので運営もやめるだろうというわけだ。


 ちなみに、この闘技場は魔導師の参加を認めているが、魔力チェックが行われ、体内の魔力を数値化して予想の参考として提出される。だが、俺の体内魔力はゼロなためまったく問題がない。


 受付嬢が俺の変身した姿を見て言う。


「そのぅ……本当に参加なさるんですか? 規約で怪我や死亡をしても特別な保証はされないと決まってるんですよ?」


 基本死人が出ても闇に葬るため、そう決まっている。当然だろう。


「問題ない、登録を進めてくれ」

「は、はぁ……」


 渋々といった感じで受付は俺の登録を進めてくれた。そうして今夜、大穴の新人が登場する運びとなった。


「さあさあ! 今夜も始まりました! 戦闘力を疲労する時間です! 今回は大物が登場しますよ!」


 俺の向かいから出てきたのは筋骨隆々の大男だった、武器はブロードソード、胸当てくらいしか防具がないところを見るに俺のスペックを参照済みなのだろう。


「えー……、ではこちらも新人の登場です!」


 俺が前に出ると空気が露骨に盛り下がった、当然だろう、ローブにある程度隠れているとは言えヒョロヒョロで魔力ゼロの魔導師、おそらくここの全員が勝ち目はゼロと考えていた。


 とはいえ、相手のオッズは1.1、賭ければ確実に一割増えて返ってくるのだから賭けない理由もないだろう。 皆、決まり切った勝負でお金が増えると安心しきっていた。


「では、両者向かい合って」


「おいおい、いくら何でもこのスケルトン並みの男と勝負させるのか? ただの残虐ショーにしかなんねーぜ?」


「……」


 俺は無言を貫く。


「始め!」

「死ねやオラ!」


 大男が剣を振り下ろそうとするところで俺はロッドを取り出し魔法を使う。魔石は杖に内蔵してあるのでぱっと見は分からないようになっている。


「ボルトショック」


 俺の一言で剣に電流が流れ男は気絶した、少々気の毒だが死ぬほどの威力は出してないのでかまわないだろう。


 辺り一面が静まりかえる少しして審判が気づいたように男の状態を確認した。


「えー……対戦者の意識喪失により勝者、魔導師になります!」


 大量のブーイングが巻き起こったが俺は気にせずファイトマネーをいただきに事務所に行った。


 文句たらたらであったが、ルール違反はしていないと言うことで渋々賞金は払われた。


 それから一週間ほど、姿を変えつつ新参者として参加を続けたので、もはや予想できるギャンブルとしての闘技場は成立しなくなった。


 二週間後、誰も来なくなった闘技場は閉鎖をしていた。


「さすがね! マティウスならやってくれるって思ってたわよ!」


 フィールが俺を褒める、まあそれは良いのだが……


「なあフィール、闘技場で時々、深くフードをかぶった金髪の女を観客に見たんだが……?」

 言いたいことは分かるよね?


「さあねえ、そういう人もいるんじゃない? あそこは大層繁盛してたようだし」


 あくまでシラを切るつもりのようだ。


「ちなみにその女は俺が参加しているのをにこやかに見ていたそうだ、しかも試合をめちゃくちゃにしたのに笑顔を崩したことは一度もないそうだぞ?」


 これはバーゼルさんからの情報だ、なにやってんだあの人……

 ひゅーひゅーと口笛を吹いてそっぽを向くフィール。


「俺は別に賭け事が悪いと言ってるんじゃない、ただ俺にも少しばかり分け前があっても良いんじゃないかと思ってな」


 ちなみにバーゼルさんは雰囲気で俺が出ているのに気づいたらしく俺の試合すべてに賭けてホクホク顔だった。


 フィールもまあ……それなりに儲けたのだろう。


「しょーがないわね! 三割よ! 三割! それ以上はなし! いいわね!」

 俺はニヤリと密約をかわし、それなりの追加報酬をもらったのだった。

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