VSドラゴン

「ドラゴンが出たって!」


 フィールが大声を上げて俺に主張してくるがしれっと無視をする。


「ねえーマティウス! ドラゴンよ! ど・ら・ご・ん! 聞いてる?」


 ああもうしょうがないなあ……


「聞いてるよ、命が惜しいから討伐なら受けないぞ」


 ちなみにドラゴン討伐経験はあったりする、あまり思い出したくもないトラウマレベルの強敵だったので今回の件からは全力で手を引きたい。


 減りゆく魔石、消耗する仲間、全然弱らないドラゴン……


 思い出しただけで気分が悪くなるほど厄介な敵だった、しかもその上依頼者が承認でできれば捕獲してくれと無茶ぶりをされていた。


 さすがに商人も回収用に持って行った檻を木の枝のごとくメキメキやられてからようやく討伐に依頼が切り替わったのだが、まあとにかく面倒なことこの上ない相手だった。


「あっれー? マティウスビビってるー? 何でも魔石があれば討伐できるんじゃないのー?」

 ガマンガマン、安い挑発に乗って命を危険にさらすことはない。


「あ、そういえば私ドラゴン討伐の依頼出してたんだけど受けた人居たよ? えーっと……「バーゼル」さんだったかな?」


 俺はその発言に飛びついた!


「マジで!? あのバーゼルがドラゴン討伐受けたのか? 正気かあの人!?」


 バーゼルさんはギルドでも名のある戦士で結構な記録は持っている、問題はそこじゃない、昔あの人にピンチを救われたことがあるんだ。


 あのときはマジでやばかった、バーゼルさんの魔石差し入れがなかったら全員死んでたな。

 とまあ借りがあるので放ってもおけないだろう……気は進まないが……


「わかったよ! 受ける! 受けます!」


 フィールは頷いてドヤ顔をした。

「よろしい」


 こいつどこで俺とバーゼルさんのつながりを知ったんだ? 確かにあの人がいるなら俺は受けるけどさ……?


「まああの腕利きの戦士さんが居ればマティウスも安心って事かな? さすがに単独は心細かったの?」


 え?


「なあ、何でバーゼルさんに依頼をしたんだ?」


「え? あの人が一番の腕利きってギルドで聞いたからだけど? マティウスも来るっていったら「それなら安心だ」って引き受けてくれたよ?」


 マジかよ……驚きの事後承諾を見た……ひでえ契約法方だな……つーか俺が受けなかったらどうする気だったんだ?


「ま、マティウスはなんだかんだいいつつ私の依頼はちゃんと受けてくれるからね!」


 いい笑顔でフィールはビミョウに外道な事を言ってのけた。


 はあ……やるしかないなあ……


 俺は遺書の用意が必要かと考えて、それを出す宛先がないことに思い至り、今までそんな基本的なことである「死の危険」すら無視していたのだと思い知った。


 そうして翌日、フィールの邸宅の庭にて……


「バーゼルさんって女の人だったの?」


「お前は依頼を出すのに何も考えてないんだな……」


「ようマティウス! ひっさしぶりー! お前がいるならドラゴンくらいなんとかなりそうだな!」


 絶望的な信頼感……その信頼は要らなかったよ……

 というか、根本的な問題がある。


「なあ、何でここには俺とバーゼルさんとフィールしかいないんだ?」


 まるで「三人だけで」ドラゴンを討伐するみたいな雰囲気なんだけど……


「そりゃあこのメンバーでの討伐だからね? 私は魔石の現物支給はできても討伐隊に払う現金はないんだよ? だから一番の腕利きを一人って頼んだんだし?」


 マジですか……三人でドラゴン討伐、しかもフィールは魔物もまともに狩れない戦力でやるのか……死ぬぞ?


「まーわたしゃマティウスが来るっていうから来たんだけどね、アンタ回復も攻撃もできるし、お嬢さんが魔石を大量に持ってるって言うからさ、正直出る幕すらないかなとも思ったんだけどね?」


 要らないです、その信頼感……


「そうそう、マティウスは今まで何でも討伐してきたからね! 大体何でもいけそうだし?」


 はっはっはと笑い合うバーゼルさんとフィールの隣で俺は心が凍り付きそうなほどテンションが低かった。


「はあ……もうやるしかないんだな?」


 そしてフィールが残された退路を断った。


「もちろんじゃない? 私父様と母様にドラゴンの鱗やお肉を渡すって約束でバーゼルさんの依頼金出してもらったんだよ? 今更引いたら私はともかくマティウスとかクビだよ? 物理的な意味で」


 物理的な意味でクビですか……なんかその辺に買い物にでも出かけそうな雰囲気でドラゴン討伐しちゃうんですか……ああ、命の価値とは一体……


「じゃあレッツゴー!」


 とまあそんな空気よりも軽いのりでドラゴン討伐への旅は始まった。


 目的地はスタイン領、ヘルム火山、レッドドラゴンが最近住み着いたらしい。


 まあ野生の生き物が住むこと自体は知ったこっちゃないのだが、ドラゴンだけあって住み着いてから火山が活性化しているらしい。


 すぐに噴火等の気配はないそうだが不安になるのでできれば討伐して欲しいと嘆願が領主宛に上がってきたらしい。


 本来であれば国軍を動かすような事態なんだが、このフィールさん、「できます」の一言で討伐を請け負ってしまったのだった。こうして三人を乗せた馬車は決戦の地へと向かい走って行く。


 長生きしたいんでもっとゆっくりでいいんですがね?


 とまあこういうときに限って時間という胃のは早く感じるもので、肌に火山の熱気が伝わってきた。


「暑くなってきたねえ……お嬢さんと二人ならもう少し脱ぐんだけど……」


 この人は暑さの方が命の危険より重要らしい。


「マティウスに限って大丈夫ですけどね? 私の魔石供給がないとポンコツですし」


「ははは! 言うねえ!」


 この二人はこの後何と戦うかわかっているんだろうか? ドラゴンだぞ、あの超デカい、クソ熱いブレスを吐いて、ミスリルの剣も歯が立たない超生物だよ?


 とまあ俺たちが馬車で到達できるところから降りて徒歩になったが熱気はどんどん上がっている。


「あづいね……マティウス、冷却魔法使って」


「私からもお願い、熱くて死にそう」


「アイシングエア!」


 もうやけくそになって貴重な戦力の魔石を浪費して俺たちの周囲の空調を行った。


 もう知ったことか! ドラゴンでも魔王でも何でも来い!


 そうして歩いてたどり着いた火口にはドラゴンが鎮座していた……


「ぴゅるる……ぴーぴー」


「なんだこのカワイイ生物は?」


 見た目はフィールの膝くらいまでの大きさのトカゲのようだが……


「見ればわかるでしょ? レッドドラゴンだよ?」


「なんだい? 依頼書もまともに読んでないのかい? レッドドラゴンの「幼生体」が住み着いて困ってるって書いてあったろ?」


 ええ……この情けない鳴き声しか出さないカワイイ生物がレッドドラゴンなの……そりゃあバーゼルさんも受けますよね……


「殺すのか? なんか正直気が進まないんだけど……」


 小動物くらいの強さしか感じないんだが、なんだか暴力を振るっているようですごく気が退ける……


「うーん、思ったよりちっちゃいし、確かマティウスってこの前兄様と姉様をまとめて閉じ込める魔法使ってたよね?」


 ん? あれで閉じ込めろというのか? しかしあの魔法は空間の二乗に比例して魔力を消費するのでドラゴンを入れるほどは……


「ま、ドラゴンが人になついたって例もあるみたいだし、鱗は少し剥がせばいいじゃない? お肉だって尻尾は切っても再生するでしょ?」


 よくご存じで……


「でも成体になってなつかなかったら……」


「そのときはマティウス、どーんとやっちゃって!」


 どうやら未来の俺に責任を全力で押しつける気のようだった。


「おうおう、かわいいねー、おねえちゃんだよー」


 バーゼルさんもノリノリでドラゴンの相手をしている、ここでドラゴンを始末したらすごい悪者みたいじゃないか……


 そんなことを考えている間に鱗をペリペリと剥がしている、脱皮するのかちょうど剥がれそうなところが合ったようだ。


「マティウス! 尻尾切るからこの子に回復魔法かけたげてね?」


「え? ああ……」


 もうどうにでもなーれ……

 スパッ……ピーピー……「ヒール」……さすがはドラゴン、治療するだけで魔石が一個石になったぞ。


「じゃあ……しばらくおとなしくしててね、マティウス?」

「はいよ、「ディレイジェイル」」


 俺は時間遅延魔法を使った牢獄へとドラゴンを入れた。


 多少ではあるが成体になるまでの時間が延びるのでその間になついてくれることを祈ろう……

 俺はもうやけっぱちになりながら叫んだのだった。


「ドラゴン討伐たっせーい!」


 その声は覇気がなかったが、助かったという喜びだけはこもっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る