フィール、戦う
「ねえ? マティウスばっかり人望があってずるくない?」
フィールは唐突にそんなことを言い出した。いや、人望ってものは行動の結果だと思うのだが……
こいつは確かに俺のスポンサーだけれどあまり前線には出てこない、見える活躍がなければ支持もそれなりだろう。
「そもそも俺も別に人望は無いぞ?」
フィールがだだをこね出した。
「えー! だってこの前学校に派遣したときマティウスだけ感謝されてたでしょ? 本当はあそこで私への感謝が届くべきだと思わない?」
そんなことを言われても……だったら現場に出ればいいのでは?
「私も感謝されたい! 尊敬されたい!」
そんなことを言われても……
「じゃあ今度、ギガントスネークの討伐でしたっけ? 依頼されてたでしょう? フィールも一緒に来て討伐に貢献すれば目立てるんじゃ?」
フィールは露骨に嫌そうな顔をする。
「だってそれ死ぬやつじゃん! 尊敬はされたいけど命はかけたくないの!」
俺はいくつかプランを考える。
フィールが安全に、かつ目立つ形で活躍させる……難しいな。
「俺の手柄はフィールの手柄みたいなもんだしそれでいいのでは?」
「えー……だってそれだと指示だけ出してふんぞり返ってるみたいじゃない? 私にも手柄が欲しい!」
「しょうがないな……依頼の機嫌は一週間以内だったな? 三日ほど時間をくれ」
ぽかんとしているフィールだが思いつく限りの方法ではこれくらいしか無い。幸いギガントスネークは戦ったことのある魔物なので必要な戦力も計算できる。
「じゃあフィール、予備の騎士用装備を一揃い集めてくれるか? 後はなんとかするから」
「え? そのくらいならできるけど……?」
めんどくさいが雇用主の言うことに逆らうこともできないしな。幸い魔石はたっぷりある、これだけあればいけるだろう。
がちゃがちゃ
「マティウス、騎士用装備一揃い持ってきたわよ? で、これをどうするの?」
「魔法マシマシにかけて全戦で戦っても全く問題の起きない装備にする」
尊敬を集めるなら敵と華麗に戦う花形になるのが早い、バックサポートはとても重要な役割なのだが、あまり賞賛されることは無い。
「じゃあフィール、お休み」
「あなたは?」
「俺はこいつの強化をしてるよ、二日もあれば大丈夫だろう、余裕もって三日って言ったけどな」
「じゃあお願いね!」
そう言って部屋を出て行くフィール、多少ずるいかもしれないが顧客満足度を上げるためだ、うん。
『エンチャント・プロテクション! エンチャント・マジックバリア! エンチャント・アンチグラビティ エンチャント・アンチポイズン……etc」
そうやってありったけの防御魔法をただの騎士用装備にかけていった……三時間ほど上位魔法で強化したところで一つ目の魔石が石になった。
すぐに新しい魔石に持ち替え、さらに防御系魔法を中心に付与していく。人間の魔力ではとても足りないが、幸い魔力源が外付けの魔石になっている俺からすれば、魔石を交換するだけで全回復同然になるのでとても都合が良かった。
二日目は騎士用のただのロングソードに冷気魔法をガンガン付与していった、幸いギガントスネークの弱点は分かっている、冷気を浴びせかければ動きが鈍くなるので冷気魔法はぴったりだ。
「エンチャント・アイス! エンチャント・パワーアップ……etc」
そうして二日目も魔石を大量に消費して見た目は一般的な装備の超豪華装備が完成した。
魔石はクズからそれなりに用途のありそうなものまで十個ほどを消費した。
そうして疲れ果てて明日の大仕事に考えを巡らせながら眠った。
「よし! いよいよ私が大活躍する日ね!」
俺の特性装備に身を包んだフィールが得意げに言う。本来の重さならフィールでは動くのにも難儀するものだが、反重力魔法で主さを打ち消しているので身軽に動けているようだ。
剣にも大量にエンチャントしているため、軽くて切れ味の鋭いものになっている。少なくともギガントスネークの鱗くらいは切り裂ける切れ味のはずだ。
「目的地は?」
俺が聞くとフィールは軽く答える。
「辺境の採石場ね、結構魔石や貴金属もとれるらしいけどギガントスネークが住み着いちゃってなかなか掘れないようになってるらしいわ」
なるほど、採石場なら木は刈ってあるので太陽光が直接差し込む、しかも寝床の穴付きというわけか。そりゃ住み着くな。
「ねえマティウス? 私、騎士団はエリートって聞いてたんだけど案外装備は軽いのね」
「軽くないって、魔法の力で軽くしてんだよ」
「へー」
ちなみに採石場は一つの村のように採掘者とその家族が住んでいるのでギャラリーは十分にいる。
元が辺境同然だったからか辺境へは日をまたぐことなく馬車が着いた。
俺たちが馬車から降りると採掘場の責任者がやってきた。
「領主様! あのギガントスネークを退治してくださるんですね? ありがとうございます! あの……お二人以外の戦力は……?」
依頼は討伐のみ、基本的に巨大モンスターを単独で討伐することは少ないので、俺たちが二人しか居ないことを不審に思っているのだろう。
「安心なさい! 私が蛇なんて完璧に討伐してあげます!」
フィールは堂々と宣言する。
「まさか……領主様直々に? 危険です! 考え直してください!」
「安心しなさい! 今の私は不死身よ!」
まあ実際あれだけ強化すれば負けようがないほど強化したからな、蛇相手なら全く問題は無いだろう。
「ちなみにこちらは「サポートの」マティウスね! 「サポート」だからね。
ことさらにあくまで俺が補助であることを強調しつつギガントスネークの潜っている巣穴を見やった。
「ふむ……敵はあそこですね……」
周り一帯木が切り倒されて隠れようも無いのだからあの穴以外ないだろうという突っ込みはやめておいた。
「しかし……死者も出ている難敵ですよ? 領主様の実に何かあったら……」
フィールは意に介さず敵の居るであろう場所をにらむ。
「そう気負うなよ? 大丈夫、その装備なら負けないから」
当然でしょうと言う風に鼻を鳴らしてカツカツと敵のねぐらへと歩いて行った。
鉱山無いから光る赤い目が二つ、ぎょろりと光ったかと思うとギガントスネークがその姿を現した。
大人十人くらいを締め上げられそうな太さと大きさで、普通の相手ならびびって逃げるような相手だ。
フィールは出てきて早々に締め上げられる。
責任者はアワアワと惑っているので解説をしておく。
「安心してください、フィールはあの程度の攻撃ものともしません」
「は、はぁ……」
心配はしているが、よく見るとフィールは余裕の顔を浮かべていた。蛇程度の筋肉で曲がる鎧じゃないからな。
「フィール! 剣抜いて突き刺せ!」
俺が指示を飛ばすとフィールは鎧で強化された筋力で腰の剣を抜いて目の前の肉塊に突き刺した。
グエエエエ
蛇のくせに結構な大声を上げて力が抜けていった。筋弛緩魔法なんてなんの使い道も無いと思ったが、付与には使えないこともないんだな。
フィールはギガントスネークの頭部に近寄っていく、冷気と魔法の効果で動きはほぼ無い。
「あなたは領民を殺しました、だから死になさい」
ザクッと首を切って落とした、断面はきれいにすっぱりと切れて飛んだ。
いざというときに俺が支援魔法を使うプランも合ったが幸い必要ないようだな。
フィールはこちらへやってきて「やったわ! これで死んだものたちも救われるでしょう」と優雅に言った。
そうしてフィールの望んでいた賞賛が抗夫たちから上がったのだった。
いい気分でわいわいと騒いでいるフィールを見ながら、調子に乗らないことを切に祈るのだった。
そうして期間後の夜……フィールは俺の部屋にやってきた。
「どうした? 何か問題があったか? お礼の手紙ならもうしばらくかかるだろう?」
「ちがうの!」
フィールは目に涙を浮かべていた。
「あの蛇を切った感触が忘れられないの! 私! あんなにモンスターでも命を取るのが気分の悪いことなんて知らなかった! どうしても剣を刺したときの感触が手から消えないの!」
「フィール、人は生きていくのに時には何かを殺すことが多い、手を汚すしか方法が無いこともある。そんなときに決断は待ってくれない、いずれ来る日のためにあの蛇を指した感触は忘れないでおけ」
ぐずるフィールを慰めて部屋へと帰し、そういえば俺も初めて魔物を倒したときの感触は忘れてないなと考えるのだった。
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