先生になろう!
「俺が魔道士学校の指導!」
フィールが俺に頭を下げてきたかと思えばとんでもないことを頼んできた。
どうやら最近のフィールの活躍(大体後始末は俺)が広まって魔道学校で演習を手伝って欲しいと頼まれたらしい。
こいつはすっかり気をよくして二つ返事で引き受けたそうだ……
「おねがい! 私のメンツに関わるの!」
「それは頼み事か? それとも依頼か?」
「そうね、依頼するわ、それなら断らないでしょ?」
よく分かっていらっしゃることで……
そういうことで俺は魔道士を育成する魔道学校に臨時講師として呼ばれることになった。
「こちら、あの天才魔法使いのフィール・スタイン様お付きの魔道士のマティウスさんです」
「マティウスです、よろしくお願いします」
そこにはそれなりの家の出であろう良家のご子息ご息女がそろっていた。
貴族とはいえまともに教育を受けなかった俺に教師役が務まるとは到底思えないのだが、「魔石五割増しで渡すから!」と押し切られてしまった。
「何か質問は……「はい! どうすればフィール様お付きほどの魔道士になれるのですか?」
食い気味な質問を元気そうな男の子がしてくる。
といわれてもそもそも才能と魔石頼りの戦闘スタイルだったのであまり語れることは無いんだが。
「そうだな、日々の鍛錬のたまものだな」
実際のところパワープレイしかしていないのだが、才能だなどと少年少女の夢をおるのも忍びない。
しかし……子供たちのキラキラした目が性根の腐った俺には突き刺さって痛い。
これだから子供は……大人はもっと汚い手段も目的も持っているというのに、全く知ったことではないと見える。
「じゃあ今日一日の約束なので時間の都合もあるから行程で演習しよう」
強引に質問を打ち切って演習に移行した。
フィールの魔法の才能のなさをうっかりしゃべった日にはどうなるか分かったもんじゃ無い。
「まず、炎の基本魔法、ファイアーボールから見せましょう」
ローブから内部に魔石の埋め込まれた杖を取り出し「ファイアーボール」を唱える。
火炎弾が当たった地面のガラス質が溶けてキラキラしている。フィールめ、大きな魔石はいらないと言っただろうが……
流れ込んできた魔力が想定よりかなり多く、基本魔法なのに上級魔法を使った跡のようなものが残ってしまった。
あらかた、「フィール様」とか呼ばれて調子に乗って複数個の魔石を杖に仕込んだのだろう。
杖から流れ込んできた魔力は複数種類合ったので、いくつかの石をまとめて埋め込んであるときの魔力の種類だった。
俺のファイアーボールを見た子供たちは「さすがフィール様のお付きです!」だの「お付きの人でもこれだけすごいならフィール様はどれほどなんでしょう!」などと妄想の類いが始まっていたので俺は早めに別の魔法を見せることにした。
それほど派手で無くて、子供たちでも使えそうな魔法……よし!
「ライトニングボルト」パシッと電流が流れ、気に当たって霧散した。よし、これくらいならできるだろう。
「じゃあ今のを目標に自分でやってみようか?」
今程度のことなら自分でもできそうだと伝わったのか、みんな熱心に呪文を唱えていた。うん、呪文を唱えるのは俺が気合いを入れるためで別に無言でも撃てることは黙っておこう。
「せんせー、できました!」「俺も!」「私もできました!」
皆が口々に成功報告をしてくるので安心していたところ一人の生徒が必死に杖をふるって全く何も出ていなかった。
おかしいな? ここに入るのは魔法適性があるもののみのはずなんだが。
「スキャニング」 こっそりと少女の魔法適性を確かめると炎属性のみが極端に高く、他はあまり高くは無く電撃に至ってはゼロだった。
俺は少女に近づきこう言った。
「向き不向きがあるし、別の魔法を使ってみてくれるかな? 例えば「ファイアーボール」とか」
少女は今にも泣きそうな目で言った。
「でも……私じゃ先生ほどすごい魔法は使えませんし……」
どうやらはじめに撃ったファイアーボールが基準になっているようで、あれほどの魔法を誰でも打てると勘違いしているようだった。
俺は優しく少女を励ます。
「人には向き不向きがあるよ、炎を出せない人間が大きな氷塊を出したり、逆だってよくある。自分に合った魔法を使った方がいいんだ」
少女は戸惑っていたようだったが覚悟を決めて一つの魔法を撃った。
「ファイアー……ボール」
杖の先にゆっくりと火球ができてゆき、それは次第に赤から白色に光り出した。少女はまだ気づいていないが周囲はすごい魔法を期待と不安の入った目で見ている。
ポンッ
気の抜けるような音で杖の先から離れた火球はいくらか進んでプラズマとして地面を溶かした。
「「「…………」」」
少女を含めた数人がぽかんとしながら見ている、少女自身も自分の使った魔法の強大さについて行けてないようだった。
そして数秒の後、歓声が上がった。
「すげーな! そんな魔法使えるんなら隠すなよ!」
「すごいです! これならフィール様とは行かないまでもリリエル様のお付きくらいにはなれるんじゃない?」
「あの……彼女は本当にあんな才能を持っていたんでしょうか?」
臨時でない「本物の」先生が俺に尋ねてくる。
「人は時々、自分でも何ができるか分からないものです。それに魔法はメンタルに直結しているので自信が無いとそれが影響します。これで自信をつけてくれれば他の属性が使えるきっかけになるかもしれませんよ」
そう言って若い才能たちを見渡す。
皆が喜び、笑い、時々けんかをする、そんな普通の生活がここにはあった。きっとそれは貴重なもので……それを守るのは領主のフィールたちの役目なのだろう。
ならばフィールのお付きである俺も、彼女たちの「日常」を守る義務があるのではないだろうか?
そうして魔法の適性の高い子、ピーキーな子、平均的な子。
それぞれの特性を生かした戦い方を教えて最後に一番大事なことを話しておいた。
「皆さんは魔法の適性があり、それを生かした職に就くかもしれません。それは先生としても嬉しいことです、しかし、皆さんはまだ誰かをあやめるような使い方を考える必要は無いのです。それは私たち大人の役目であって、皆さんはそれが誰かのためになるような使い方をしてください、それが領主家のフィール様の願いです」
ややあって拍手が起こった、みんな嬉しそうにしている子や、俺が今日限りの担任なのを残念がっている子も居た。そして地味にフィールの株が上がっていた。
「「「「「ありがとうございました!!!!」」」」」
そうして惜しまれながらも俺は学校を後にした。
後日『まてぃうすせんせーありがとうございました』と生徒の寄せ書きが届き、すこし涙が流れた。
俺みたいな生き方をするのは俺一人でいい。この子たちには魔物も戦争も関係ない世界で生きて欲しいと思うのだった。
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