魔物討伐スコアアタック
「父様と母様が私たちの実力をみたいと言っています」
「そうか、頑張れよ?」
ん? 『たち』?
「もしかして俺含めてか?」
一応聞いておく。
「当たり前でしょう? あなたがいないと私には実力なんて無いんだから!」
堂々と胸を張って言うフィールに多少あきれた。
実力が無いのを堂々と言ってどうするんだ……
まあ、事実なんだろうけど。
「はぁ……分かったよ、フィールの親は依頼主の親だからな、実力って魔力か?」
「というか、戦闘能力ですかね? 兄様と姉様が私が最近調子に乗ってるってチクったみたいで……」
ひどい理由だな……依頼は依頼だから別にいいんだけどなあ。
しかし、フィールの両親に会ったことはまだ無かったな、フィールの両親といえば実質資本家なので媚びを売っておくのも悪くないだろう。
「分かったよ。で、どんな魔法を見せればいいんだ?」
フィールは少しためらってから答えた。
「ああ……うん。魔物の討伐数を見せて欲しいんだって、兄様と姉様とも競争させるらしいわ」
ああ、あの二人か……いかにも張り合ってきそうなメンバーだな。
別に俺はかまわないのだが……
「いいのか? 家族とわざわざそんなことで競うのは危ないんじゃないか?」
フィールは忌々しげに言った。
「兄様と姉様は部下がいるからね、全力を挙げて数の暴力に出る気みたいね」
数は争いにおいてもっとも基本的でわかりやすい力だ、二人が数で圧倒できるならもちろんそっちを選ぶだろう。
「いいんだけどなあ……」
俺は渋るしかなかった。
「どうしたの? いっつもやる気満々なのに?」
討伐数で競うとどうしようもない問題があるんだ。
「討伐の証拠が要るだろ?」
「まあ、それはそうね。自己申告なんてやったら言ったもんがちだしね?」
何を聞くのかと言ったように聞いてくるが、そこに一番の問題があるんだ。
「討伐の証拠集めがキツいんだよな……討伐数ならでかい魔法撃っとけば数は稼げるんだが……それやると証拠もろとも消え去るんだ……」
フィールが今気がついたというように驚いていた。
「あれ? じゃあどうやって証拠集めするの?」
一応討伐用に即死呪文は存在する、アンデッドやゴースト以外ならよほど大物でなければ一発で殺せる強力なやつだ。
「辺り一面の魔物を殺して証拠収集は手作業だな……」
うええ、とフィールが露骨にいやな顔をした。
気持ちは分かるんだが……さすがに魔物全種類に対応した討伐の証拠を集める呪文なんていう、汎用性のかけらもないピンポイントな呪文は無いんだ。
「じゃあ、数が多い兄様と姉様が圧倒的に有利じゃない?」
「そうだな、殺し合いなら絶対に負けないが、こういう細かい作業にいちいち対応した呪文は無いんだ」
フィールはとても焦り始めた。
「じゃあ、もしかして……勝てない……?」
方法が無いわけじゃないが……
「どうしても勝ちたいなら魔物もろとも皆殺しくらいしかないな」
「全員?」
「そ、誰も彼も人間もモンスターも全員」
俺のにべもない答えにとても困った顔をするフィールだった。
「やばいじゃない!? どうするの!? 私父様に『勝ちます』って自信満々に言っちゃったんだけど?」
「素直に負けを認めるのが一番手っ取り早いと思うが?」
「なにか!? 何か方法はないの?」
あるっちゃあるけど……成功率低いんだよな……
「分の悪い賭けだが無いこともないぞ」
「どうやるの!!?」
悔い気味に質問してくるフィールだが、この方法はあまり気が進まなかった。
一通り説明するとフィールはとてもいやそうな顔で言った。
「それ、私がめっちゃ悪役じゃない?」
「だって俺がやったらやばいのは分かるだろ?」
ため息を一つついて覚悟を決めたようだった。
「分かった、そのプランに乗るわ。だから勝ちなさい!」
「じゃあ下準備しとこうか?」
「はあ……万能の魔法って無いのねえ……」
渋々といった感じでフィールはスートさんとリリエルさんの部屋へ向かったのだった。
そうして少しした後……
「あれだけ言っといたから多分乗ってくるわね……何でこんな役を……」
「時には謀略も必要なんだよ」
そう言って肩に手をぽんと置いて慰める俺だった。
翌日、俺は初めて領主様夫婦に会った。
「君がマティウスか、フィールから噂はよく聞いているよ」
「あらあら、どんな屈強な方かと思ったらそうでもないんですね」
領主様たちは俺とフィールを見やってからルールの説明をした。
「では今日はこの平原の魔物の駆除を頼むぞ。あくまで魔物の駆除が目的で、兄妹の優劣をつけるものではないぞ」
そう言って俺たち三グループを眺めた。兄も姉も恭しく頭を下げているが俺たちへの殺気は隠そうともしていなかった。
「じゃあ、あなたたち、お願いしますよ?」
ご婦人が言った後に領主様の言葉ですべてが始まった。
「では討伐開始!」
『スピードアップ!』
加速魔法を俺とフィールにかけてその場を急いで離れる。幸い平原は広いので領主様たちの『目が届かない』場所はいくらでもあった。
わざと気配隠蔽を全く行わず砂煙と轟音と供に俺たちは平野へ消えていった。
スートさんとリリエルさんは……
「逃げたぞ! 追いかけろ!」
「あっちです! 叩き潰しなさい!」
むき出しの敵意を持って行動を始めた。二人とも俺たちを『不慮の事故』を起こすため躍起になっている。
どうやらフィールが恨みを大分買っていたのか、昨日の挑発が聞いているのか、あるいはその両方か、なんにせよ事態は俺たちの手のひらの上をなめらかに滑っていった。
領主様が見えない丘の裏側にたどり着いたので、体裁を整える程度に派手にホーンラビットや、マッドマウス等をいくらか駆ったところで、主賓の二人とその部下が集まってきた。
「フィール! さすがに昨日のは許せん! その魔道士共々痛い目に遭ってもらうぞ!」
「あなたはどうすればあんなひどいことがいえるんですか! さすがに昨日のは看過できませんよ!」
ご丁寧に部下全員を引き連れて俺たちのところへやってきた。
俺は昨日「適当に挑発しとけ」と言ったのだが、何を言えばここまで怒らせることができるのだろう?
「なあ、何を言ったんだ?」
「おおっぴらに言ったらやばいワードですよ?」
いくつか思い当たることはあるが、言ってはならない言葉も兄妹だけあってよく分かっているらしい。
「それについては聞かないが……さっさと済ませるか」
『ビッグジェイル』
巨大な閉鎖空間に、その場のフィール以外を閉じ込めた。
そう、詰まるところ、二人がまとめて行動不能になればいい、そのために兄と姉を挑発しておけと頼んだのだった。
結果はこの通り……
「ここまでうまくいくとはなあ……チョロすぎだろ? メンタル攻撃は結構受けるぞ?」
俺は味方からさえ渋い目線を受けていたので多少のことでは気にしないが、貴族ともなると直球の非難を受けることも少ないのだろう。結果、全勢力を閉じ込めることに成功した。
「じゃーあとはてきとーに魔物を殺して二人で証拠集めだな」
「そですね、しかしどうやるんです?」
「こうだよ」
『キルオール!』
派手な一撃で生命力が一定以下の周囲の魔物がまとめて死んだ。殺すだけなら簡単なんだよなあ……
ちなみにスートさんとリリエルさんはここではない空間に閉じ込めているため、この魔法の影響は受けない。
チャキ、チャキ……
俺とフィールはナイフを引っ張り出して一番面倒な証拠集めを始めた、ホーンラビットなら角、マッドマウスなら尻尾、一カ所しかない部位を切り取って集めればいいだけだ。だけなのだが……
「うえー……血なまぐさいです……! 汚いですよぅ……」
先に根を上げたのはフィールだった、ほかの二人なら部下にやらせたんだろうが、こんなズルをした以上目撃者を増やしては困るため俺たち二人以外雇われた人がいなかった。
そんなわけで結局八割方俺が刈り取る羽目になった。
単純作業は心を殺してやるだけなので楽と言えば楽だった。
そうして太陽が地平線にかかる頃。
『リリース』
空間を開いて全員を解放した。
「ひえぇ……」
「助けて……助けて……」
どうやら真っ暗な空間に半日ほど閉じ込めただけでも二人には十分過酷な環境だったらしい、ある程度修羅場になれている部下と違ってわかりやすく狼狽していた。
「じゃあ帰るか?」
「そうですね」
帰りはのんびりと歩いて帰投したのだった。
そうして俺たちの討伐成果を見た領主様は驚いたようだった。
「二人でこれだけ集めたのか!? この辺りにはビッグリザードなども出ると聞いたが……それらしいものがあるな、一応聞いておくが不正はしていないんだな?」
「はい! 私たちはちゃんと討伐しましたよ!」
胸を張って言うフィールだが、嘘は言っていない。『討伐は』したのだからな。ちょっと他二名たちを閉じ込めただけで……
「そしてスートとリリエルはこれだけの頭数を揃えてこれっぽっちなのか?」
「は、はい。私の全力です……」
「申し訳ありません父様……」
二人には俺たちが集めた中で小物をいくつか渡しておいた、ゼロだと逆に怪しいからな。
「ふむ……どうやらフィールが成長したという噂も本当らしいな」
どうやらこの少女は俺とで会ってわずかな期間で成長したと噂になっているらしい。少なくとも身体的には育った気がしないので、精神面の成長のことだろう。
「何か失礼なこと考えました?」
フィールが俺の脇腹をつついて聞くが俺はノーコメントを貫いた。
「ではこれより帰還する! 皆、ご苦労だったな!」
実際身体的に苦労したのは俺とフィールだが、他のみんなはメンタルに深い傷を負ったようだったのでそっとしておいた。
そうして帰宅後……
「いやー! マティウス! よくあんな卑怯な作戦思いついたわね?」
すっかりご機嫌のフィールが褒めてるんだかけなしてるんだか分からないことを言う。
「全部あれだけ怒らせたフィールのおかげだよ、むしろよくあんなに怒らせられたな?」
「皮肉のつもりかしら?」
「さあてね……?」
そうして二人で今日の成果を軽く祝った後、俺の魔石代と上乗せ報酬を払ってフィールは出て行った。
どうやら俺一人で兄と姉の率いていた大隊以上の成果を上げたらしい、一番高いのは人件費で、二人の配下の一日の報酬の方が俺に払った魔石代より高いらしい。なるほど、それなら俺がでかいのをぶっ放した方が効率がいいのも道理だ。
その日の一日の終わり、俺は血なまぐささを風呂で落としてから、最近では日常となりつつある柔らかなベッドに飛び込んだのだった。
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