お金で解決できないことなんてありません!

 現在、鞄にいっぱいに詰まった魔石を持ちながら、フィール嬢の護衛をしている。


「お嬢様、あまり目立たない方がよろしいかと……」


 クソでかい馬車で移動しているので、ここに要人が乗ってますよ! と宣伝しているようなものだ。

 しかもご丁寧に王家の紋章までつけている、要するにこの娘は爵位持ちの関係者ということだ。


「敬語はいらない! 私のおつきなんだからもっと堂々としなさい!」

「は、はい」


 困ったお嬢様を乗せて俺たちの乗った馬車は王都へ向かっている、まず聞いておかなければならないことがある。


「なんで俺を雇うんです? もっと腕のいい魔道士を抱えてるんじゃないですか?」


 フィールは少しさみしげな顔をして言った。


「そういう者はね……みな兄様や姉様にあてがわれるんですよ……私のおつきには余り者しかいなかったんです、もちろんろくに魔法も使えない連中でした」


 ん? 兄妹姉妹の居る貴族なのか?


「じゃあなんであんなところにいたんです?」


 フィールは少し迷ってから言った

「魔獣をな、ちょーっと手なずけて私の使い魔にすればみんな驚くんじゃないかと思って、ちょっと召喚の儀式をですね……」


 あー……あかんやつですね……


「あなた自身は魔法を使えないので?」


「私はさっぱりですよ、なのに才能がある者たちは皆もう仕える相手が決まってるんです、私の選択肢は余り物で諦めるくらいしかなかったのでちょっとずるをしようと……」


 俺がいなかったらどうなっていたのだろう? 思うにろくな結果になってないとしか考えられないが。


「でもマティウス、あなたはお金があれば魔法を使えるのでしょう? どの属性が得意とかあるんですか?」


「いえ、大体全部いけます。まあ魔法の規模次第で消費する魔石も大量になるので大技を撃つ機会はあまりありませんでした」


 フィールはほぅ……と頷いてから言った。


「私の家は金持ちでして……お金だけはあったんですよ、悲しいかな魔法の才能には全く恵まれず……」


 悲しい顔をして言う、それはそうだろう。魔法の才能次第で王宮に仕官することや、国軍に参加することの可否も大きく左右される。才能がなければ平民同然の暮らしを余儀なくされるからな。

 最近の状況から察するに景気が悪くなって財力が下がると後は魔力や軍事力で決まってしまう身分差という者がある、おそらくフィールは才能がなかったのだろう。


「でも! お金だけはあるので安心してください! バーンと大きい魔法撃たせてあげますからね?」


 そんな状況でも、諦めないこのフィールの態度には、才能がなくて腐っていた俺の性根にはまぶしすぎて顔をそらした。

 しばらく経って……


「ここが私の家です!」


 そこには宮殿と呼んで差し支えないであろう豪邸が鎮座していた。


「ええっと……フィールってすごいお嬢様だったりする?」

「ええ、アルベルト・スタイン公爵が父ですからね」


 しれっととんでもないことを宣言した、貴族のなかでも上位じゃねえか! どうすんだよ!? 俺何にもできないよ!?


 すでに泣きそうな気分の俺の手を引っ張ってフィールは邸宅の中へと招き入れた。

 玄関出で無刈るのは執事かメイドだと思ったら、なんかきらびやかな、というかケバケバしい服に身を包んだ女が俺たちを出迎えた。


「あら、フィールったら平民を連れ込んでなにをする気? あなたのような落ちこぼれに家の名誉を汚されると困るのだけど」


 やたら敵意のある口調でこのおばさ……妙齢の女性は言った。


「あらあら、姉様、このものの魔力を見てから言ってほしいものですね? あなたが連れている有象無象よりよほど頼りになりますよ?」


 フィールは意外と攻撃的な性格らしい、でなきゃ内弁慶なのか……どちらにせよこの流れは……


「そう、では私の従者と決闘でもさせてみますか?」


 決闘!? この家の人間は血の気が多すぎやしませんかね……?


「いいじゃあないですか! 姉様に私の人を見る目の良さを教えるいいチャンスですね」


 姉様とやらは青筋を立てながらお付きの者に何やら命令していた。


「じゃあ、お願いしますね、マティウスさん?」


 逃げたい、全力で逃げ出したい。お金に目がくらんだ少し前の自分をぶん殴ってやりたい。

 え!? 貴族のお付きと決闘? 殺されるんじゃ……


「魔石は十分に買い込むように早便で伝えてますから、がっつり姉様の目をひんむいてやってください!」


 逃げ場はなかった、いや待て。十分な量の魔石? じゃあ転移魔法で逃げることも……


 この場から逃げだそうと考えてフィールを見るともうすっかり勝った気でいた、純粋な笑顔を俺に向けている、いや、逃げ……はぁ、しゃーない。やってやるか。


 最悪負けても魔石の量が足りなかったと言い訳はつく、まあ公爵とはいえ魔石をそんなにたくさんは持っていないだろう、生活用具を稼働させる以上を持つくらいなら魔道士を雇うからな。


「あ、そうそう。これが急ぎで買い集めた魔石です? 足りますか?」


 そう言って俺にでかい鞄を渡す、恐る恐る中を見るととてつもない純度の魔石がみっちり詰まっていた。これだけあれば山の一つも消し飛ばせそうだ。

 俺の困惑の顔を見たのかフィールが不安そうに聞いてきた。


「あの……足りませんか? 私の所持金で買えるだけ買ったのですが、やはり姉様や兄様にお金を握られてまして自由になるのが……」


「大丈夫だ、任せておけ。これだけあれば相手を絶望させるには十分だ」


 そう言って俺はニヤリと口角を上げた。

 数刻が経ってから、俺とフィールの待合室に執事が入ってきた。


「フィールお嬢様、リリエルお嬢様が従者を呼び集めたようです、その……この者で問題ありませんでしょうか? やはりむやみに死者を出すことは……」


 言葉を濁しているが要するに戦う前に降参しろって事らしい。ああ、あのケバいお嬢様リリエルって名前なのか。


「マティウス、問題は?」


「全くない、むしろオーバーキルしないように気をつけるくらいだ」


「そういうことよ、私たちは戦うわよ」


 執事もお嬢様の言うことには逆らえないらしく、時計があと半周したら中庭の決闘場へ来てくださいと言いその場を後にした。


「一応聞いておくけど、あなたなら勝てるのね?」


「これだけ魔石があれば問題ない、むしろ殺さないように減らした方がいいくらいだ」


「ふふふ、やっぱりあなたは変わってるわね」


 そうだろうか? 今まで、何度も出会いと別れを繰り返したが雇い主は全員俺の「実力は」認めてくれた。


 皆が口を揃えて言うのは「君は高くつきすぎる」というコスト面についてばかりだった。つまりフィールの公爵令嬢としての財力があれば俺の魔法は撃ち放題だ、なにも問題はない。

 そうして時計の針が半周した頃、俺とフィール、そしてリリエルとその従者「たち」が決闘場で相まみえていた。


「姉様、どなたがマティウスと戦うんです? 一番の腕利きを選ぶのでしょう?」


 リリエルは何のこともなさそうに宣言した。


「ここに居る「全員」よ? もちろん勝てるのでしょう? 「優秀」なのだから」


「マティウス、ごめんなさい。まさかこんないかさまを仕掛けられるとは……その、謝りますか?」


 俺の答えは決まっている。


「問題ない、全員でかかってこい、ただし、命の保証はしないがな」


 俺の挑発をハッタリと捉えたのかリリエルは下品な笑い方をして命令した。


「全員、「マティウス」とやらを殺しなさい、泣いて謝れば許してあげようかとも思ったのだけれどしょうがないわね」


 従者全員が俺にまとめて襲いかかってくる、とりあえず殺さないように戦意をそぐか。


「インプルーブシールド」


 俺の周りに強固なシールドが張られる、鞄の魔石が一個ただの石になった。

 従者の飛ばした炎や風、石や氷の礫がどんどんと弾かれていく。


「へえ……言うだけのことはありますね……」


 なんだか青筋が増えたリリエルが悔しがっている。


「諦めたらどうだ? そんなこの初級シールドすら破れないんなら勝負は明らかだろ?」


 俺はそう言うが皆さんやめる気は一切ないらしい、俺をただの平民と思っている連中は中級魔法を撃ち出した、もちろんシールドに全部弾かれ霧散した。


「だから無駄だってのに……」


 そこにリリエルの怒声が響いた。


「あなたたち! 何のために数を集めたと思ってるの!? 全員で収束攻撃しなさい!」


 従者の一人が言う。


「しかしそれでは本当に死んでしまいま……」


「かまわないわ! どうせ平民の命などゴミみたいなものでしょう? 選ばれし貴族との差を見せつけなさい!」


 なりふり構わなくなったらしい、攻撃がいったん止み、前方に魔力の塊ができる。


「すまんな、上からの命令なんだ……」


 一人が申し訳なさそうに言ったので俺は気にするなと返しておいた。


「お互い上司に恵まれないな」


 そう言ったところで攻撃の準備が止まるでもなくチャージは進んでいった。


「「「「パーフェクト・ブラスター!」」」」


 従者が全員で撃った攻撃は俺のシールドを包み、圧迫し、俺の周りの空間を削り取って消えた。

 俺が何事もなかったかのように経っているのをリリエル側の全員が恐怖の入り交じった目で俺を見ていた、なぜか俺の後ろのフィールは誇らしげに無い胸を張っていた。


「なんか失礼なことを言われたような気がするけどまあいいわ、やっちゃいなさい! マティウス!」


「はいよっと」


 俺はプラズマ球を生み出して相手に放った、特に呪文名等は決めてなかった、使う機会が無かったからね!

 そうして俺の手元に小石が三個ほど生まれ、放り捨てると向こう側に立っている人間はいなかった。


 あれ? 生きてるよな? 俺は従者全員の脈を測り、生存を確認するとその場を後にした。

 決闘場を出ると涙目のリリエルとドヤ顔のフィールがいた。


「これでいいのか?」

「バッチリよ! 私の従者にふさわしい働きっぷりね!」


 いい笑顔で俺を迎えてくれたフィールに礼をして二人でその場を後にした。

 翌日聞いたところによると、幸い俺もやり過ぎてはいなかったようで、あの場の全員に死者も後遺症が残ったやつもいなかったらしい。

 後味の悪い結末にならなかったことに安心して俺は与えられた部屋で眠りについた。

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